第4話 『心スポ前日談』


 後日談があって、やっと筋の通る怪談がありますよね。


 心霊スポットへ行った後日談として、一緒に行った友だちが音信不通になっていたとか。

 怪現象の起きた場所から物を持ち帰ってしまって以来、おかしな現象が続いて、返しに行ったら納まったとか。

 有名な心霊スポットに、後日談付きの怪談は珍しくありませんね。

 でも、これは心霊スポットへ行こうとした日の、前日談なのです。



 暑さも厳しくなる季節。

 地元の友人たちに、近場の心霊スポットを見付けたから行ってみようと誘われました。

 同じ中学出身の友人が4人。僕を入れて5人で集まることに。

 中学時代は顔見知り程度でしたが、大人になってから一緒に遊ぶようになった友人たちです。

 進学先や就職先もバラバラでしたが、すぐに退職してしまったという共通点があって。

 フリーター仲間として、連絡を取り合っていました。

 そして5人中3人がホラー好きです。僕は違うんですけど。

 僕は勘が鋭い方で、時々妙な影を見ることもあり、怪談やホラーは苦手です。

 とはいえ、本当の心霊スポットへ、実際に行ったことはなかったんですよね。

 一度くらい、経験しておこうかな、なんて。

 その友人たちと遊ぶのが楽しいという理由が一番で、あまり深くは考えていませんでした。


 なんでも最近、ネット動画で見知った地名を聞いたのだとか。

 友だちのひとりが、6人乗りの車を借りてくれました。

 いよいよ明日、行ってみようということになっていた前日の夜。

 もうひとり、久々に連絡を取る同級生のY君から、

『〇〇行くんだよね?』

 と、短い文章が送られてきたんです。

 6人乗りの車だし、誰かがY君も誘ったのだろうと思いました。

 でも、なんとなく違和感があって。

 誰も返信しない内に、

『行かない方が良いよ』

 と、もう一度、短い文章が続きました。

 車も借りて待ち合わせ時間も決めていたのに。なんでなんで、って話になるじゃないですか。でも、

『あそこは、ヤバいよ』

 と、短文です。

「あの場所、行ったことある? ヤバい話、詳しく知ってる?」

 と、ホラー好きな友人のひとりが興味津々に質問をしていましたが、Y君からは、

『通信制限。明日話す』

 と、返信がきたきりでした。

 とりあえず僕たちも、決めていた待ち合わせ時間に集まってから、Y君に詳しく聞こうということになったんです。


 みんなとメッセージのやり取りを終えてからすぐ。

 なんとも言えない、寂しさのようなものが込み上げてきたんです。

 その時に、まさかと思ったんですけどね。

 すぐに、Y君の実家の電話番号から、僕のスマホに電話がかかってきました。

 ホッとしながら電話に出てみると、

『ごめんごめん、ケータイがちょっとさ』

 と、久々に聞くY君の声が笑っていました。

「Y君、久しぶり。大丈夫?」

 と、僕も笑いながら聞きました。

『うん。2組に寺の息子が居たじゃん。待ち合わせの時間ごろに、いかにも坊主って格好して境内の掃き掃除してるんだよ』

「マジで?」

 中学の頃にイケメンで有名だった同級生が、寺の息子だというのも懐かしい話でした。

 それなら、寺でイケメン坊主の同級生を見物してから、遊びに行く場所を改めて決めようかという話になって。

『俺、近所だから、寺の方に行ってることにするよ』

「わかった。みんなに伝えとく」

 と、答えて電話を切ると、すぐに僕は他の4人へ連絡しました。

 みんなも、イケメン坊主を見物するのは面白そうだと話していたんです。


 翌日、車を借りた友人の家に集まり、5人でY君の言っていた近所の寺へ行きました。

 寺の駐車場付近に、Y君の姿は見当たりません。

 でも聞いていた通り、坊主頭に作務衣姿の同級生が、ほうきを持って掃き掃除をしていました。

 みんなで境内へ向かって行くと、すぐに気付いたイケメン坊主が驚いた表情を見せました。

「うわぁ……懐かしい顔ばっかりだなぁ」

 なんて言いながら、坊主頭をポリポリ掻いて見せるので、みんな笑っていました。

「Y君に、お前が坊主になってるって聞いて、見物に来たんだよ」

 ひとりがY君の名前を出すと、イケメン坊主は一瞬、キョトンとしてから大きな溜め息を吐き出しました。

「お前ら、〇〇に行こうとしてるだろ」

 と、まさに行こうとしていた心霊スポットの地名を言うんです。

「なんだ、知ってたの?」

「知らないのはお前らだろ。Yのやつ、去年その場所で亡くなったんだ。今は、うちの墓に入ってるよ」

 と、真面目に言うんですよね。

「いやいや、3組のYだよ。昨日の夜、連絡きたし。お前、電話で話したんだろ?」

 そう聞かれても、僕は頷くことしかできませんでした。

 昨夜と同じ、なんとも言えない寂しさを感じていたんです。

 そこでやっと、誰がY君を誘っていたのかという話になって。

 やっぱり誰も、Y君と連絡を取り合ってはいなかったんです。

 昨夜、メッセージアプリのグループに入ってきた、Y君の短い文章は残っていました。でも、そこからY君の連絡先をたどることが出来ないんです。

 僕の通話履歴は『非通知』と、なっていました。昨夜は確かに、Y君の家の電話番号だと認識していたのに。

「Y君の実家の電話番号、登録した覚え無かったかも」

 僕がスマホを見下ろしながら呟くと、イケメン坊主は、

「Yの実家は駐車場になってるよ。ご両親は県外に引っ越してて、電話番号も変わってる」

 と、教えてくれました。


 そのまま僕たちは、Y君の墓参りをしました。

 Y家之墓と刻まれた真新しい墓の横に、Y君の名前と没年月日の刻まれた墓誌も建てられていました。

「Y君だ」

「……マジかぁ」

「中学卒業以来だったのに、Y君の声だってわかったんだよなぁ……」

 怖がることなく、騒ぐことなく。

 僕たちは、Y君の墓の前で手を合わせていました。


 心霊スポットと言われていた場所は、交通事故多発地域でした。

 Y君の言っていた『あそこは、ヤバいよ』という言葉が、何を意味していたのかはわかりません。

 道路際に花束が置かれている事が多いという理由で、心霊スポットにされてしまったのか。

 僕たちは『事故多発の理由は知らないが、用も無いのに行くべきではない』という結論に至りました。



 その日は手ぶらでしたが、花と線香を用意して、また改めてY君の墓参りに行くつもりです。

 亡くなったY君の名前を聞いて、僕たちが行こうとしていた場所を言い当てたイケメン坊主とも、もっと話をしてみたくなりました。

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見える人のミジカイダン 天西 照実 @amanishi

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