第2話 5歳がやる量か、これ?
「…………」
金で装飾された壁。
壁と同じく金での装飾が施された天井に吊られた高級そうなシャンデリア。
元の世界にも劣らないフカフカベッド。
俺はそんな豪華絢爛を体現した様な部屋のこれまた高級そうな椅子に座りながらスマホをそっと仕舞い……全部見なかったことにしようかと考える。
……スレ民共は5歳児が2時間走れると思ってんのか?
しかも筋トレの後に?
それにゴブリンに1年以内に勝てだと?
寝言は寝て言えアホンダラ。
「でも強くならないとまず間違いなく死ぬんだよなぁ……」
しかも、我が家———フォートレス辺境伯家は、国境にある『モンスターの森』から王国を護る守護者的な存在。
その内絶対にモンスターと戦う羽目になるのは目に見えている。
俺はそこまで考え……頭をかきながら大きなため息を吐いて立ち上がる。
5歳児と言うこともあり、まだまだ目線は低く、手も頼りないくらい小さい。
「あぁ、くそだ。この世界は本当にくそだ。ヌルゲーであれよ馬鹿野郎。それで……何をしないといけないんだったっけ?」
俺は一頻り文句を言ったのち、仕方なしにスレを開き、メモアプリに1日の内にやることをメモする。
えっと……『腕立て、腹筋、背筋、スクワット✕100回。それを1か月毎にプラス20回』か……これだけで死にそうだな。
あとは、なになに……『魔力切れループの魔力量上昇』『ランニング2時間』『執事に石を投げてもらって避ける練習』『剣と魔法の鍛錬』……1日で終わるか、この量?
ただ、泣き言ばかり言ってられない。
やると言ったからにはやらないとな……死ぬから。
「さて……まずは腕立てから行くとしますかね。まぁ俺、神童だから余裕っしょ」
そう、俺は神童である。
神の童と書いて、神童である。
そんな神童である俺を舐めてもらっては困る。
俺はふっ……とスカした笑みを浮かべ、床に手を付いた。
「———うーん……無理!! もう2度とやりたくない!!」
腕立て、腹筋、背筋、スクワットを1時間以上掛けて何とかやり遂げた俺は、全身バキバキで地面に倒れていた。
何が神童を舐めるな、だ。
大馬鹿なことを抜かしていた1時間前の俺の顔面を陥没させてやりたい。
『調子のんな神童(笑)』ってな。
俺がそんな感じでやり場のない怒りを過去の自分にぶつけるという奇行を行っていると……。
「———失礼します、レインさ———レイン様!? 如何なさいましたか!?」
「あ、あぁ……シュバルツ……」
何ともタイミングの悪いことに、俺の家の執事長であるシュバルツが、たまたま俺の様子を見に来た。
因みにシュバルツは、見た目こそ白髪の老人だが、冷静沈着で優しく、あり得ないくらいに強いらしい。
レインの記憶では、オーガに出会っても生き残れる程の実力者とのことだ。
いや強っ。
流石現当主にして俺の父親が国最強の剣士なだけあるよな。
そんな実力者のシュバルツだが、俺がうつ伏せで倒れている様子を見て、珍しく気を動転させていた。
「はい、シュバルツです———はどうでも良いのですっ!! どうして汗だくなのですか!? もしかしてお身体でも……」
「……ふっ、少し悪魔と戦———」
筋肉痛で動けませんなんてダサいことを言いたくないという無駄なプライドに突き動かされて嘘を吐く。
ただ、俺は大事なことを忘れていた。
「悪魔!? 今直ぐ当主様の国王陛下に報告———」
「嘘です!! 大嘘です!! ただの筋トレによる筋肉痛だから!! 悪魔なんて口からでまかせだから!! お願いだから報告しないで!?」
……そう言えばシュバルツ、冗談が通用しないんだった。
もっと早く思い出せよポンコツ、と自分を責めていると……シュバルツが震えた声で呟いた。
「き、筋トレ……!? レイン様が筋トレ……!?」
……ま、まぁそんな反応になるよな。
俺は感動した様子で涙すら浮かべているシュバルツを眺め、苦笑しながらぽりぽり頬をかく。
一見物凄くオーバーに見えるが、シュバルツがこんな反応を見せるのにも理由がある。
———超サボり魔なのである。
この身体の元の持ち主であるレインは、超が付くほどのサボり魔であった。
剣の修練もそうだが、勉学も社交界での所作の指導も全てにやる気がなく、寝てばかりいるワガママ少年だったのだ。
そのワガママっぷりにはシュバルツは勿論、両親でさえ手を焼いていたらしい。
おいレイン、お前人生舐めてるだろ。
ぶっ殺すぞ……ってもうレインは俺だったわ。
「まぁ安心してよ、シュバルツ。これからは死ぬほど努力するから」
「れ、レイン様……!!」
そう、これからは嫌でもやらないといけない。
だって死にたくないし、やっている所を動画に納めないといけないし。
まあそうは言ってもあの量を子供にやらせるスレ民達はどうかと思うがな!!
アイツら自分が関係ないからって無理難題を吹っかけて来やがって……!!
何かそう考えてたらイライラしてきたぞ……。
「シュバルツ!」
「ハッ! 如何いたしましたでしょうか、レイン様」
シュバルツが俺の呼び掛けに、先程までの狼狽えっぷりを全く感じさせない完璧な所作で応える。
俺はそんなシュバルツを頼もしく思いながら、告げた。
「———家にある回復ポーション持ってきて! もう1ミリも動けない!!」
シュバルツはズッコケた。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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