見える人のミジカイダン

天西 照実

第1話 『AIと吊り橋』


 自分は幽霊が見えるなんて、周囲に伝えている訳ではないんです。

 ちょっと不思議な体験は多い、と言う程度で。

 そのくらいにしておくと、信じない人に完全な嘘つき呼ばわりもされません。

 かまって欲しい可哀そうな人とも、何か見えちゃってるヤバい人とも思われにくい気がします。

 周りが社会人ばかりなので、怪談を聞かせて欲しいと言う人も少ないのですけど。

 近所にある心霊スポット知ってますか、とか。こんな話は知ってる? とか。私に聞かせてくれる人は時々いるんです。

 これは、そんな内のひとり。新卒のSさんという男性に聞いた話です。



 車で行きやすい山の途中に、真っ赤な吊り橋を見付けたそうです。

 特に運転しにくい山道という事もなく。近くにハイキンギコースか何かがあって、駐車場に公衆トイレと自動販売機くらいはある場所なのだそう。

 大学で知り合った彼女を連れて行って、良い場所見つけたな、と。

 人気ひとけもなくて。Sさんは、また友だち連れて来ても良いなぁなんて思っていたそうです。

 吊り橋の中央まで歩いて行って、彼女さんは景色を見たり写真を撮ったり。

 天気が良かったので山の向こうに街並みが見えて、少し遠いけど海も見えたようです。

 しばらく景色を見ていたら、彼女さんが吊り橋のワイヤーみたいな部分を見上げていて。

『AIとかより、こんな吊り橋を掛けられる技術の方が、逆に凄いと思っちゃうよね』

 って、彼女さんは笑って言っていたそうです。

 面白いこと言う子だなぁなんて思いながら、Sさんも『確かにー』なんて答えていたようですけど。

 その後すぐにSさんの浮気がバレて、彼女さんとは別れてしまったそうなんですね。

 浮気していたバイト先の女の子には、彼女が居ることを黙っていたそうで。

 要するに、二股していたのが片方の彼女にバレたから、もうひとりのバレてない彼女とだけ付き合うようになったなんて言っていましたね。

 その彼女は高校生だったそうなんですけど、車の助手席に乗せて、例の吊り橋に行ったそうです。

『ここ、穴場なんだよ』

 なんて言って。

 その日も良いお天気だったそうです。

 そうしたら、彼女が吊り橋のワイヤーを見上げて、

『AIより、こんな吊り橋を掛けられる技術の方が、逆に凄いと思っちゃいます』

 って、言ったそうです。

「最近別れた彼女も同じこと言ってたって、自分からバラしそうになりましたよー」

 なんて、Sさんは笑って言っていました。

 その時は偶然、同じことを言っていると思ったそうです。

 でも、すぐに別の彼女が出来て、同じように連れて行ったら、また、

『最新AIより、こんな吊り橋を掛けられる技術の方が、逆に凄い気がしてくる』

 って、言いだしたそうです。

 初めの彼女は大学で知り合って、次がバイト先の高校生で、その次は中学時代の同級生だそうで。

 SNSを見ても横のつながりは無いはずなのに、同じことを言っていてちょっと不気味なんですよねーって。

 本人は笑っていました。

「女性は、そんな風に感じるってことなのかと思って。今度、一緒に行きませんか」

 なんて。私も誘ってくれたんですけどね。

 丁重にお断りしました。



 もし私が、変なものが見えると言っているだけだとしたら、そういう話で誘えば釣れると思われてるなんて受け取り方をしたかも知れません。

 でも私が『不思議な体験は多い』と言っているのは、助けられる相手なら、出来る助言くらいはしたいと思っているからなんです。

 Sさんの周りには、女性の怨念が固まった黒い人魂ひとだまのようなものが、たくさん浮いて見えたんです。

 生霊いきりょうとも違う、現在進行形の恨みのかたまりのように感じました。

 あれは助けられないなと、思ったんですよね。


 吊り橋なんて行って、毎回、ちゃんと帰って来られれば良いですけど。

 ……今のところ、Sさんの後日談はありません。

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