暴れろ、本能4
「悪かったな。ただ奪うようなことはしない。レオにも……あんたにも認めてもらって、立派な嫁になってやるよ」
力で奪い取ることは簡単だろう。
しかし力で奪い取っても信頼関係は築けないし、それでは人間どもと同じようになってしまう。
ラオナールはサバサバとした性格のようでフーニャの態度にも不愉快になった様子はなかった。
むしろそんな風にモテるレオに対してより興味を持ったし自分も加わりたいとすら思った。
「見てろ、私の力を!」
「……なかなか豪胆な人だな」
ラオナールは自分が空けたアルモフトラズ刑務所の穴に向かう。
続々と飛び出してきていた獣人たちの数も減り、看守が獣人たちを追いかけてきていた。
「オラァ!」
素早く看守に近づいてラオナールは拳を振るった。
ラオナールの拳は看守の顎に直撃して頭からぶっ飛んでいく。
「やるんだ! 時間を稼げ!」
武装した解放軍の獣人たちもラオナールに加わって看守と戦う。
ラオナールが一撃で殴り飛ばすから分かりにくいが看守たちもど素人ではない。
いざという時に囚人を制圧できるように看守もある程度戦える人たちなのである。
ただそれでもラオナールの暴れっぷりは恐ろしいぐらいで拳を振れば人が飛んでいく。
見てろというだけのことはある。
「レオ、頼む!」
「分かりました!」
レオがまだ残っていたのには理由がある。
『モフポイントを12使い、アースケモフッキンウォールを発動します』
戦っていた獣人たちが一斉に引くと同時にレオが地面に手をついた。
地面がせり上がり、ラオナールが空けた穴を塞いでいく。
「おお、こりゃすげーな」
結構大きな穴であったのにあっという間にレオの魔法によって塞がれて看守と獣人はアルモフトラズの中と外で分断された。
「……ただ何でちょっと線が入ってるんだ? 彫刻的……というか」
ラオナールがレオの魔法に感心しながらも首を傾げた。
レオが作り出した壁は当然のことながらただの壁ではなかった。
うっすらと壁に線が入っている。
「……腹みたいだな」
ラオナールは壁の形がまるで鍛え上げられて割れた腹筋のようだと思った。
ただ腹筋でありながら表面はわずかに毛で覆われているような質感まで再現されていて毛が薄いタイプの獣人の腹筋に見えるのだ。
なぜなのかは知らないけれどレオの魔法はケモッ娘モチーフになっている。
可愛いからレオとしては気に入っているが周りから見た時にレオの魔法はかなり不思議な感じなのである。
なぜわざわざ魔法で変な形を作るのか、と。
でも別にレオがやりたくてやっているわけじゃないのでしょうがない。
「逃げるぞ!」
獣人たちは助け出した。
あまり長居するとよくないので解放軍も撤退する。
看守との戦いで怪我をしてしまった獣人もいるので気遣いながら森の中を走り抜けていく。
「かなりの数が残っているな」
森を抜けると先に逃げた獣人たちが待っていた。
解放軍もこの日のために準備をしてきた。
収監されてしまったということは帰る場所もない人であることも少なくないので解放軍で引き受けるつもりだった。
バラバラに逃げ行った獣人も多くいるが意外と解放軍と共にいる、頼ろうとしてくれる獣人も残っている。
「我々はこのまま逃走を続けて奥地にある拠点に向かおうと思う!」
トブルが今後の計画をざっくりと説明する。
解放軍の拠点は人の町中にあるものだけじゃない。
人が立ち入らないような場所にも隠れて拠点を築いているのだ。
そこに獣人たちを連れていくつもりだった。
「待て!」
「なんだ?」
解放軍についていけない者は去ってくれていいと言われて去り、移動を開始しようとしたところでトブルを止めた獣人がいた。
一見するとトラにも見えるぐらいの体つきのいい猫の獣人でトブルが説明をしている時後ろの方で腕を組んで気に入らなそうにしていた人である。
「どうして俺があんたらに従わなきゃならない?」
「解放軍についてくるのが嫌なら去ってくれて構わない」
「……そうじゃない。獣人ってのは強い方が偉いだろ? なら俺が解放軍の幹部としてみんなを率いるべきだとは思わないか?」
演技っぽく周りに語りかけるようにしながら猫の獣人はニタリと笑う。
要するに美味しいところ全部寄越せと言っている。
自分の方が強いのだからと解放軍の地位も物資も全て手に入れようとしている。
「ラオナール、頼めるか?」
「おう、任せとけ」
トブルは猫の獣人を冷たい目で見て、ラオナールは腕を回しながら笑って前に出る。
「なんだ、女か?」
「はははっ、強いのが偉いならこの場で決めようぜ? どっちが偉いかをよ!」
「ふん、いいだろう! 先に一発くれてやるよ」
「はっ! ありがと、よっ!」
いきなり始まったマウント合戦。
レオはラオナールが大丈夫か心配そうに見ていたけれどそれは杞憂だった。
看守たちも一撃で倒していたラオナールの姿を先に逃げた猫の獣人は知らない。
知っていたら何かが違ったのかはレオには分からないけれど猫の獣人はラオナールのことを甘く見すぎていた。
「ぐおっ!!!!」
翼も生えていない獣人が空を飛んだ。
ラオナールが遠慮なく猫の獣人の腹に拳を叩き込み、猫の獣人はその衝撃で宙に舞い上がった。
「これでどっちが上から分かったな」
そのまま猫の獣人は気を失って地面に倒れた。
他にも何人か怪しい目をしていた獣人がいたのだが猫の獣人の姿を見て、もうこれ以上反抗するような人はいなかった。
「どうだ?」
ラオナールは最後レオにウインクをしてフーニャとミカオはムッとしたようにラオナールを睨みつけていたのであった。
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