美少女姉妹が憧れている魔法騎士が実は僕だった件~正体を隠しているはずなのに、何故かみんなから懐かれています。どうして?~

路紬

プロローグ

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☆☆☆


【アリア視点】

「ねえお姉ちゃん。何体くらい倒したっけ?」


「三十超えたあたりから数えていない……! 一体何体出てくるんだこいつら!」


 私――アリア・ハートフォードはお姉ちゃんであるノエル・ハートフォードへそう聞く。


 私達は魔法学園に通う学生で、同時に魔法騎士団に所属する魔法騎士だ。


 私達は今、巷で連発している【神隠し事件】を解決するために王都で調査していた。王都にある地下水路にまで調査を広げた時だ。


 私達は敵からの襲撃を受けて応戦している内に、地下水路の奥地まで追い込まれてしまう。


「でもここの地下水路に神隠し事件の手掛かりがあるということだよね……ッ! こんなにもあからさまな襲撃をするんだから!」


「ああ、それは間違いないだろう。しかし、事件の犯人は私達を消すつもりだろう。この数……それにこの地形。私達には相性が悪い」


 私達が敵にしているのは成人男性を模した魔法人形だ。魔力で駆動し、単純な動作しかできないけど、動力炉や急所を破壊しないと並大抵の傷じゃ止まってくれない。


 これだけでもかなり厄介。それに加えて地下水路という閉所での戦闘だ。私達はこういった閉所だと全力を出せない。


「ああもう!! 魔法が使えればこんな奴ら一瞬なのに!!」


「癇癪起こして魔法なんて使うなよ。こんなところで私達が魔法を使えば、地下水路は崩落。とてつもない二次被害が生まれてしまうからな」


 私は襲いかかってきた人形の頭部を破壊しつつ、そう文句をもらす。


 そりゃあ文句の一つや二つ言いたくなるものだ。魔法が使えれば一瞬で殲滅できる相手。なのにこっちはその魔法が使えず、向こうは規模が小さい魔法を連発してくる。


 魔法を使えばこの地下水路が崩落してしまう。人々の平和を守るのが魔法騎士の使命。そんなことできるわけがないのだ。


 相手はざっと百は超えている。破壊しても、破壊しても、人形の行軍が止まることはない。


「魔法騎士、魔法師……何人かのがよくわかるよ。不利な地形に追い込んで物量作戦。もう腕上がらなくなってきた……」


「奇遇だな。しかし、ここで戦うのをやめたら私達は終わりだ。増援もこんなところでは見込めないな」


 私達は肩を大きく揺らしながら呼吸をして、そう呟く。


 この神隠し事件。調査にあたった魔法騎士、魔法師が数名行方不明になっている。本来単独での調査、小規模な事件になるはずだったのに……今となっては一線級の事件になってしまった。


 二人一組での行動は絶対。敵と遭遇した際には、一人は救援、一人は対処に当たるというのが作戦内容。だけど、敵はこの地下水路という複雑な地形を上手く使ってきた。


「ああもう! まさか出入口全部塞いで物量作戦とか無しでしょ!! 相手どんだけ金持ちなの!?」


「文句を言いたくなる気持ちも分かるな。これはあまりにも異常だ……ぐっ!!」


 不意に、人形が伸ばした手がノエルお姉ちゃんの腕をかすめる。


 ここに来て初の負傷。そろそろ集中力も、体力も限界……! 身体を強化するためにかけている強化魔法を維持するのも精一杯の土壇場だ!


「あーあ、こんなじゃ私、あの人に顔向けできないな……」


「あの人のようには中々いかないものだな。本当、全然足元にも届いていない」


 三年前、私達を救ってくれたあの人。私達はあの人に憧れて魔法騎士になったというのに……。


 私達の実力は三年前のあの人に遠く及ばない。何故なら、あの人は同じような状況でも一瞬にして敵を殲滅したから。


「――回路接続セット


 疲労で体力の限界が近付きつつあった頃。


 地下水路に声が響く。


「魔法陣展開。砲撃開始」


 私達の前の空間が歪む。次の瞬間、私達を守るように無数の魔法陣が出現して、それは無数の青色の光を放つ。


 まるで流星群のような輝き。それらが人形だけを正確に撃ちぬいて破壊していく。私はその輝きの前に、凄いや強力だという感想の前に、戦いの場には相応しくない感想を口にしてしまう。


「……きれい」


「ああ、綺麗だな。これは」


 満点の星空を駆ける流星群。その輝きにも似た魔法は私達の心を一瞬でわしづかみにした。


 そして、一際大きい魔法陣が現れ、その中から一人の人物が出てくる。


「あ、貴方は……あの時の!!」


 私は思わず、その後ろ姿に声を上げてしまう。


 黒の外套。背丈は十代後半の男の子にしたら平均くらい。同年代の女の子から背が高いって言われる私と同じくらいの背丈だ。


 黒い仮面を被っており、髪形や顔の形は一切不明。


 中身が分からないということを除けば、この人は有名な人だ。


 王国でも十本指に入る最強の魔法騎士。王族直属魔法騎士、魔法師部隊【賢者の剣】の第五席。


 黒仮面卿――それが彼の名前であり、私達を三年前に救ってくれた魔法騎士だ。


「……大丈夫か?」


 男とも女とも取れるようなノイズがかかった声。これは正体を偽装するために魔力で声を加工しているのだろう。


「だ……大丈夫、です」


「でも……どうしてここに? 私達は救援要請すらまともに出せていないというのに」


 ノエルお姉ちゃんがそう口にする。


 そうだ。私達は救援要請を出せていない。普通なら使い魔に外へ救援要請を頼むのだが、それをする前に人形たちに追い込まれてしまった。


 私達の行方は誰も知らないまま。なのに、この人は助けに来てくれた……なんでだろう?


「そういうのが得意な奴がいる。それだけの話だ」


 彼はそう答えると、前を見据える。


 流星群のような魔弾でさえ、人形たちは殲滅しきれていなかった。まだ十体の人形と、そして地下水路を埋め尽くすような巨大な蜘蛛の形をした人形が残っている。


「君達は後ろへ。僕がここを片づける」


 瞬きする間もなく、展開された二つの魔法陣。魔法陣が高速回転を始めて、魔力を溜めていく。


「あ、あの! ここは閉所です!! 地下水路の外壁は脆いから……あんな人形を倒せるような魔法を撃ったら!!」


「アリアの……妹の言う通りです! ここは撤退して対策を!!」


「いや、ここで叩く。僕の任務は二つ。君達の救出と、神隠し事件の原因を少しでも探ることだ」


 私達が止める間もなく、魔法陣から無数の魔弾が発射される。


 私が驚いたのは、その魔弾の精確さ。閉所で遠距離魔法を使えば、対象に着弾する前に壁や天井にぶつけてしまう。


 けれど、この人の魔弾はそんなことにはならない。まるで蛇のように地を這い、鳥のように自在に飛び回りながら、周囲を傷つけず、敵のみを正確に破壊していく魔法。


 威力、精密性、規模――どれを取っても私達なんかじゃ追いつけないほど格上。


 黒仮面卿は苦戦することなく、人形を殲滅する。ゆっくりとした足取りで蜘蛛型の人形に近付くと、それに手を突っ込んで何かを漁り、それを引っこ抜く。


「あった。魔力核。このクラスの人形なら搭載しているだろうね」


 灰色の球体を取り出すと、黒仮面卿は懐へそれをしまう。


 そして私達に近付くと、ぱちんと指を鳴らした。


「…………え?」


 私はあまりにも突然すぎる出来事に、つい声を漏らしてしまう。


 さっきまで地下水路にいたはずなのに、いつの間にか私達は王都にある魔法騎士団の本部の前に立っていた。


「転移魔法……それも無詠唱で」


 ノエルお姉ちゃんが驚くのも無理はない。だってそれはほとんど不可能と呼ばれているくらい高度な魔法だから。


「任務完了だ。君達は念のために治療を。事務処理は僕が済ませておこう。ゆっくりと休むことだ」


「あ……ありがとう、ございます! あ、あの!! 黒仮面卿! 覚えていないかもしれませんが、三年前と同じように助けてくださりありがとうございます!!」


「三年前、妹をかばったときにできたは大丈夫でしょうか!?」


 三年前から【賢者の剣】に所属していた黒仮面卿。


 しかし、あの時は今ほど圧倒的な力は持ち合わせていなかったのか、あの時、私を庇って胸に大きな負傷を負ったはずだ。


 黒仮面卿は足を止めて、数秒間沈黙する。


「……大した傷じゃないよ」


 優しい声でそう口にした黒仮面卿は次の瞬間、姿を消してしまう。


「い、行っちゃった……。本当にあの人は、三年前のままなんだ」


「……ああ。突然現れて、人を救い、そして突然消えていく。何も変わっていない」


 私達、姉妹はその背中を目に焼き付けてただ呆然としていた。

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