六十話 強い魔力




「ジョーンズ……、ジョーンズ……」


 ロイの声に、ジョーンズは薄目を開けた。

 どうしてここにロイがいるのか、疑問に思うのも億劫おっくうだった。

 顔を押さえて、起き上がる。

 頭がぼんやりしている。


「ジョーンズ? 大丈夫か?」


 水を差しだされ、ごくりごくりと飲み干した。


「もっとくれ」

「ああ……」


 ロイが水を足してくれる。喉の渇きが収まると少し落ち着いた。

 ジョーンズはあたりを見渡した。タンジーがいない。

 彼女がいないと落ち着かない。


「タンジーはどこだ?」


 ジョーンズが聞いたが、ロイは答えなかった。代わりに、見下すような目でジョーンズを見ていた。


「なんだ、そのみっともない格好は」


 ロイが吐き捨てるように言って、ジョーンズに向かってシャツを放り投げた。


「着ろっ」


 ロイの言葉は辛辣で頭にくるものだったが、ジョーンズの頭は麻痺していて何も考えられなかった。

 洋服を身にまとうと、ぼうっとする頭を押さえた。


「なあ……、タンジーはどこだ?」

「彼女は今、食事に行っている。それより、アニスが戻らないんだが。後、魔法使いとその仲間たちもだ」


 ジョーンズは目をさまよわせると、ロイに頼んだ。


「ロイ、タンジーを探してくれ」

「だから、タンジーは……」


 ロイが説明しようとすると、ドアが閉まる音がした。ジョーンズは音のする方へ顔を向けた。


「起きたの?」


 タンジーが部屋に入って来た。彼女は胸の大きさを強調した青いドレスに着替えていた。

 ロイが驚いてあんぐりと口を開けた。

 タンジーは、ジョーンズに歩み寄ってぎゅっと抱きしめた。


「綺麗だ……」


 ジョーンズがそう言って、その胸元にキスをした。


「あら」


 ふふふ、とタンジーが笑う。

 ロイは顔をしかめると、黙って部屋を出て行った。

 二人きりになり、ジョーンズはタンジーから甘い香水のようないい匂いがしていると思った。彼女のドレスに手をかけると、


「だめよ、破らないで、せっかくのドレスが台無しよ」


 と、タンジーは、ジョーンズの頭を枕に押し付けると、赤い唇を寄せてきた。


「まだ、力が残っているの? さすがね」


 とウフフと不気味に笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る