第16話 合宿と殿下3




いよいよ合宿も最終日を終えた。

今晩は泊まり明朝ここを発つ。

最終日ということもあり労いのお食事会をしてくれた。

僕達はサルガス殿下と色々身の上話なんかをしていた。

殿下のお父上、セギヌス王太子殿下は5年前の空鳴きで調査隊として出兵して以来戻って来なかった事。だからメイサは父親の顔を知らない事。それ以降過保護になってしまった事。僕は僕で魔法が具現化できない事等、色々話した。

するとメイサがやってきた。


「お兄様!シリウスは私の家来…じゃない、友達なのよ!」


「そうなのか?」


不思議そうに殿下が僕を見る。


「あ、ええ、まあ成り行きといいますか何と言うか」


「そうか、メイサだけでは君達も大変だろう。年も近いし予も友人になろう」


そう言うと独占欲なのか嫉妬心なのかメイサが暴れ始めた。


「しかし殿下、友人になっても僕達は許可が無いと城にも入れませんから」


これは僕の逃げ道だった。


「ならば許可証を発行してやろう。予の友人としてなら入場出来るだろう」


何ということだ。逃げ道が塞がれてしまった。


「いえいえ恐れ多い…」


「そうよそれが良いわ!そうしなさいよ!」


メイサにダメ押しされてしまった。


「で、でも家には馬がいませんから頻繁に来る事は出来ませんよ」


負けじと喰い下がった。


「ならばそなたの家に厩を作ってやろう。馬も用意する」


何という職権乱用!!

結局殿下は父上にも許可を取り付け、カストル侯爵に指示までしてしまった。


「それに、そなたが予の戦闘訓練に付き合ってくれ」


城の兵と訓練しても過保護だから活きた剣術を学べない、と言う事らしい。


「それよりシリウス。お主は学園へは行くのだろう?」


「そうよ貴方達入学しなさいよ!」


王立学園か。考えた事も無かった。

けどプロキオンとスピカは勉強が好きだから向いているだろうな。


「特に考えてません。それに…勉強は…苦手なので」


「そうか、勿体無いな」


「僕は行きたいな」「私も!」


「プロキオンとスピカが入学したら私と同級生になるわね!」


一瞬プロキオンの顔が曇った。


「何よーその顔はー!」


「えっ、いやゴメンナサイ!」


「あははははは」


そして楽しい時間はあっという間に過ぎていった。



明朝、城の皆に見送られ家路についた。

馬車では思い出話や今後について色々話した。

母上が僕の魔法は具現化しないモノで色々調べてくれるという事。

プロキオンは今後使える魔法の種類を増やす事。

スピカも同様で弓の訓練にも力を入れるというものだった。


後日お城から本当に厩を作る職人が送られてきた。

たった数日で厩が出来てしまった。

更に馬が4頭も送られて来た。

そして王宮の使者さんから入城許可証を渡されてしまった。


「これは…お礼のため、一度殿下にご挨拶に行ったほうが良いですよね?」


父上と母上もそれを勧めた。

日程を決めて、母上と僕達は馬に乗って王宮へ出向いた。父上は仕事で王宮に居る。

自分で馬に乗って市街地を抜けるのが初めてだったのでちょっと恥ずかしかった。

王宮に付くとすんなり通行出来た。

馬宿の場所を守衛さんに聞いて馬を預け入城した。

チョビ髭さんが出迎えてくれ、暫くすると殿下とメイサ、アケルナル様が来た。

殿下にお礼をすると母上はアケルナル様と話をすると言って僕達だけで王宮を見て回る事にした。しかし殿下には護衛、メイサには侍女がずっと付いてくる。

成る程これは大変だ…気になって仕方ない。

粗方王宮を見て回って殿下の部屋で休むことになった。

しかし部屋には護衛も侍女も入って来なかった。


「ふうぅ〜、見たであろう。ずっと着いてくるのだ」


やはり殿下もメイサも窮屈らしい。

王立学園は寮制なのでそれもあってか直ぐにでも入学したいそうだ。


「茶でも飲んで少し休もう。菓子も好きに食べて良いぞ」


マカロンだった…


「シリウスは本当に学院へは入学しないのか?」


「はい、あれから少し考えましたが行かないと思います」


「父上と母上はなんと言っているのだ」


「まだ話していません」


「それだけの力が有るのだ、騎士科なら苦労はすまい」


学園は各科が有り「騎士科」「魔法科」「政治経済科」「神学科」の4コースをそれぞれ選択して単位を取得していくのだとか。


「陛下はどの科に行かれるのですか?」


「予は騎士科だ。もっともお祖父様は政治経済科に行かせたいらしいがな」


「私は魔法科よ!魔法科しか勝たん!」


「僕も!」「私も!」


「僕は、あまり勉強が好きじゃなく、学位とか貴族とかにも興味がないので」


「では将来はどうするのだ」


「強いて言えば騎士でしょうか?」


「ならば学園へ入れば良かろう」


「いえ、騎士と言うのは父上の様に強くなりたいと言う事であって強くなれれば騎士でなくても良いんです」


「そうか、では強くなってどうするのだ」


またこの質問か…正直どうするって事では無いんだよなぁ


「正直…わかりません」


「そうか、ならば冒険者にでもなるのだな?」


更に考えた事も無かった。


「お主の父上も元は冒険者から立身出世したのだろう?それに冒険者はそこらの騎士よりも強い者がゴロゴロ居ると聞く」


そうか、冒険者なら好きなだけ戦えるし毎日が修行だ。何故今まで気づかなかったのだ。

父上の強さに憧れるならば先ずは冒険者にならない手はない。


「僕は、冒険者になりたいです」


「あえて茨の道を行くか。お主らしいな」


その後は殿下と剣術の訓練をしたりメイサと魔法訓練をしたりして遊んだ。


「もう帰るのか?」


「はい殿下、今日は有難う御座いました」


「いやこちらこそ楽しかった。それと…」


「予の事はサルガスと呼ぶ事を許す」


「では、サルガス様…」


「様は要らん」


「…サルガス、また遊びに来ても良いかな?」


「勿論だ。何時でも歓迎する」


「当然よ!毎日来なさい!」


「そんな無茶なぁ」


「あはははははは」



このシリウスとサルガスの出会いが遠い将来この世界を大きく動かす事になるのを、今はまだ誰も知る由はなかった。



              少年期編 完




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