第33話 犯罪組織の影
香織と涼介は、野口幸次郎刑事との合同捜査チームに合流した。警察署の会議室で、捜査方針や役割分担についてのブリーフィングが行われた。野口刑事は、大きなホワイトボードにこれまでの調査結果と推定される犯罪組織の動きをまとめていた。
「この取引の背後にある企業、そしてそれに関与する人物について、我々は徹底的に調べる必要があります。」野口刑事はチーム全員に向かって言った。
香織はそのホワイトボードを見つめながら、ふと疑問を感じた。「これまでの取引履歴を詳しく見直してみる必要がありそうですね。特に、どの時点で偽造紙幣が流通し始めたのかを特定することが重要です。」
その後、香織と涼介は警察の捜査チームと共に税関の記録をさらに詳しく調査することになった。膨大なデータの中から、特定の取引や人物に焦点を当てて分析を進める。
「ここに奇妙なパターンがある。」涼介がコンピュータの画面を指しながら言った。「新紙幣が流通し始める前に、大量の高額取引が繰り返し行われている。」
「しかも、これらの取引の一部は海外の複数の拠点を経由しているわ。まるで何かを隠すためのように。」香織も画面を覗き込みながら答えた。
その時、涼介の携帯電話が鳴り、彼は急いで受話器を取った。「もしもし、涼介です。」
電話の向こうからは、野口刑事の緊張した声が聞こえてきた。「重要な情報が入った。すぐに戻ってきてくれ。」
香織と涼介は急いで警察署に戻り、野口刑事のデスクに駆け寄った。野口刑事は重要な書類を手に持っており、その表情は深刻だった。
「我々の監視チームが、港で不審な動きをキャッチした。どうやら今夜、大規模な取引が行われるらしい。」野口刑事は地図を広げながら説明した。「ここだ、港の倉庫で。」
「その取引が、偽造紙幣の流通に関係している可能性が高いですね。」涼介が地図を見つめながら言った。
「そうだ。今夜の取引が決行されれば、我々は一網打尽にするチャンスだ。」野口刑事は真剣な表情で続けた。「準備を整え、取引現場を監視する。香織さん、涼介さん、あなたたちも協力を頼む。」
香織と涼介は頷き、警察との連携を強化するための準備を始めた。
夜になり、香織と涼介は警察の監視チームと共に指定された倉庫に向かった。暗闇の中で、倉庫周辺は静まり返り、緊張感が漂っていた。警察は周囲を包囲し、慎重に動きながら監視を続けた。
「取引が始まるまで、静かに待機しましょう。」野口刑事が耳にかけた無線機で指示を出した。
香織と涼介もそれぞれの位置で待機し、暗闇の中で倉庫の動きを見守っていた。時間が経つにつれ、緊張感が高まっていく。
突然、一台のトラックが静かに倉庫に近づいてくるのが見えた。トラックから降りた人物たちは、倉庫の中へと消えていった。
「動きがあったわ。」香織が無線機で報告した。
「分かった。全員、準備を整えろ。」野口刑事が指示を出す。
その瞬間、倉庫の中から銃声が響き渡った。警察と香織たちは驚き、緊張が一気に高まった。
「何が起こっているんだ?」涼介が焦った声で言った。
「突入の準備だ!」野口刑事が叫んだ。
しかし、その時、倉庫の裏手からもう一台のトラックが現れ、急いで逃げようとする姿が見えた。逃走を試みるトラックを追うか、倉庫内に突入するか、決断の時が迫っていた。
「どうする?」香織が息を呑む。
「どちらも見逃せない。一刻も早く決断しなければ!」涼介が叫ぶ。
倉庫の中から聞こえる銃声が緊迫した状況を一層激化させていた。香織と涼介は息を呑み、警察の指示を待った。
「野口刑事、どうしますか?」香織が無線機で問いかける。
「突入だ。倉庫内の安全を確保しなければならない。香織さん、涼介さん、あなたたちは裏手のトラックを追え。」野口刑事が即座に指示を出した。
「了解。」涼介が答え、香織と共に裏手に回り込んだ。
裏手に回り込んだ二人は、急発進するトラックを目撃した。そのトラックは、夜の闇に紛れながら急速に逃げようとしていた。
「涼介、急いで!」香織が叫び、二人は車に飛び乗った。
「逃がすわけにはいかない。」涼介はハンドルを握りしめ、トラックを追跡した。
トラックは港の狭い道を巧みに抜け、スピードを上げていく。涼介はそれに食らいつくようにアクセルを踏み込み、車はトラックに追いつこうと必死だった。
「何かおかしいわ。トラックの中に何か隠されているはず。」香織が助手席から言った。
「確かに。新紙幣の偽造に関する証拠があるかもしれない。」涼介も同意し、集中して運転を続けた。
その時、香織の携帯電話に一通のメッセージが届いた。差出人不明のそのメッセージには、「真実を知りたければ、港の廃工場へ来い」とだけ書かれていた。
「これを見て。誰かが私たちを誘導している。」香織がメッセージを涼介に見せた。
「廃工場か…。罠の可能性もあるが、行くしかないな。」涼介は決意を新たにし、廃工場への道を選んだ。
廃工場に到着した二人は、慎重に周囲を確認した。静まり返った廃工場は不気味な雰囲気を漂わせていた。
「気を付けて。何が待ち受けているか分からない。」香織は涼介に警告した。
「分かっている。」涼介は銃を手にし、二人はゆっくりと廃工場の中へと進んでいった。
廃工場の奥で、二人は予想外の光景に出くわした。そこには、先ほど逃げたトラックが停まっており、その周囲には複数の男たちが集まっていた。彼らは何かを運び出している様子だった。
「証拠を隠蔽しようとしているのか…」香織が低く囁いた。
その時、背後から物音が聞こえた。二人が振り返ると、そこには銃を持った男が立っていた。
「動くな。お前たちはここで終わりだ。」男は冷酷な声で言い放った。
突然、暗闇の中からもう一つの影が現れ、男に向かって突進した。銃声が響き、男は倒れた。
「大丈夫か?」影の主は、涼介と香織の前に現れた。野口刑事だった。
「野口刑事、どうしてここに?」涼介が驚きながら尋ねた。
「お前たちが危険に晒されるのは分かっていた。だから、別のルートで先回りしていたんだ。」野口刑事は微笑みながら答えた。
「それよりも、早くここから逃げなければ。仲間が追ってくるぞ。」野口刑事は二人に急いで指示を出した。
しかし、廃工場の奥からはさらに多くの足音が近づいてくる。敵はまだ多いようだ。三人は息を合わせ、脱出の準備を整えた。
次に待ち受ける展開が何か分からないまま、香織、涼介、そして野口刑事は新たな危険に立ち向かう決意を固めた。門司港で繰り広げられる偽造紙幣事件の真相に迫る戦いは、ますます緊迫感を増していくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます