貝柱町観光パンフレット
春雷
第1話
どうも、僕は貝柱町の公式キャラクター、貝柱雄山だ。パッとみて、おじさんだな、と思ったそこの君。よおく考えてみてくれたまえ。人生、おじさんになってからの方が長い。そうだ、君もすぐ僕と同じ立場になる。そのことをしっかりとわきまえて、考えることや話すことに、注意してくれたまえよ。
さて、僕は今日、とてもお腹が痛い。すごくお腹が痛いんだ。でも、観光案内が僕の仕事だからね。こなしていくよ。
貝柱町の魅力は色々あるんだけど、まず目を惹くのは、パチンコ屋の多さだ。非常に巨大なパチンコ屋がずらりと並んでいる、パチンコストリートが町の東側にあるんだ。町民の大半は、その通りで一日を過ごしているよ。その通りで落ち込んでいる人を見かけたら、十中八九、パチンコに負けちまった人だから、どうかそっとしておいてくれたまえ。
あー、何か、いい感じになってきた。急にお腹の痛みが引いて来た。あ、結構大丈夫かも。うん、よかった。
パチンコを打つのに飽きたら、つぎは競馬場に行こう。基本的に四足歩行の馬が、たくさん走っているよ。ごく稀に、二足歩行で走る馬もいるから、要チェックだ。ちなみに、騎手は基本的に二足歩行だけど、あえて三足で歩いている人もいるんだ。その人は、いつも片手にブラックサンダーを持っていて、それをずっと握りつぶしているよ。彼は、そのことだけに、生涯を捧げているんだよ。
それにしても、さっきまでお腹の調子は小康状態だったんだけど、今、急激に波が来たね。非常に痛い。下痢しそう。ああー、痛い。苦しい。お腹が痛い時の絶望感えぐい。この時ばかりは我が運命を呪う。ああ、我が運命。
でも安心して、僕はプロだ。腹痛を抑えながら仕事をするよ。不屈の精神、だね。
競馬にも飽きたら、裏カジノもある。一日中遊べる、広大な敷地を持った地下施設さ。当然、非合法なので、本当に信頼できる人だけを誘って遊びに来てね。この町の警察は全員買収済みだから、そこは安心して過ごしてほしい。この町の警察は昔から、積極的に買収に応じる傾向にある。非常に扱いやすくて、助かるね。
ああ、チキショウ。腹痛え。あー、もう嫌だ。何だよこの仕事。嫌だなあ。観光案内とか、しゃらくせえ。適当な場所行けよ、どいつもこいつも。俺は腹が痛いんだよ。腹壊してんだよ。あー、昨日食ったご飯のせいかなあ。あれがまずかったか。今思えば、ちょっと粘り気あったんだよなあ、あの米。うああ。しくじった。あー、腹痛え。クソ痛え。でも、仕事しなきゃ。あー、今月金ないしなあ。全部のギャンブルで負けちまったからよ。クソ。あー、やるか、残りの観光案内。
さて、最後に案内するのは、貝柱組事務所。ここには、とっても怖いお兄さんたちがいるんだけど、親切にも、彼らはお金をたくさん貸してくれるんだ。ギャンブルで負けてしまったら、真っ先にここに行くといいよ。あ、ちなみに、僕もたくさん借りているよ。
あー、腹痛え。クソ痛え。あー駄目だ。死にそう。ああ、駄目だ、そうだ、仕事中だ。気を取り直そう。でも、今にも出そうだな、チキショウ。組の事務所でトイレ借りるか。
じゃあ、ちょっと行ってみようか。
「お邪魔します。あのう、お手洗いを借りに来たんですけど」
「あ? お前、どの面下げて来とんじゃ。早うワシらから借りてる金を返さんかい。お前の臓器全部売り捌いちゃるぞ」
「いや、あの、来月には、その、ドカンと金が入るんで。っていうか、その話はあとにしてもらって、今はちょっと、トイレを・・・」
「あ? 何で金を返さん奴に、トイレまで貸さにゃならんのじゃ。お前、舐めとるやろ? いてこますぞ、こら」
「いや、その、違うんです。今、観光案内やってまして。パンフレットを作ってるんです。だから、まあ、ここも紹介しようと思いまして。これ、結構お金になるんすよ。あ、あの、ちょっと! や、やめてください。痛い! あ、あ、あの、お腹はちょっと・・・、い、ぐ、ぐあ、ゲ、ぐ、や、やめ、あ、ああああ! あああああ・・・‼︎」
どうも、貝柱雄山です。僕は腎臓を片方売ることになっちゃったんだけど、まあ、元気です。ボコボコにされて、右目とかもめちゃくちゃ腫れてるんだけど、まあ、大丈夫です。ボコられてる途中で全部漏らしちゃったけど、まあ、大丈夫です。すっきりして最高の気分! 僕は、まあ、大丈夫です!
みんな、貝柱町はとってもいいところだから、こぞって来てね!
最後に、僕から一言。
スイミーが人面魚の話だったらと思うと、ぞっとする。人面魚の集合体じゃなくてよかった。心からそう思う。一匹の人面魚ならまだいいんだけど、人面魚が集団で来られると怖い。集団の人面魚が全員こっちを見ていたらもっと怖い。僕はそう思う。本当にそう思うんだ。
またね!
制作:貝柱町観光推進委員会
貝柱町観光パンフレット 春雷 @syunrai3333
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