3-4
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騎士になるには厳しい試験がいくつもある。だからこそか、それらを見事突破し訓練生になった時点で幾
いくばくかの給料が毎月
エリアスは初任給から全額レナに渡してきた。訓練が
いや、ちょっとおかしいとは思っていたのだ。いきなり騎士になりたいと言い出すなんて。いくら子どもの頃の夢だったとしても。
だってあの頃のエリアスは必死ではあったけれど、それと同じくらい経理の仕事を覚えるのも楽しそうだったのだ。
「……まさかこのために騎士ぃ……」
正騎士に比べれば少額ではあるらしい訓練生の賃金。とはいえ、庶民が、そしてエリアスと同年代の少年が稼ぐには破格のものだった。
一番早く、そして確実に稼ぐことができるからと、エリアスは無理をして騎士を目指しているのではないか。
どれだけ気にするな、恩返しなどしなくてもいいと言ったところで、あの真面目で優しい少年は気にするに決まっている。
そこを理解していたはずなのに、だというのにこの結果を
うああああああ、と重く長いため息が
エリアスの気持ちはありがたい。とても尊いとも思う。しかし、こればかりは受領するわけにもいかず、レナは心を
「これはすぐに送り返しましょう」
「いいえそれはいけません、奥様」
ところがその決意を
「これは旦那様の男の
「あい……っ!」
何かと口の達者なヘルガの横で、黙って頷いている姿が基本のルカからの言葉。さらにはそこから飛び出る『愛』という単語にレナは思わず
家族として愛しているのは確かなのだから当然だ。
男の矜持とやらはよく分からないが、同じ男であるルカが言うのならばそうなのだろう。
これはあくまで
エリアスがいつか本当に好きな相手と結婚する時に、
ふと、胸の辺りがざわつく。
最近そういうことが増えた。決まってエリアスの未来を考えた時に起こる。
まだ具体的なものではない。しかし、やがて明確な形となるだろう。それは自分にとって決して喜ばしくはないのだと、レナは本能的に感じていた。
幸いと言うべきものではないけれど、訓練生としての日々が忙しすぎてエリアスは休みの日でも帰ってくることはない。特に最初の一年は
だからその時にはレナもすっかり落ち着きを取り戻しており、エリアスともこれまでと変わらぬ態度で接することができた。
とはいえ、少年の一年は変化が
エリアスの見た目は大きく変わっており、それに関しては平静ではいられなかった。
「ほぼ一年ぶりとはいえ……すっかり大きくなりましたね?」
出会った時はレナより少し下くらいにあった顔は、すっかり見上げる位置にあった。
人間ってこんなに変わるものなの? とレナはあまりの変貌っぷりに
「お前はもっと
「え、今よりもっとですか!? 見上げるのに首が痛くなりそう……」
「レナと話をする時は僕が顔を近づけるので大丈夫ですよ」
「そうしてもらえるとありがたいですね」
それでも、この時はまだ余裕だったのだ。
背が伸び、少しだけ声も低くなってはいたが、レナの中では「美形だけども可愛らしいエリアス様」という
さらに翌年、十八になったエリアスはすっかり青年の
気付けば
レナがあまりに
「こうすれば、レナは首が痛くならずに済むし、俺も
「これっぽっちもよくないですね!」
いつの間にか「僕」から「俺」へと口調も変わり、それがより一層レナの中でのエリアスに対する感情をざわつかせていた。
住まいは相変わらず隊舎なので、日常的に顔を合わせずにいられるのが救いではあるが、その分長期
なんとなく、自分の反応を見て遊ばれているような気がして
王都へ出てきて、工房を構えて女主人としての立場を確立していようと、根っこにあるのは
早い話が男慣れしていないのである。だから
それを見て少しばかり楽しんでいるのだろう。
「子どもの頃はあんなに可愛らしいエリアス様だったのに」
「ええ、もう子どもではありませんから。俺は大人の男ですよ、レナ」
つい
返答の仕方が可愛くない。というよりなんだかこなれている、ような気がする。
これはあれか、同年代もしくは
「もちろん分かっていますよ。本当に立派になられましたね、エリアス様!」
本来であれば
しかし自分は保護者であるからして、それに飲み込まれてはいけないのだとレナは自分に言い聞かせた。
「う……本当に……立派になって……」
レナは最近、幼い頃の彼らの姿を思い出すと秒で泣けるようになってしまった。
「立派になったと言ってくれるなら、俺のことをちゃんと呼んでください」
「呼んでるじゃないですか!」
「様、はつけないって約束したのを覚えていますか?」
「それは……覚えていますよ、もちろん」
「じゃあどうしてちゃんと呼んでくれないんです? 俺は貴女の言うように立派になったし、無事成人もして、法的にもきちんと夫になりましたよ」
「長年の癖です。とはいえ約束を守っていないのは私が悪いですね、すみませんエリアスさ……エリアス」
呼び方を変えるだけで
昔に比べるとほんの少しだけ、砂糖ひとつまみ分くらいの意地悪さを見せるようにはなったけれど、レナに向ける笑顔は昔と変わらない。
あれだ、あれがまずかった。人間、
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