【閑話】ビーチェの気づき、謎の商家、淡い希望的観測
【閑話】ビーチェの気づき、謎の商家、淡い希望的観測
妾は宿のベットに腰掛け、宿の使用人に用意させた紅茶を飲みながら商家でのやり取り、そして証文の中身について思い出していた。
あの証文の内容を整理すると、シリュウが魔獣を狩り、その素材をハトウリッツ商家に持ち込んだ。
そして、ハトウリッツ商家が捌き切れなかったので、ソウキュウ商会が残りの素材を引き受けて、その代金をシリュウへの債務として証文を残した。
これだけなら小さな商家が大きな商会に自らのキャパシティを超える取引を移譲したかに思える。なにもおかしくはない。しかしそれは素材の持ち込み主が普通の冒険者であればだ。
昨日今日とシリュウの実力と普段からの狩りの様子を聞いた限り、おそらく狩っていたのはAランクやBランクなどの上級魔獣で、その素材の取引金額はまず金貨で行われる額になる。
それほどまでの上級魔獣の素材が、小さな商家が捌ききれない?むしろ自らの商家を拡大する格好の機会ではないか。シリュウが持ち込んだ素材をもとに、掛けで取引を行えば、よほどのポンコツでなければ儲かる一方だろう。
またシリュウが高名な存在になれば、最初期から取引した商人として、その名を轟かせ、さらに大きな事業を興せたはず。
その機会を逸してまで、大きな商会に素材を横流しするメリットがハトウリッツ商会にはあったのか?
そしてもう1つ、シリュウはここ数年ハトウの街へ、魔獣の素材を持ち込んでいるように言っていた。
それも上級魔獣の素材を。それほどの猛者が出入りしているのに、駐屯所の主のハーグが全く知らなかった。
このハトウの街は、今日の冒険者ギルドでCランク以上の冒険者がいなかったように、そこまで猛者が集まる地域ではない。
エクトエンド樹海は、獰猛な魔獣が集う皇国屈指の修羅場である。
(妾は間違って踏み入ってしまったが。あれは偶然で、あの森の奥がエクトエンド樹海だと知っていたら入っていない)
なのに偶にではあるが、上級魔獣を納品に来る者など目立って仕方ないはず。
なぜシリュウは無名なのか?
ここで気になるのは、シリュウが言っていた御仁、サトリなる者
シリュウ曰くサトリというものが証文の手引きをしたと、ハトウリッツ商家も交渉の窓口はサトリだと言っていた。
つまりサトリなる御仁がハトウリッツ商家にだけ、魔獣の素材を持ち込ませた?
シリュウの今日のハトウの街での過ごし振りからして、ハトウリッツ商家以外に懇意にしている商人はいなかったように思える。
今までシリュウが世に出なかったのは、ハトウリッツ商家がシリュウの存在をひた隠しにしていたからではないか?
それもサトリという御仁と結託して
更に気になるのが横流し先のソウキュウ商会だ。
サザンガルドのソウキュウ商会と言っていたが、それは支店だ。
ソウキュウ商会は、商都カイサで伝説の商人ソウキュウが興した皇国屈指の大商会で、今の本拠は皇都セイトにあり、皇家御用達の商会だ。
上級魔獣の素材を持ち込み続けても無名の存在だったシリュウ
シリュウの存在を冒険者ギルトや駐屯所にも知らせず、むしろひた隠しにしていたかもしれないハトウリッツ商家
その背後にある皇家御用達の大商会
そしてシリュウの故郷にいたサトリなる聡明な御仁
もしかしたらシリュウはとても大きな組織によって、その存在を隠されていたのではないか。
いや隠す?
これほどまでの実力を持つ若者を隠す理由がある組織など公にはない。
ということは、シリュウは守られていた?
それもとても大きな力によって?
であればシリュウはとても高貴な存在なのではないか?
妾はシリュウのことをそう推理した。
妾の推理は大方外れてはいないと思う。
ただ1つの希望的観測を除いて
シリュウが田舎の村のただの庶民の少年でなく
皇国の高貴な存在であれば
華族の妾とも釣り合うと思ったから
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます