最終話 妾はどこへでも


サザンガルド本家でシルベリオさんから結婚の許可を貰ったことを、屋敷で待っていたアドリアーナさんとビーチェに報告した。




アドリアーナさんは喜び、ビーチェは安心したのか、ぽろぽろと泣いていた。




「それにしてもよくあの人が結婚を認めたわよねぇ?どう説得したの?」




「……あ~…アドリアーナ?驚かずに聞いてくれ…シリュウ殿の姓はドラゴスピアで、コウロン・ドラゴスピア殿の孫だそうだ」




「……え!?シリュウさんあなた華族だったの!?」




「…どうやらそうらしいですね…華族だとは昨日ビーチェに教えてもらいましたけども…」




「……なんとまぁ……なるほど、それで義兄さんが許可したのねぇ…あの人軍記物大好きだし」




「…そうなのかや?」


シュリットさんから貰ったハンカチで涙を拭ったビーチェが聞く。




「そうよ、特にコウロン・ドラゴスピアが大好きで、コウロン・ドラゴスピアが使ったとされる槍とか剣をコレクションしてるのよ」




何やってんだあの人 




じいちゃん本人と会うと失神するんじゃないか




「……あの厳格そうな伯父様にそんな趣味が…あったのかや…」




「まぁ…これで結婚の許可が貰ってよかったよ。これで僕とビーチェは婚約者(公式)だね」




「…うむ!安心なのじゃ…まさかこんなに早くシリュウとの壁がなくなるとは…怖いくらい幸せなのじゃ」




「でも今後のこと考えないとね…身の振り方を決める前に身を固めたってシルベリオさんにも笑われたし」


「身を固めさせたのは、妾じゃし……シリュウが何者でも妾は気にせぬよ!妾が養うのじゃ!」




これはいけない。




妻に養わせるなんて、キングボアの糞以下の存在になってしまう。




そう腕を組んでウンウン唸っているとオルランドさんが切り出した。




「……シリュウ殿、君には成し遂げたい志が何かあるかね」


オルランドさんが僕に問う。




「僕の志は、この烈国の戦乱を終結させることです。その為に自分にできること、終結させる方法を見つけるために旅に出ていました」




「素晴らしい志だね、そしてとてつもない大業だ」




オルランドさんが言う。




サザンガルドの軍を司り、戦乱の現実を見知ったオルランドさんからすれば、僕の志は子供の夢物語だろう。




しかしオルランドさんが意外なことを言う。




「ならサザンガルド家に入らなくて良かったのかもしれない」




「どういうことです?」




「簡単さ。サザンガルド家はこのサザンガルドとその一帯を守ることが使命だ。もちろん領邦軍を率いて戦場に行くこともあるけど、それはこのサザンガルド一帯を守るために出陣するのだよ。戦乱の終結は国の領分だからね。それを皇国の人として、成し得るなら皇国軍に入り、戦争に勝つしかない」




地方の軍を預かるオルランドの言葉には説得力がある。


更に言葉を続けた。




「冒険者になるのもおすすめはしない。冒険者はあくまで依頼を受注するいわば解決屋だ。戦争にも参加することはあるが、あくまで一兵士や政庁の駒使いとして扱われることがほとんどだ。困っている人を助けることには向いているが、は向いていないんだ」




「…であれば皇国軍に仕官すると?」




「そうだね。仕官して一兵士から功績を挙げて、軍の最高幹部、王家十一人衆ロイヤルズイレブンになれれば、この戦乱を終わらせるスタートラインくらいには立てるんじゃないかな」




《ロイヤルズイレブン》




皇国軍を統括する大総督


皇家を守護する皇軍の大将、中将、少将、准将


最も多くの兵を要し、各地に配属される陸軍の大将、中将、少将


皇国の海を駆ける海軍の大将、中将、少将の




計11人の軍の最高幹部のことだ。


皇国軍の最高権力者であり、最高戦力でもある。


戦争を終結されるというならば、これくらいの地位は必要なのだろう。




そうして考えるとオルランドさんの言う通り皇国軍に入隊し、そこで力をつけるのがよさそうだ。




「妾はシリュウがどこへ行こうともついて行くぞ!シリュウならあっという間に大総督じゃよ!」




ビーチェが笑いながら言ってくれる。




「大総督は言い過ぎだよ」




僕は苦笑する。




オルランドさんがさらに教えてくれる。




「でもあながちビーチェの言うことは的外れではないかもしれない。というのも皇国軍の階級は上から大総督、大将、中将、少将、准将(皇軍のみ)、大佐、中佐、少佐となりここまでが"将校"と言われる階級で一隊を任せられる。その下は特級兵士・一等兵士・二等兵士・三等兵士となり”兵士”と言われる階級だ。将校になれるのは、華族のみでね。昇格する時に華族になったり、華族が将校に任じられるんだ。コウロン殿は前者で、一兵士から功績を重ね華族になったんだよ」




改めてじいちゃんの凄さを知る。




最後は大将だったと聞いたけど、本当に軍の最高峰の人なんだな。




「ベアトリーチェとの結婚の許可を貰いにセイトに赴くが、おそらくそこでシリュウ殿の存在が世に知れ渡る。コウロン殿の孫としてね。わざわざ入隊しなくても、皇国軍から勧誘されると思うよ。それも将校での待遇で」




「…え!?そうなのですか?」




僕は驚く。




じいちゃんの七光りで階級をすっ飛ばせるのか




「皇国軍の将校は華族じゃないとなれない法令があるせいで、華族を将校にあてがうことは珍しくないんだ。まぁ功績で華族に昇格することもあるけどね」




う~ん、華族は面倒だけども、こういう特権もあるのか。




「何にせよ、まずじいちゃんとセイトに行かないといけないですね」




「そうだね。文を書いてくれたらすぐに届けさせるよ」




「ありがとうございます。では部屋に戻って手紙を書いてきます」




そういうと僕は部屋に戻ろうとする。




ビーチェは当たり前のように僕についてきて、その様子をご両親が微笑ましく見ていた。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




ビーチェとあてがわれた部屋に戻り、じいちゃんに手紙を書く。




ビーチェは僕が寝ているベットに寝転がってゴロゴロしていた。




書く内容はたくさんだ。








旅立った日に、ビーチェと出会ったこと。






ハトウの街で、駐屯所の困りごとを解決したこと






サザンガルドまでの行程で、初めて見るものをたくさん見たこと






サザンガルド家のためにエンペラーボアを狩ったこと






ビーチェと結婚したいこと 






その許可はすでにビーチェのご両親と本家当主からいただいていること






じいちゃんにサザンガルド来てほしいこと






セイトに共に赴いて欲しいこと






沢山のことを書いたので、紙をたくさん使ってしまった。






書き終わったので、ベットを方を見ると、ビーチェが枕を抱きしめてこちらを見ていた。




「…終わったかや?」




「終わったよ。…う~ん」と背伸びをして




「そりゃっっ!」


「うわわああっ//」




僕はビーチェに飛び込んだ。




そしてビーチェを抱きしめて、胸に顔を埋めていた。




「ふぅ~久しぶりに文字をたくさん書いたから、疲れちゃった。ビーチェ成分を補充補充…と…」




「なんじゃその成分!//……まぁよかろう、よしよし…お疲れ様じゃ」




そう言って僕の頭を撫でてくれる。




「ありがとう、ビーチェ」




このまま幸せな時間が続けばいいのに




5分ほど抱き合った後、僕はビーチェに話を切り出す。




「ビーチェ、結婚の許可を貰ったけど、未だに僕は何者でもない。でもオルランドさんの話を聞いて心は決まったよ。ぼくは皇都セイトに行き、皇国軍に仕官しようと思う。戦乱の世に身を置き、いつ死ぬかわからない身だけども、それでも僕についてきてくれますか?」




「……もちろんじゃ。シリュウがいるところならば……妾はどこへでも行きます。連れて行ってくだされ、私の"旦那様"」




そう言って、笑うビーチェの顔は、出会ってから一番の満面の笑顔だった。








第1章 お転婆令嬢との出会い ~完~






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