第7話 屈服完了
「俺は剣聖のヴィクトルだ。俺と手を組んであの魔女を始末するならお前を将来を約束してやろう」
正確には剣聖の倅なだけで剣聖ではないヴィクトルが、バックでニヤニヤしている取り巻きとともに俺を勧誘してくる。
無論勧誘に乗るつもりはない。
なぜならヴィクトルたちは破滅が確定している泥舟だからである。
わざわざ夢と希望の溢れるアイリスサイドから乗り換える意味がない。
「お断りします」
「貴様! 俺が誘ってやっていると言うのに断るとは何様のつもりだ!」
「そうだ!」「従者風情が生意気だぞ!」「その身を持ってわからせる必要があるようだな!」
断りを入れるとヴィクトルが気色ばみ、取り巻きが追従して騒ぎ始めた。
ヴィクトルは拳を作って殴る気満々だ。
暴力には暴力で返すのが一番手っ取り早いが、俺の主人であるアイリスの評判を落とすことに繋がるのでNG。
だからと言ってこのまま殴られるのも軟弱な従者を従えている者とレッテルを貼られ、アイリスの評判を落とすのでNG。
なので俺は暴力を振らずにこいつらを屈服させる必要がある。
アイリスの従者としての気品を損なわずに。
「なっ!」
ヴィクトルたちに向けて糸を展開して、服だけを切り裂く。
「これは大変です。お召し物がバラバラに。もしよろしければ私が即興で縫い合わせて差し上げましょうか?」
「し、白々しいぞ! お前の仕業だろ!」
「私は服を断ち切るようなものを持っていないと言うのにそのような言いがかり。……お、これはいけません。御襦袢にもほつれが」
「ふざけるな! 下着はやめろ!」
突如服がバラバラになった生徒に救いの手を差し伸べる。
これが気品を損なわずに暴力も振るわない俺の暴力に対する対応だ。
ヴィクトルは実は女でしたと言う隠し設定があるのか、ただ胸が大きいのかわからないが、サラシとパンツといった格好で羞恥に顔を赤く染め、大声をあげる。
こいつの性別については知らないが俺は敵を女子供だからと言う理由で容赦するタイプではない。
「ふむ、私にはヴィクトル様の誠意次第で御襦袢がどうなるかは決まるような気がしますね」
「くっ、俺を脅すつもりか! 俺は剣聖だぞ!」
「脅しではありません。自然現象です。私の見立てではヴィクトル様が頑な態度をとって私を糾弾するのなら御襦袢がバラバラになり、ヴィクトル様が私にお召し物を「縫い合わせて下さい」と誠意を見して下さるのなら御襦袢は無事でお召し物は元通りになります」
「剣聖の俺が従者風情のお前に“下さい“だと!」
「ヴィクトル様、落ち着いて下さい! このままでは公衆の面前で恥をかくことになります! 奴の言うことを聞いた方が!」「入学早々に醜聞は根が深いものになります! よくお考えを!」「小さな恥と大きな恥をどちらを取るかは賢いか、ヴィクトル様ならお分かりになるはずです!」
ヴィクトルが難色を示すと周りのパンイチの取り巻きたちが、必死になって説得し始めた。
「おのれ! ぐう! ぐうううう!! 縫い合わせて“ください“!!!」
流石に周りの必死さに呑まれたのか、プライドの高いヴィクトルが悶絶するような声を上げて懇願した。
屈服完了。
「かしこまりました。ヴィクトル様」
──
「服が一瞬で元通りに.…!」
俺はヴィクトルたちの服を縫い合わせると踵を返す。
「変な気は起こさないで下さいませ。また服が破れるかもしれませぬ故」
殺気を感じたので忠告すると背後からヴィクトルの悶絶する声が聞こえてきた。
さて本来の仕事に戻るか。
───
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