本格的モフ行為1

 レオがいるのは地下なので元々暗い。

 ミカオが松明をつけてくれているけれど思いの外松明も明るいものではない。


 聞き間違いでなければ夜起きて待っててほしいとミカオは言った。

 地下牢では時間も分からない。


 しかしレオはミカオが何をしてくれるのか期待で目をギンギンにして待ちわびていた。

 期待をしてはいけないと思いつつもどうしても期待はしてしまう。


 ここ数日極力紳士的に振る舞ってきてミカオとの関係も良くなってきたように思える。

 おモフリさせていただけるかもしれない。


 もしかしたらレオにとってはこれが最後のチャンスになる可能性もある。

 どれほどの時間が経って、外が今いつなのかも分からないけれどひたすらに待っていると階段を降りてくる音が聞こえてきた。


「ミカオ」


 降りてきたのはもちろんミカオだった。

 手には小さい燭台を持ち、ミカオは蝋燭の炎を見つめるように少し俯き加減に頭を下げている。


「……ミカオ?」


 ミカオが松明の炎を消した。

 蝋燭の光ではほとんど真っ暗なのと変わらなくなる。


 金属音がレオに聞こえてきた。

 牢屋の扉が開く音。


 ミカオが入ってきた。

 蝋燭の小さい火がミカオのシルエットをぼんやりと映し出している。


「その……ちょっとだけあっち向いてて」


 蚊の鳴くようなか細い声。

 これまでミカオは割とハキハキと話す方だったのに珍しい。


 レオは素直にミカオがいる方から顔を背けた。

 視覚の情報が少ないとどうしても音に対して敏感になってしまう。


 ミカオが蝋燭を床に置いて、小さく唸るような声を出している。

 何かを悩んでいるようだとレオは思った。


「ミ……ミカオ!?」


 シュルリ。パサ。

 その音をレオはミカオが服を脱いだ音に聞こえて焦った。


「私を……助けてくれるんだよね?」


「あ、ああそのつもりだけどなんで……」


 気になってレオは視線を向けてしまった。

 光が弱く全ては見えないけれどミカオの体のシルエットが変わっている。


 より体のラインがハッキリとしている。

 やはり服を脱いでいたミカオは恥ずかしそうに手で体を隠していた。


「お腹……吸うんだよね……?」


 恥ずかしさにかすれた声。

 レオは一瞬で状況を理解した。


 ミカオはレオにお腹を吸わせてあげようとしているのだ。

 奴隷の首輪を破壊するためにモフることが必要だと最初に説明した。


 その中でモフるとは顔をうずめてにおいを嗅いだりするとも言った。

 さらにお腹に顔をうずめたいとも口にしてしまった。


 ミカオの中でその印象が強かった。

 だから時間が経つほどに奴隷の首輪を破壊するためにはお腹を吸わせる必要があるというところばかりが記憶に残ってしまっていた。


 まだちょっと緊張するし多少抵抗感はあるけれど、自分のことを魅力的だと言ってくれたレオならとミカオは思ったのだ。

 流石に昼間からそんなことする気にはなれなかった。


 だから夜に、松明を消して極力暗くして、ミカオは覚悟を決めたのであった。

 暗闇、そして全身に毛が生えていることからケモセーフではある。


 しかしアウトだ。


「ふ、服を着てくれ!」


 レオは目をつぶり、再び顔を逸らした。


「ど、どうして? やっぱり……私じゃ」


 ミカオはショックを受ける。

 口ではああいながらやっぱり獣人を受け入れはしないだと思った。


「そういうことじゃないよ!」


 本音を言うならこのまま押し倒して存分にモフリたい。

 千載一遇の好機、こんなチャンス二度と訪れるか分からない。


 ミカオの勇気も分かる。

 けれどこんなところでモフ行為に及んではミカオにも失礼になってしまう。


 ミカオは今勢いに任せてモフられようとしている。

 それではダメだ。


 もっとお互いを知り、納得した上で深いモフ行為に及ぶべきであるのだ。


「あっ……」


 レオはそっと手を伸ばしてミカオの手に触れた。


「君は魅力的だ。だからこんな風に体を差し出さなくてもいいんだ」


 勇気を出してくれたことはありがたい。

 結局モフらなきゃいけないのであるがお腹まで差し出す必要はないのである。


「で、でも必要だって」


「うん、必要だけどもっと平気なところ……首とかそんなんでもいいんだ。それにうずめるだけじゃなくて……頭撫でさせてもらうとか、よければ肉球触らせてもらうとか」


 もっとソフトなモフ行為から。

 お腹に顔うずめて吸わせてもらえれば効率もいいのかもしれないがケモッ娘には紳士たれという格言がある。


「それでいいの?」


「ミカオ、君の嫌がることはしない。お腹に顔をうずめるのだってかなり勇気がいるだろう?」


「正直……ちょっと怖い」


「じゃあ、今はいいよ。でも……頭撫でてもいいかな?」


 薄暗いミカオのシルエットが頷いた。


「ありがとう……ミカオは優しいね」


「ん……」


 痛くないように、怖がらないようにそっとミカオの頭に手を乗せる。

 ケモッ娘の頭だぁー! という内心のフェスティバルを抑えて優しく、紳士的にミカオの毛の手触りを堪能する。


『ケモッ娘ミカオの頭をモフりました。

 同意のあるモフです。

 接触の少ないモフりです。

 ミカオは嬉しそうにしています。

 得られるモフポイントが増加します。

 モフポイントが4回復しました』


 ミカオの尻尾が激しく揺られている。

 どうやらミカオは撫で撫でを受け入れてくれているようだった。

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