より良き世を呼び寄せたい天使のお相手は巻き戻しアラカン野郎

神無月ナナメ

プロローグ「天使と運命の交錯で」

――「大人になれるって信じてたんだよ。だけど大人になれず身体だけが老化した」

 見ればわかる巨体の女装家マチコ・デラックスが冠番組でしみじみと語る本音だ。


「健やかな精神のままで大人に成長できるならいい年の取り方って信じてたのよね。

でも物わかりいい年寄りなんてこの世にいなかった。みんなでわがままに年を食う。

それでも自分だけ最後まで若いと信じこんで死ぬの」五十路をすぎて悟ったようだ。


 齢を経るたびに老化して得るものより失うことが増えても傲慢な人は気づかない。

結局のところ『若さゆえの過ちを避けられず』赤い人は三倍速で短い命を散らした。



【悪い意味じゃなく歴史で名を残したい】厨二病に罹患すると抱きやくなる妄想だ。

 ダメな意味で大人になれない……承認欲求こじらせ系の頂点位置にいるワナビー。


 もちろん家族を持てない代償として無料小説サイトに三十路すぎで投稿を始める。

生涯人気がでることなく諸行無常を感じながらあっさり消えゆくはずの人生だった。


 因果律に弄ばれたアラカンおじさんが二十代まで巻き戻しやり直すリ・スタート。

大阪生まれのオタクが契りを交わした……六枚羽見習い天使と世界を変える物語――




シーン1(見習い天使マリア視点で物語が始まる)



――『やっと最終形まで進化して不器用じゃん。失敗ばかりでもワンチャンある?』

 あらゆる超銀河文明がたどり着けない閉鎖空間で引きこもった天界は退屈すぎた。


 薄もやの広がる領域で七色に包まれた【見えない存在】悩める愚痴が周囲に響く。


 はるか古時代から……いつか天使が訪れようと願う遠い場所にある噂のチキュウ。

背羽六つに別れたタイミングで次はわたしだと妄想すればお師匠さまの招集だった。


【あんまり見ないパターンだけど……報われなかった人生をやり直す再チャレンジ。

抜けた部分ばかりで生真面目すぎるマリア。あなたなりの頑張りでお役に立ち……】


『…………ぐしゅんありがとうございます。わたしなりに生命の限り尽くしましゅ』

 待ちに待ったどころじゃなく後輩に追い抜かれたあたしにとっては最後の希望だ。



 半端な実体化は問題しかないのに選出された喜びで打ち震えると小言の追い打ち。

休憩なしで長いお説教タイムからこれから必要になる資金入手方法まで伝授される。


【こんなもんね。いってら】いきなりの追放は慈悲がない強制転移で波乱を呼んだ。

『意識を回復できても唐突すぎる状況変化に……理解できるもんじゃないからさぁ』


 ほんそれマジやばじゃね。お師匠さまに放逐された並行世界ってチキュウのどこ?

右上に小さく再生される倍速画像が同視点ちょっぴり先の未来予想っぽくて悶える。


 天界から地球を訪れたばかりで信仰者一人いるはずのない天使見習いは精神体だ。

せめて相性いい宿りビトと対等に契約を結べれば……意識して声と姿は顕現できる。


『ああっ……三秒前に戻して!』堺に繋がる二十六号は片側三車線で路面が真っ白。

 アレなら相性バッチリ……左足を紅に染めたバイク少年の人生はここで崩壊する。



 お師匠さま信じなくて申し訳ありましぇん。見ただけで話さずにわかっちったよ。


 振り返ると背後に脇道……迫りくる軽トラっぽい排気音で指先のチチンプイプイ。

転がる錆びた女児用三輪車をトラック運転手の目前に割り込ませる形で放りこめた。


 あのパートナーが愛すべき生命すべてに優しいヒトなら永遠の時間を歩めるよね。準備は万端……現実からトリミングの仮想空間で構築する児童公園にジャンプした。



『改めまして未来の契約者さまっ。お師匠さまの直弟子で階位セラフィム天使です』

 てへっと可愛く舌だしアピールしながら見つめる彼は眠りから覚める気配もない。


 穏やかな寝息の彼は優し気な童顔でイケメン……ストレス太りと肌荒れが目立つ。

ちょっぴり小柄で……余計なお世話だけど最適化して健康に長生きしてもらおうか。


 これから彼とコンビを組んで【世界の良き改変】長いお役目を務める使命がある。

ただ一つの懸念はあたしたちに共鳴する彼が望んで引きうけてくれるかどうかで――




シーン2(仮想空間で目覚めた直後の主人公)



「訳がわからないよ?」出勤途上の二十六号線は大阪に珍しい積雪から路面凍結だ。

 白塗り幹線道路に車影が見えずアクセル全開……いきなり視界はブラックアウト。


「天使に見つめられた?」謎めいた予感が芽生えると暖かい何かで全身を包まれる。

 結局のところ意識は失くしても痛みを感じずに柔い背中で安心して体ごと預けた。


 問題なく呼吸できるし周囲は市街地でよくある風景……児童公園のベンチっぽい。

愛車ホンダMBX-50はちゃんと視界に見える位置でスタンドを立てた路肩停車。


 いきなり鬱蒼としたジャングルに強制転移させられた訳じゃないからそこはいい。


「……空飛ぶ六枚羽のフィギュア天使ちゃんだよ。上位なんだっけ……ここ天国?」

 なんとなく思いついて垂れ流す独り言と同時に頭を濁流みたいな激痛で貫かれた。



 意識を失う前の想いは【機械エンジェル人形・レイヤー】じゃない彼女と意思疎通を深めたいなぁだ。

妖精ちゃん……バイストン・ウェルにいるミ・フェラリオならそれはそれでいいね。

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