第23話 甘えん坊将軍
「シリュウー!!!」
ビーチェが僕の名前を叫びながら駆け寄って来た。
その顔は涙でくしゃくしゃだ。
「……ビーチェ…僕…勝ったよ……はは…こんなにボロボロだけどね…」
「……大丈夫かや!……!左手が…!?リナ!すぐ手当を!」
僕の左手の傷を見て、ビーチェがリナさんを呼ぶ。
「かしこまりました。……では少し拝見させていただきます」
そう言うと僕の左手を取るリナさん
持たれた部分から痛みが走った。
「っ痛!」
「…っ…失礼しました!……これは重度の火傷でございます。すぐに流水で冷やしましょう。シリュウ殿、この辺に水辺はありますか」
僕は記憶を探る…この場所から近い水辺は…
「……ここから来た方と逆の方向へ5分程行くと、小川が流れているはずです」
「ではそこに参りましょう」
「……!…妾も付いて行くのじゃ!フランコはここで作戦成功の狼煙を上げよ!エンペラーボアの遺骸を他の魔獣から守るのじゃ!」
「かしこまりました。命に代えても守り抜きましょうぞ」
フランコ団長が力強く応えてくれる。
結局打ち合えなかったけど、この人は相当な実力者だ。
きっと魔獣から守ってくれるだろう。
「……フランコ団長、一応ハルバードをエンペラーボアに突き立てて、フランコ団長が倒したように見せかけておいてください。そうすればエンペラーボアを狩った者と魔獣が思い込み、威嚇になるでしょう」
「…はっはっは!シリュウ殿の手柄を横取りするようで忍びないですが、安全のため、突き立てさせていただきましょう!」
そう言うと持っていたハルバードを僕が頭上に付けた真一文字の傷に突き立てた。
「……あまり深く突き立てて、万が一肝を傷つけてはなりませんからな。こんなもので良いしょう」
「……ほれ!シリュウ…!早く冷やしに行こうぞ!」
そう言ってビーチェは僕の右腕を自分の肩に回して、支えるようにして歩く。
ビーチェに支えられながら、リナさんと小川に向けて歩き出した。
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エンペラーボアを討伐してからは、あっという間に時が過ぎたように感じた。
小川で冷やした後は、リナさんが持ってきた包帯で傷口を保護し、本格的な治療はサザンガルドに帰ってから行うことになった。
ビーチェが「父様に言って、サザンガルド一番の外科医に診せるから安心してくりゃれ!」と心配しながら言ってくれたので、僕は「ありがとう、流石ビーチェ頼りになるね」と笑いかけた。
狼煙を上げてから、おおよそ1時間程度でデフォナさんと運搬隊の兵士30名がエンペラーボア討伐現場に到着した。
やけに早いなと思っていたが、運搬隊はどうやら夜通しハトウまで移動し、本日早朝にハトウから泉まで移動していたらしい。
狼煙を見つけたのは、泉の場所からだったので、運搬隊が1時間程でここまで到着したようだ。
討伐したエンペラーボアと、結局くたばってたキングボア5体の遺骸を見て、運搬隊の兵士がどよめいている。
「……まじかよ…噂には聞いていたが、マジでこんな化け物を狩っちまったのか…」
「……しかもキングボア5体もだぞ…フランコ団長とリナ隊長は戦闘に参加してないらしいぞ…」
「……Aランクの冒険者でもここまでできるか?Sランク級なんじゃないか…あの少年…」
そんな兵士に構わず、エンペラーボアに頬ずりしている女性が一人……
いやデフォナさん……
「はうあうあ~♡生のエンペラーボア…おうふ…たまりません…この皮…牙…ずっと撫でていたい…はぁん…」
もうヤバい人になっていた。
この人にカルロ君の薬を調合させるの不安になってきたぞ。
「………デフォナ嬢…取り急ぎ…肝を摘出してほしいのですが、解体していただければサザンガルドまで我らが運搬いたしますので…」
フランコ団長が作業を促す。
フランコ団長は冷静にその場でしなければならないことをきちんと指示してくれて、本当に助かる。
「……っは!私としたことが!すぐに解体に移ります!ただ力作業もあるので、兵士の方にもご協力を!」
「もちろんでございます。おい!力自慢を3人ほどこっちに寄越せ!」
デフォナさん主導で解体作業が進む。
解体された素材は、梱包され、荷車に積まれていった。
そんな解体作業を見ていると、フランコ団長から声を掛けられた。
「シリュウ殿、誠にありがとうございました。あとの解体から運搬までは我が騎士団が責任を持って行いますゆえ、お嬢様とリナと共に先にサザンガルドへお戻りくだされ。その腕では馬で帰ることは難しいでしょう。ハトウから明日の朝一番に紺馬車を手配させますので、それでサザンガルドへお戻りください。ハトウまでも我が騎士団の兵士を護衛に付けますゆえ安心なされよ。サザンガルドまではリナに案内させます。リナ頼んだぞ」
「お任せください」
フランコ団長が帰りの行程を案内してくれる。
正直めちゃくちゃに痛いし、早く休みたかったので、かなりありがたかった。
「ありがとうございます。正直腕がかなり辛いので、早くゆっくりしたいところでした。お言葉に甘えます。」
「……何を甘えるなど…シリュウは英雄じゃ!こんなもの甘えるうちに入りんせん!…ハトウまでは歩けるかや?」
「今は…正午前かな?…ハトウまでは正直体力が持つか自信がないね、森の入り口までは歩けそうだけど」
「……!なら兵士を戻してハトウから森の入り口に馬車を手配させるよう伝えます。おい!誰か!」
そう言ってフランコ団長が何人かの兵士を呼んで、すぐに走らせていた。
何から何までありがたい…戦闘1つでここまで衰弱するのは修業不足かな、もっと鍛えないと。
「…では帰ろうぞ。シリュウ…痛くなったり、疲れたら妾にすぐに言うんじゃぞ」
ビーチェが心配そうな顔で僕に言う。
なら存分に甘えさせてもらおう。
戦闘でかなり傷ついた僕は、かなり気が参ってて甘えん坊状態になっていた。
「そう?なら頭が痛いから撫でてもらおうかな?」
「お安い御用じゃ…ほれ…なでなで…」
うーむ。これはいい。
「……これが……甘やかしているお嬢様……激レア……(*´Д`)ハァハァ…」
興奮している女性騎士は放っておく。
そんな風にビーチェに甘えながら僕はエクトエンド樹海を、ハトウの森を後にした。
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何とかハトウの森の入り口まで歩ききった後、フランコ団長の指示通り馬車が1台、拠点に到着していた。
その馬車に乗って、ハトウの街まで帰ってきた。
帰って来た時はもう夕日が沈みかけていた。
這う這うの体で、ハトウの駐屯所に到着した時は、ハーグさんからかなり心配されたが、討伐を伝えると、驚きながらも感謝を伝えられた。
その日は駐屯所の医療室で泊まることとなった。
医療室で、駐屯所所属のお医者さんのお爺さんから、傷口に軟膏役を塗り込まれたり、自然治癒力が高まる薬草を煎じた薬を服薬したりして火傷の治療を受けた。
食欲はあまりなかったが、お医者さんに「食べないのも傷に触る。スープだけでもいいから食べなさい」と言われてしまう。
左手が使えないので、夕食を食べるのが億劫だったが、ビーチェが「妾が食べさせてあげるのじゃ!ほれ、あーん」と介抱してくれたので、それに甘えて食べさせてもらう。
ビーチェから食べさせてもらうスープは格別の味がした。
結局おかわりを2回し、3杯もスープを飲むと医者からは生温かい視線を向けられた。
いや愛の力は偉大なのですよ。
医務室はベッドが4台ほどあったので、1つは僕が、その隣でビーチェが寝ることとなった。
ハーグさんが最初、「密室に男女二人は…」と止めようとしたがビーチェが「シリュウは妾の婚約者(非公式)じゃからの、問題あるまい」と爆弾発言をかまし、ハーグさんを凍えさせた。
結局梃子でも動かないと判断したハーグさんは「何かあれば当直の兵士にお申し付けを」と言い残し、白い顔をしながら帰っていった。
その日は早々に眠りにつこうとしたが、痛みでなかなか眠れず、うなされていた。
そんな僕を見てビーチェが「大丈夫じゃ、妾はここにいるぞ…」と僕のベットに腰掛け、頭を撫でてくれていた。
そんなビーチェに見守られながら、僕はいつしか眠りについた。
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