第13話 母と魔法少女3
神殿につくまで穏やかな雰囲気で談笑していた。
母上とラナさんの間に座ったスピカは終始落ち着いていた。
ラナさんは元冒険者だったと聞いてなぜか納得してしまった。
弓の使い手で父上と母上はその頃出会って以来の仲らしい。
スハイルさんは加護を受けれなかったけど元々両親の問屋を継ぐつもりだったので全く気にしてない事など、面白い昔話を沢山聞いた。
楽しい時間はあっという間で神殿に到着した。
3度目の神殿はもはや珍しいものでは無かった。
半裸の石像も見慣れたもんだ。
中に入るとスハイルさんとラナさんが手続きをしに行った。
その間スピカは落ち着かない様子で母上の手をずっと握ったままだった。
プロキオンはいつも通りずっと本を読んでいる。
シスターがやってきた。
「準備が整いましたのでこちらへ」
洗礼の間へ入ると
居た居た!老司祭だ!!
名も知らぬ、友達でもない。
しかし何故か嬉しくなって手を振ってしまった。
しかし老司祭の顔はどうだろう。僕等家族を見て凄い顔をしていた。老司祭は老け込んだ。
スピカが困惑した老司祭に説明を受けた。
そして台座へ促された。
「スピカちゃんしっかりー」
「無理するんじゃないよ」
「スピカ頑張れー」
「頑張れスピカ」
だから何をどう頑張れば良いのか…
気の利いた事を言おうと思ったその時老司祭が怪訝な顔で僕の顔を睨んでた。
「う…スピカ自分を信じろ」
つまらないエールを送ってしまった。
老司祭の勝ち誇った様な顔が気に食わなかった。
「では両手を水晶へ」
いよいよ洗礼が始まる。
スピカが両手を水晶に添えると弱々しく光りだした。
失敗かっ!?
すると母上が声をかけた。
「スピカちゃん、魔力練習を思い出して」
すると水晶が…輝かない。
ダメか……いや、なんだあれ
紫?いや黒?部屋が急に暗くなった?
違う水晶から夥しい量の影や黒い霧が放たれてる。
「え、ちょ、これヤバいんじゃ」
不安になって隣の母上を見ると、両手を上げてヤッターと言わんばかりに飛び上がっていた。
老司祭も僕達の時ほどではないが「おおぉ…これはこれは」と驚いた様子だった。
やがて影は収まり儀式が終わったように見えた。
スハイルさんとラナさんが大喜びでスピカを抱き寄せて台座から引き剥がした。
「彼女の加護は…闇です」
闇魔法…
一見怖いと思われるかも知れないが、けして禍々しいモノでは無いのだと母上の授業で教わったことがある。
特に付与術式などが得意な属性で結構色々な事が出来る。別名「知の魔法」と言われる属性だと教わった。何が出来るかは教わったが…ごめんなさい母上。覚えてません…
そんな母上を見ると少しウルウルしていた。
「スピカちゃん…頑張ったのよ」
そうだ、スピカは頑張ったのだ。
「スハイル、ラナ。今日は時間大丈夫かしら?」
スハイルさんもラナさんも大丈夫らしい。
しかしこの流れはもしや…
「王立魔道具研究所に行きましょう!」
やっぱりか!
そういう流れか!
けど又ラーン所長と会えるかもという期待はあった。
結局、洗礼が終わり王立魔道具研究所に向かう事になった。
因みに今日は騎士の先導も無ければ急ぐ訳でもなくのんびりだ。
馬車で今後の事を話し合った。
先ず王立魔道具研究所が終わったらマイアの魔道具店に行く事になった。
そしてスピカは変わらずうちで魔法訓練をし、戦闘訓練も嗜むらしい。
つまり毎日うちで学ぶと言う事だ。
魔道具研究所に着いた。
僕等は顔パスである。
すぐにアルリシャさんが出迎えてくれた。
「カペラさんようこそおいで下さいました。シリウス君もプロキオン君も元気だったかな?おや今日は可愛いお客さんも一緒ですねぇ」
母上が事情を説明した。するとアルリシャさんはスピカを見て納得していた。
最初は緊張していたスハイルさんとラナさんだったが軽いノリと僕等の落着き様から安心したようだ。
奥の部屋へ案内された。
ラーン所長も居るので呼んで来てくれるとの事。ただ、大型の魔導装置の実験中で少し待って欲しいとの事だった。
お茶が出てきた。
茶菓子は無かった。
暫くするとラーン所長を呼んで来てくれた。
「おまたせして申し訳無い」
ラーン所長だ。
「急に押し掛けて申し訳ありませんでした。」
「いえいえ皆さんご健勝のようで何よりです」
母上が事の経緯を改めて説明するとふむふむといった具合で穏やかに話を聞いてくれてた。
「わかりました。スハイルさんラナさん、スピカさん。私は王立魔道具研究所の所長ラーンです。今からスピカさんの魔力を計らせて下さい」
そう言うとアルリシャさんが魔力計をテーブルに置いた。
ラーン所長が使い方を説明するとスピカは不思議そうに見ていた。スハイルさん達は若干警戒していた。
「アルリシャが手本を見せます」
そう言うとアルリシャさんが魔力計に手を添えた。
赤く光り出し魔力値が浮かんだ。
…1012
あああ、前回よりも上がってる!!
どういう事だろう…
ドヤ顔のアルリシャさんが仁王立ちしていた。
「ではスピカさん。同じ様に魔力計に手を置いて少しだけ魔力を込めて頂けますか?」
スピカが魔力計に手を添えた。
影のような、黒い霧のようなモノが魔力計から放たれた。
そして魔力値が浮かんできた。
…4392
高い!陛下の倍以上高い!!
「もう十分ですよ。手を離しても大丈夫です」
母上が至福の顔をしていた。
「スピカさんは類稀な才能を持っているようです。魔力値は既に宮廷魔道師と比べても遜色無いでしょう」
スハイルさんとラナさんが安堵の表情で喜んだ。
「しかし闇魔法は非常に珍しい属性です。勿論王家の光魔法に比べれば一般的ですが、それでも其の辺の人が持っている属性ではありません」
スピカが食い入るように聞いていた。
「余り知識を持つ者が居ませんので闇魔法を習得するのは困難なのです。宮廷魔道士には居ますが、わざわざ宮廷まで習いに来るのはオススメ出来ません。なので闇魔法を習得するならばカペラさんに師事されるのが適切かと」
スピカの顔が嬉しそうだ。
スハイルさん達も表情が明るくなった。
そして母上…流石完璧人間…
「さてもう一つ。カペラさん達はお気付きだったでしょうか、アルリシャの魔力値が少しだけ上がってます」
「そう!2上がってた!」
「そうですシリウス君。前回の魔力値は1010でしたが今回1012に成りました」
「魔力量って年齢に合わせて器が成長して増えるものですよね?」
「はい、カペラさんの認識も正しいです。しかしここ数日アルリシャにチョットだけ魔法訓練をしてもらいました。つまり訓練をや修練を重ねれば魔力量は上がると言う事です。適切な訓練を受ければもっと上がっていたでしょう」
「じゃあスピカの魔力量もまだまだ上がるって事ですね」
「人それぞれ向き不向きが有りますが、まだ5歳でこの数値です。才能に満ち溢れているのは言うまでもありません。勿論、シリウス君もプロキオン君も同様です」
すると母上が泣き出してしまった。
スピカも泣いていた。
よっぽど嬉しかったのだ。
皆で泣いてしまった。
母上の弱点は、愛だった。
それは一周回って強さだった。
ラーン所長にお礼をして王立魔道具研究所を出た僕等はマイアの魔道具屋へ向かった。
(カランカランコロン)
「いらっしゃいませ〜」
「こんにちはマイア、お邪魔するわね」
「カペラさんいらっしゃ〜い。アレレ〜珍しいラナさんも居るじゃないですか〜お久しぶりです〜」
「何年ぶりだろうね、邪魔するよ」
知り合いだったのか。
また母上が事の経緯を説明した。
「っでね、闇魔法の書籍を見れるかしら」
「ありますよ~」
やっぱ有るんだ。いや当然有るよな…
「魔道書ですか?魔導書ですか?魔術書ですか?」
え、そんなに?
「一通り見て良いかしら?」
「はい、かしこまり〜」
「アタシ等には魔法の事はサッパリだからね。悪いけどカペラに任せるよ」
待っている間、店内を見てると聖銀のナイフに目が止まった。何故か気になる。
ラナさんが声をかけてきた
「シリウス、それは聖銀のナイフかい」
「はい、前に父上が見てたので」
「そうか…」
「そう言えば聖銀の包丁って入荷してたりするのかしら?」
「聖銀の包丁は別注品なので発注しないと入荷はしませんね〜。っと、お待たせしました〜」(ドサッ)
こんなに有るのか…闇魔法書
「闇魔法は複雑なんですよ〜。習得もそうですけど、著者が各々別々の事を執筆するので結果書籍がゴチャゴチャなんです〜」
母上が本を物色…もとい、吟味している。
スピカとプロキオンも興味津々でつまみ読みしていた。
「これは何かしら?」
「あ、それはお勧めしませんね〜。呪術系なんで〜」
「反魂とか呪いとかかしら?」
えー、なにそれ怖い
「そうなんです〜。物騒だし、創作色が強い魔術書ですね〜」
流石にこれは買わないだろう母上…
「う〜ん、どれにしましょう悩むわ〜。ラナ、闇魔法は結構物入りになっちゃうけど大丈夫かしら?私も出すけど」
「お代は親のアタシ等が全部払うよ。だから気にせず必要な物を揃えてやってくれよ」
「分かったわ。ありがとうラナ」
母上の悩みっぷりが僕等の時とは大違いだ。けど母上がこんなに悩むのなんて夕飯の献立以上の難題なのだろう。
「ねえ、スピカちゃん。スピカちゃんは闇魔法で何がしたい?」
「え、わ、私ですか?」
「そう、スピカちゃんがしたい事を叶える本を買いたいのよ」
「私は、カペラさんみたいに成りたいです」
「うふふふ、何〜それ〜。スピカちゃんに私はどんな風に見えてるの?」
「私はカペラさんみたいな優しくて頭が良くてカッコイイ女性に成りたいです」
「そっかそっか〜。じゃあそう成ってどうするの?」
「え、あの、わかりません…」
「そっか。ありがとうスピカちゃん」
僕の戦士の時と同じだ。
目標はあるけど目標の先はない。
「マイア、この4冊をお願いできる?」
「はい毎度あり〜」
メッチャ買った…
「次は魔法の杖を見せてもらえるかしら?タクトでお願いね」
「はい〜タクトならこの棚から選んで下さい〜」
「スピカちゃん、この中から好きなものを選んでもらえる?」
「プロキオンみたいなのはダメ?」
「あれは重いし闇魔法には向いてないわ」
「そっかぁ、どれが良いかなぁ…」
分かる、分かるぞスピカよ。新しい武器は迷うよなぁ…
「この杖がピンク色で可愛くてスピカに似合いそうだね」
「それは南方で少ししか取れないクロウメモドキの木から作られた大変珍しい〜タクトです〜」
「プロキオンが選んでくれたならコレにしようかな。可愛いし」
そんな決め方で良いのか!
「じゃあ〜タクトの先端に大サービスでピジョンブラッドをお付けしますね〜」
「あ、あの…プロキオンと同じウサギの尻尾が欲しいのですが…」
「ありますよ~。う〜ん、じゃあ大大大サービスでオマケしちゃいます〜」
「いつも悪いわねマイア。あとエンチャントグローブとマジックケープをお願いね」
「はい〜毎度あり〜。全部で丁度金貨3枚です〜」
「あら意外とお買い得だったわね」
いや高いでしょう…
「ウサギの尻尾のチャームはケープに付けときました〜」
「ありがとうございます!」
何とか買い物も終わりやっと家に帰れそうだ。
その帰り、スピカは新しい装備でウキウキだった。
ケープに付けてもらったウサギの尻尾がプラプラ揺れるのが可愛かった。
魔法少女…誕生の瞬間だった。
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