第14話 合宿と殿下1




今日は朝から天気が良い。

こんな日は戦闘訓練や乗馬で身体を動かすのが一番だ。


「今日は魔法の種類を勉強しましょう」


何故座学なんだ…

スピカの洗礼以降ほぼ毎日3人で母上の授業を受けている。

それに伴ってスピカは馬で通うようになった。


「…なので簡単に分けると、道は単一属性、導は属性の融合、術はエンチャントや触媒や魔法陣って事になるわね」


「は、母上!大変です!あ、兄上が白目向いて泡を吹いてます!!」


「もう、シリウスったら」「あはははは」


午後からは魔法実技だった。

僕は具現化は出来ないので、父上に特別メニューをもらっていたのだ。それは投擲練習だ。


「今日はいよいよ属性魔法の実技よ。先ずは防御魔法ね」


「攻撃魔法じゃないのか…」


「あら、攻撃魔法よりよっぽど役に立つわよ。自分もそうだけど、人を助ける魔法よ」


「私は覚えたいです!」


「1つの属性でも色々な防御魔法があるの。カバー範囲が小さいものから順にシールド、ウォール、ジェイルね。因みに火属性にジェイルはないわ。そして基本4属性の呼称は水がアクア。風はエア。土がストーン。火がファイア。各属性上位魔法がアイス、ブリーズ、アース、フレイムになるわ。先ずはシールドからね」


「カペラさん闇はないんですか?」


「勿論あるわ、闇の呼称はダークね。上位魔法がカオスよ。ただチョット使い勝手が違うわ。魔法攻撃には無類の強さを誇るけど物理攻撃が一切防げないのよ」


「えーそんなぁ…」


「そこでエンチャントグローブよ。ただこれも万能じゃなくて込めた属性が使えるのは自分が使える魔法の2個下位に成っちゃうわ。ジェイルが使えてやっとエンチャントでシールドが使えるの。しかも魔力の消費が少し大きいのよ」


「じゃあ頑張ってシールドを作ってみましょう。大事なのはイメージ。最初は口に出すとイメージを集中しやすいかもね。成れると無言で発動できるわ」


「はーい」


「シリウスお待たせ」「母上、どうしたんですか?」


「私ずっと考えていたのだけれども、シリウスって無属性魔法なら使えないのかしら?」


「無属性って父上の身体強化とかですか?」


母上は具現化が必要無い魔法なら使えないかと考えていた。

無属性魔法は個性魔法とか言われる位、使い手の数だけ種類があるという。

同じ魔法でも掛かり方が全く違うので自分に合った無属性魔法を探すのは大変な事らしい。


「母上は何か無属性魔法は使えるのですか?」


「それが実はからっきしなのよ。あまり試したこともなくて」


「そうなのですか」


「それにしてもシリウス。あなた余所見しながら良くそんなに的に当てられるわねえ」


「え、そうですか?」


「あ、良い事思いついた。私がアクアボール飛ばしてあげるからソレ撃ち落としてご覧なさいよ。動かない的じゃ面白くないでしょ?」


「おおお、面白そう!!」


結局その日はずっと母上のアクアボールで投擲を練習していた。

凄く楽しかった。


訓練が終わる頃にはプロキオンもスピカも魔法シールドを作れるようになっていた。


その日の夕方、父上に無属性魔法について聞いてみることにした。

父上の身体強化は一つのスキルじゃないと言う事を知った。

基本のフィジカルブースト、動体視力向上のホークアイ、精神強化ののマインドスタビリティ。それらを状況に応じてバランス良く調整しながら戦っているのだそうだ。

更に状況に応じて土魔法のストーンスキン等で防御力を上げたり他にも色々あるのだと。

これらの魔法を同時に操作しながら戦うのは至難の技らしい。それこそ血の滲むのような鍛錬の賜物だろう。


「そうだ、今度城の練兵場で合宿訓練してみないか?」


「えええ、良いの?」


「ああ、許可を取っておけば問題ないだろう。それにスピカに弓も教えなきゃならないしな」


スピカはラナさんが冒険者時代に使っていたお古の短弓で弓術を練習していた。



後日皆で王宮の練兵場に向かった。

スピカは王宮に行ける事で激しく興奮していた。

練兵場につくと何故かアルデバラン様とアケルナル様が揃ってお出迎えしてくれた。


「おう、来たかシリウス、プロキオン。久しいな」


「2人とも元気だったかい?おや、そっちのお嬢さんは?」


「あ、スピカと言います。宜しくお願いします」


「私はアケルナルだ。こっちはアルデバラン」


なんと特別講師として2人が一緒に教えてくれる事になっていた。

しかしその横で同い年位の男の子と女の子がこちらをジーッと見ている。


「王太子殿下、王女殿下、こちらが以前お話したシリウスとプロキオンです。」


「サルガスだ」


「私はメイサよ!」


「は、はじめまして。宜しくお願いします」


急な紹介で僕達は動揺して挨拶が変になってしまった。

サルガス殿下は僕の一つ上の8歳。メイサ殿下はプロキオンと同い年で5歳だそうだ。

二人共「ザ・殿下」と言う様な出で立ちだった。


「殿下はお前達に興味が有ってな。今日は是非会ってみたいという事でお連れした」


「お前か、アルデバランに勝ったというのは」


ひえぇ、凄い高圧的だな。威厳と言うよりなんだか意地悪そうだ。


「いえ勝ったなんて恐れ多い。何度も相手して頂いて偶然1本取っただけです」


すると「ふんっ」といった感じで黙ってしまった。相当気難しい。


僕達は各練習場に分かれて教わることになった。

父上とアルデバラン様は僕を。

プロキオンは母上と、スピカはアケルナル様が見てくれるようだ。

サルガス殿下は僕を、メイサ殿下はプロキオンを見学する事になった。


「じゃあ早速、フィジカルブーストを教える」


「はい」


「まずは力を抜いて全身に魔力を巡らせる。出来たらその魔力で全身を力んでみろ」


魔力で力む…どういう事だ。


「身体は常にリラックスだ。呼吸は止めるなよ」



〜魔法訓練場〜

「じゃあプロキオン、シールドを作って」


「アクアシールド!」


「今から私がアクアボールを放つからシールドでしっかり受け止めてね」


「ええ、そんな!」


「大丈夫、加減はするわ」


「は、はい!」


母上がアクアボールを撃ち込むとしっかりシールドで受け止めるプロキオン。


「まだまだ行くわよ〜」


必死に受け止めるが何度も何度も撃ち込まれるプロキオンは次第に集中力が切れ始めた。

それでも何度も仕切り直しシールド訓練は続いた。



〜騎兵隊馬場〜

スピカは騎射(むまゆみ)の練習をしていた。

講師はアケルナル様だ。


「これはかなり高度な馬術を要するが故に戦場では無類の強さを誇る。聞けばスピカは馬が得意らしいな」


「はい、でも手綱を離して操った事はありません」


「ではそこからだな。まずは手綱を手にせず馬を自由に走らせてみよ」


「はい」


「曲がりたい方の鐙(あぶみ)を踏めば馬は勝手に曲がってくれる。あとは姿勢は膝でニーグリップして常に中腰で背筋を伸ばすように」


スピカはスグに指示された状態で常歩が出来ていた。流石だが、乗りなれない姿勢の為身体がキツそうである。


「そのまま聞きなさい。スピカは右利きだから常に左を向いて射る事になる。騎射は反対側が無防備になるから気を付けるように」


「はい」



各々がその道のプロに指導してもらっている。

なんて贅沢な体験だろうか。まだまだ体躯や力は子供だがそれを補う柔軟性がある。

だが何よりも皆楽しそうに訓練をしていた。

昼に差し掛かろうと言う時だ。

事件は突然訪れた。


「うわあああああああああ」


シリウスが突然倒れ蹲っている。

ベテルギウスもアルデバランも直に駆け寄った。二人共シリウスを見て驚きの顔を隠せなかった。

足が折れていたのだ。


「大丈夫かシリウス!」「両足共…」


隣の訓練場にいるカペラを呼びに行った。

慌ててカペラがシリウスの側に駆け寄ると険しい顔をしたが直に指示を出した。


「なるべく折れた足を真っ直ぐに伸ばして頂戴」


言われた通りベテルギウスが背中から抱え、アルデバランが足首を持って引っ張った。

そしてカペラが回復魔法をかけた。


「エアフラッドハイヒール」


殆ど見たことのない超上級融合魔法を使うカペラに全員が見とれてしまった。

その放たれる魔力の凄さ、いや美しさ。

愛する息子を必死に癒やそうとする母の姿。

何か神話の一コマをを切り取った様な、そんな場面に神々しさすら感じていた。


無事シリウスの足は治った。

しかしもう訓練は止めて休ませる事に。


そして一連の出来事を見ていたサルガス殿下は複雑な顔をしていた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る