きょく

夜道を歩いていると、背後から足音が聞こえる。チラッと一瞬だけ後ろを見る。人がいる。しかし、足音の割には遠くにいるように見えた。

「まあちょっと響いてるだけか…」

気にせず歩き続ける。しかし、何かが引っ掛かる。何か違和感があった気がする。

人がいることだけ確認して目を逸らしたから確かではないけれど、後ろを歩く人影は普通のサイズではなかった気がする。

思い出せば思い出すほど、異常なサイズだったような気がする。考えれば考えるほど不安が大きくなり、それに合わせて歩くスピードは速くなる。

「いやちょっと背が大きかっただけでしょ。見間違えただけだって…」

自分を納得させるような呟きに反して、足は速くなり、すでに走るほどの速度になっていた。

こちらの慌ただしい足音に対して、背後の足音はゆっくりと一定のリズムで鳴り響く。

しかし、いつの間にか足音は大きく響き、視界が暗くなる。自分の体には背後から伸びる、黒い大きな影が覆い被さっていた。

恐怖で足が止まり、ただ影を見つめることしかできなくなる。人の形をした大きな影。その頭部がゆっくりと下に降りていくのが見える。

「つぎはないからね」

耳元で声が聞こえ、影が自分を追い越していく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る