あっ、この世界の主人公俺じゃなかったわ…

笑門福来

第1話

その日も、何の変哲もない1日だった。

社会人として数年が経ち、仕事や1人暮らしにも慣れていた。

今日は日曜日で休日だ。

溜まっていたアニメやゲーム、漫画を消化して1日が終わる。

仲が良かった友人達は、ほとんど結婚してしまった。

羨ましくも感じるが、今の生活を気に入っているし、誰かに言われても、自分は幸せだ!とはっきり言える。


一1冊の漫画を読み終わり、机の上にある時計を一瞥する。


「もう12時前か…、明日からまた仕事だし、今日はもう寝るか」


それなりに高かった人をダメにするソファから起き上がり、ワンルームの備え付けだったベッドに潜り込む。

明日からも仕事があるだけで、特に変わり映えのしない日常が始まるんだなと考えながら眠りについた。

だが、次の日から彼の人生は一変する。




◼️




翌日、鳥の鳴き声と騒がしい生活音が聞こえ、目を覚ます。

ゆっくりと開かれた両目が最初に映したのは、いつもとは違う知らない天井だった。


「…えっ⁉︎」


ぼーっとした意識が、一気に覚醒する。

ベッドから勢いよく起き上がり、周りを確認する。

…俺の部屋じゃないっ!テレビもないっ、漫画もないっ、何もかもが違うっ!

愛すべき娯楽物が全て無くなっており、あるのは小さい女の子が遊ぶようなお人形がいくつか散らばっている。

家の作り自体も、木材に変わっている事に気付く。


「は?何だ、これ?…もしかして誘拐っ⁉︎…っ、!いや、待てっ!!俺、こんな高い声だったか⁉︎」


自分の声の高さに気付き、無意識に手が喉に向かう。

視界の中に入ってきた自分の手に、更に驚く。


「嘘だろっ⁉︎何だよ!この手⁉︎まるで子供の手じゃねぇか!!」


自分の身に起きている現象が、あり得な過ぎて思考が低下する。

そんな状態でも、とある事に気付き急いでベッドから降りる。

近くにあった鏡の前に立つと、そこには5歳くらいの小さな子供が立っていた。


「っ、!………転生?ってやつなのか、これは…」


今まで散々取り乱していたが、いざ鏡の前に立ち、自分の姿を確認すると妙に落ち着いていた。

ごく普通の社会人であった自分が、いきなり誰だかわからない子供の姿になっている。

そんなあり得ない現象の中でも、自分の脳内で一つの答えに辿り着いていた。


異世界転生

現代日本で、とても人気のある創作物の一種。

現代人がひょんな事から異世界に転生してしまい、能力などを駆使して活躍していく物語が多い。

そんな自分も、人気のある転生ものは漫画やアニメでよく観ていた。

まさか、自分がその当事者になるとは思わなかったが…


「…まだ子供だが、よく見るとケッコーイケメンだな、俺」


鏡に映る自分の姿を見て感じる。

この世界で他の人間を見ていないのでわからないが、前世?の自分と比べると月とすっぽんだ。

瞼にかからないぐらいの茶髪の髪、まだ子供なので目はパッチリとしているが、鼻筋はスラッと通っている。

ふと疑問に思い、ゆっくりと股間に手を当てると、小さいながらもしっかりあった。つまり男の子だ!

鏡の前でナルシストの様に、何個かポーズを決める。

いいね、バッチリだ。これ?人生初のモテ期きちゃうんじゃない?

新たな自分に舞い上がっていると、ハッと重要な事を思い出す。


「ステータスっ!!」


1人で叫ぶが何も起きなかった。

ちょっと恥ずかしい、あれれ?おかしいな。この世界はそういう感じじゃないのか?チートとかはステータスを見れば一発でわかると思ったが、ちょっと残念だ。もしかして、魔法とかはない異世界なのか?

異世界転生でよくあるチートとステータスのぶっ壊れ具合。

自分も確認したかったが、うんともすんとも言わない。

そういえば、この世界に転生してくる時に、神様には会わなかったなと思い出す。

急に不安になり、鏡の前でシャドーボクシングをする。

身体はいつもより軽い感じがするが、正直よくわからない。

シャドー練をやめて、軽くジャンプをすると、そこで事件が起きた。


「!!…がっ、いってぇ!!」


軽く飛んだつもりだったが、天井の木材に思いっきり頭をぶつける。

くっそ〜、いってぇ…。マジで痛い!絶対、たんこぶになっている気がする…。ってか、俺、今めっちゃ飛んでねっ⁉︎

ガンガン痛む後頭部を抑えながら、天井を向く。

大人だと低く見えるが、子供の身長だととても高く感じる天井部分。

軽く飛んだつもりだったが、あそこまで飛べたのか。こんな小さな身体で…


まだこの世界の事を何一つ知らないが、確信に変わった事がある。

それなりにイケメンの顔、そして今見せたとてつもない身体能力…ここから導き出された答えは一つだった。


「絶対にこの世界の主人公だわ、俺」






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