ケモッ娘を増やそう4

「ただちょっと協力してほしいことはある」


「……なに?」


「君のことをモフらせてほしい」


 真剣真面目なことであるようにフーニャの目をまっすぐに見つめてレオは言う。


「モ……フ?」


「そう」


「モフって何?」


 どうにかこのまま押し切りたかったけれどやはりそんな簡単にはいかなかった。


「君の体を撫でさせてもらったり……いや、撫でさせてもらいたい」


 レオは学んだ。

 吸うというのはケモッ娘にとってハードルが高いと。


 フーニャに嗅がせてくれ、吸わせてくれというとせっかく歩み寄ろうとしているのに離れてしまう。

 だから撫でさせてくれに止めた。


 偉いと自分でも思う。

 この世界のケモッ娘の価値観に合わせた踏みとどまりができるようになった素晴らしいケモナーである。


「……えっちなことしたいの?」


「…………にんっ!」


 フーニャの言葉にレオは搾り出すような声を返した。


「それどっちなのよ……」


 決してやましいことではない。

 ただやましさがないかと聞かれるとやましさはある。


 すけべ心もないかと聞かれるとすけべ心もいくばかりはある。

 えっちなこともしたい。


 だって健全な男子だもの。

 しかし紳士たるケモナーは自由を条件にいかがわしいモフ行為に及ぶことなどないのだ。


 ただ触る位置によって純度100%でえっちな行為ではないと言い切れないので変な返事になってしまった。


「どこを撫でるの?」


 猫のケモッ娘なら尻尾の付け根だろうな。

 けれど尻尾の付け根ではお尻に近すぎる。


 えっち度高めのモフ行為とみなされる可能性がある。

 レオは頭の中で一瞬で考えた。


 ここもジェントルを押し出していくべきだ。


「頭や……顎を」


「頭はいいけど……顎?」


 頭だけに留めておけばよかったのに溢れ出るケモッ娘愛を抑えられなかった。


「そうだ、顎だ」


 もうこの際堂々とするしかない。

 レオは変態紳士の表情を保ったままフーニャの目をまっすぐに見つめて頷いた。


「まあ……それで自由にしてくれるならいいよ」


 交・渉・成・立!


「それじゃあまず君を自由にしたいと思う」


「うん」


「少し首輪に触るよ」


「どうぞ」


「……座ってくれるかな?」


「分かった」


 フーニャはデカい。

 前に立つと頭半分ほどレオよりも身長が高いのである。


 だから首の位置も高いのだ。

 下から見上げるのも絶景であるが座ってもらった方がレオにとってもフーニャにとっても楽。


『ケモアイを発動します。

 奴隷拘束の首輪は相手を従属させる魔法がかけられています。モフポイント35で魔法を破壊することができます』


 軽く首輪に触らせてもらいながらケモアイで情報を見る。

 ミカオの首輪もよりも必要なモフポイントが高い。


 モフポイントが足りないとレオは思った。

 現在のレオのモフポイントは26。


 ミカオの頭を軽く撫でさせてもらったりして回復したりもしたのだが身体強化や魔法を試したりして多少使ってしまってもいたのだ。

 そのためにモフポイントが足りていなかった。


 ミカオの時を基準にしても足りていないので足りないだろうとは思っていたが、思っていたよりもモフモフしなきゃならないようだ。

 仕方ない、足りないから。


 フーニャの自由のためだしフーニャの体、モフモフの毛で支払ってもらう必要がある。


「やっぱり少しモフ……触らせていただく必要があるみたいだ」


「奴隷の首輪外すのに?」


「そうなんだ」


「まあ……本当だよ」


 いまいちレオが信用しきれなくてフーニャはミカオのことを見たけれどウソじゃないので困ったように肩をすくめる。


「いいよ」


 フーニャはレオの方に頭を差し出した。

 どうせまだ奴隷の首輪をつけているのだからフーニャに拒否権はない。


 撫でなきゃ奴隷の首輪を外せないというのは奇妙な話だけどそんなことをするのにウソをつく必要もない。


「あっ……」


「痛かったか?」


「う、ううん」


 優しく手を乗せられてフーニャから思わず声が漏れた。

 誰かに頭を撫でられるなんて小さい頃に親にやってもらって以来である。


「う……にゅう……」


 至高。

 ミカオとはまた違う柔らかな毛の感触。


 レオは全ての感覚をフーニャの頭を撫でる右手に集中させた。


『ケモッ娘フーニャの頭をモフりました。

 同意のあるモフです。

 接触の少ないモフりです。

 フーニャは気持ちよさそうにしています。

 得られるモフポイントが増加します。

 モフポイントが3回復しました』


「嫌じゃないか?」


「うん……」


 思ったより嫌じゃないとフーニャも内心驚いていた。

 もっと痛いようにされるとか、乱暴な感じを想像していた。


「顎もいいか?」


「うん、いいよ……」


 受け入れるようにフーニャが顎をわずかに上げる。


「いくよ……」


「あ……ん……ごろごろ……」


 レオの指先が優しく触れ始めると吐息を漏らす。

 そして撫ぜていくとフーニャの喉がごろごろ鳴り出した。


『ケモッ娘フーニャの顎をモフりました。

 同意のあるモフです。

 接触の少ないモフりです。

 フーニャは気持ちよさそうにしています。

 得られるモフポイントが増加します。

 モフポイントが5回復しました』


 前髪の奥で可愛らしいフーニャの目が細められるのがチラリとレオからも見えた。

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