回復するより攻撃魔法を使った方が魔力消費が少ないから攻撃魔法ばかり使っていたサブヒーラーはパーティを追放されました

いかづち1

1章 ギルド設立編

第1話 決意

 ダンジョン都市クランド。20年前にダンジョンが発見されたこの都市は発展と数回のダンジョンブレイクによる破壊を経てダグラス領で最大の都市となった。一攫千金を求めて多くの人間がこの都市に希望を胸に膨らませてやってくる一方でその多くが帰らぬ人になり、富を手に入れるのは才能のあるごく一部の人間というのがこの都市の現実だった。だから、自分の才能の限界を感じていたレインがダンジョン攻略の最前線から脱落するのは当然のことだったかもしれない。とはいえ、彼の場合はパーティからの脱退というのがその理由だったわけだが。


「レイン、おまえはここまでよく戦ってきたと思う。初級魔法しか使えないおまえがここまで戦えたのは奇跡に近いと思う。だけど、俺たちがさらに先に進むことを考えるのならおまえとはここで別れないといけない。」


 パーティリーダーのケビンに話があると呼び出されて最初に切り出されたのがこの言葉だった。理由は分かっている。初級魔法しか使えない俺はダンジョンの下層に潜るにつれて自分でも自分の火力不足に気が付くほど効果的なダメージを出せていなかった。魔術師のくせに足止めが精いっぱいで味方に助けられなければ俺はあの階層の敵は倒せないことを強く実感していた。つまり戦力外通告だ。


「そうだよな。なんとなくわかっていたさ。俺たちはここしばらく最高攻略層の更新ができてなかったからな。何かを変えなきゃいけないことも分かっていたし俺があまり戦力になれていないのも分かってた。俺も変えるなら俺のところだと思ってたところだ。」


 自分でも気が付いていたが目をそらしていた現実だった。ケビンとは3年間パーティを組んできた。彼と共にダンジョンに潜るようになったことで一時はダンジョンの最下層攻略パーティになることもできた。


「ケビン、世話になった。ステラにもよろしく伝えといてくれ。」


 こうしてレインはダンジョンの攻略組から去っていった。





「さて、これからどうしようかな。」


 パーティの拠点として使っていた建物から荷物をまとめて自分の拠点にしている家に帰ってきたレインはこれからの生き方を考える。とはいえ途方に暮れているわけではない。初級の回復魔法が使えるレインは回復術師が不足しがちなこの街では職にあぶれるようなことにはならない。むしろ引く手あまたと言ってもいいかもしれない。ケビンたちとのパーティで俺が攻撃魔法を使っていたのはステラという最強回復術師がいたからであり、俺は必要があれば回復魔法を使うサブヒーラーの役割だった。とはいえ、俺が回復魔法を使わなければいけない事態になることは少なくむしろ攻撃魔法を使う事で味方の被弾を減らした方が魔力効率が良かったこともあり、回復魔法を使う機会は稀というレベルでしかなかったわけだが。


「とりあえずギルド協会に行くか。あそこならパーティ募集もしてるだろうし、それ以外の仕事もあるだろうし。」


 ギルド協会とは数ある冒険者ギルドを取りまとめる組織で冒険者ギルド間の揉め事の解決や冒険者登録など仕事は多岐にわたる。臨時のパーティ募集の掲示板があったりギルドに所属してない人向けのクエスト依頼が張り出されていたりと何かと便利な施設でもある。

 ギルド協会に入ると中は閑散としていた。というのも冒険者は朝出発して夕方に戻ってくるという生活リズムを送る人が多い。そして、パーティ脱退やらなんやらでお昼を過ぎた今頃はかなり人が少なくなる。レインはお目当ての人物を見つけると声をかけた。


「リンさん久しぶりです。」


 声をかけられた女性は驚いたように振り返る。リンはレインが何度も相談に乗ってもらった相手であり、かなりお世話になってる人物だ。


「レインさんこんな時間に珍しですね。どうかしたんですか?」


 レインも多くの冒険者の例に漏れずダンジョンに行くときは朝にダンジョンに潜り夕方に帰ってくる生活をしていたためこの時間にギルド協会に顔を出すのはかなりレアと言えるだろう。


「実はパーティを抜けることになりまして、その報告に来ました。」


 レインがそう言うとリンは驚いた表情をする。実は冒険者がパーティを抜けたり、パーティそのものが解散になることは珍しい事ではない。ただ、リンはレインがケビンと組むようになる前からの知り合いでレインとステラはリンがレインと初めて会った5年前からずっと共に組んできたことを知っている。


「まさかあなたがパーティを抜けることになるなんて。何が原因なんですか?」


「単純に俺の実力不足ですよ。初級魔法しか使えない俺が潜るにはあいつらの戦場は深すぎる。それだけです。」


 レインはばっさりと言い切る。


「そうですか。そういう結論になっちゃうんですね。」


 きっとリンは俺たちが攻略階層を更新できていないことを思い出したのだろう。


「それでレインさん、あなたはこれからどうするつもりなんですか?」

「それを悩んでいて相談に来ました。」


 こういう状況の時、レインの一番力になってくれそうなのは彼女だとレインは思っていた。


「まあ協会としては回復術師としてベースキャンプに常駐してくれると助かるんですけどそれはこっちの都合ですし。レインさんの場合は実家とよりを戻すのもありだと思うんですけど。お父さん、あまり体調良くないんですよね?妹さんはレインさんの帰りを待ち望んでいるんですしこの機会に一度顔を出しに行くのもありだと思いますよ。」


 リンはレインの素性を知る数少ない人間の一人だ。訳あってレインは家を追い出されて冒険者になった身だ。2つ下の妹はレインのことを慕っており、レインの帰還を切望してるのだが両親とは絶縁状態と言っても過言でない状態だ。


「実家に帰るはとりあえず無いですかね。家出たことを後悔してないですし帰っても何も解決しなさそうですから。しばらくはこの街でやっていくつもりです。」


 リンはレインの道を探っていく。


「そうですか。レインさんは実力不足とおっしゃりましたけどもうダンジョンに冒険者として潜るつもりはないんですか?」


 レインがこの街に残るとしても冒険者を続けるのか、それともそれ以外の仕事に就くのかという質問だ。宿屋や飲食店など冒険者をサポートする仕事で街で働き続けるという選択肢もある。レインの場合は回復魔法を使えることを活かしてダンジョン内にあるベースキャンプで働くのが一番あり得る道か。


「俺は10年前のダンジョンブレイクを見たから冒険者になろうと思いました。あの悲劇をもう起こさないで済むために俺はこの街で冒険者をやっています。」


 レインが冒険者を志した起源、10年前に起きたダンジョンブレイクにレインは遭遇した。その時に感じた無力さが原因でレインはあるものを勉強し家を追い出される事態にまで発展した。レインはその初心を思い出す。


「どうやらレインさんの中で答えは固まったみたいですね。」


 レインの表情が変わったのを見てリンは微笑む。


「俺じゃあ、あのダンジョンは攻略できません。でも、攻略できる人材を育てることは出来るかもしれない。だから、俺は冒険者ギルドを作ります。」


 ダンジョンは最深部まで攻略してコアを破壊すると無くなると言われている。しかし、おとぎ話の世界を除いて未だ人類が最深部まで到達できたダンジョンは無い。だから、本当にダンジョンを無くすことができるのかわからない。それでも悲劇を起こすダンジョンをこの街から無くすこと。それが冒険者になった時の目標であり、それは今も変わらない。自力での達成が困難なら手段を変えるだけだ。まだ道が途絶えたわけではない。それならとレインは新たな道に進む決意をする。

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