第14話:内緒の話




 学園に着くと、王太子の奇行の原因を知る事となる。その答えを持っていたのは、ヴァルトだった。

 教室にマルガレータが入って来た後、王太子が追うようにして入って来たのを見て、口の端を持ち上げながらマルガレータへと近付いて来たのだ。


「おはようございます。マルガレータ嬢」

「おはようございます。ヴァルト様、ヨハンナ様」

「おはようございます」

 三人で朝の挨拶を交わしてから、いつものように席に着く。


 マルガレータが婚約解消になったので、マルガレータとヴァルトもお互いに名前で呼び合うようになった。

 そこには、王太子への嫌がらせも少し含まれている。

 たとえ王太子であっても、本人の許可が無ければ名前では呼べないからだ。


「もしかして、殿下が屋敷に突撃した?」

 どこか楽しそうなヴァルトに、マルガレータは深い溜め息と共に肯定の返事をする。

「まだ婚約者かのように振る舞われ、とても迷惑しております」

 マルガレータの返事を予想していたのか、ヴァルトは何度も頷く。


「実はここだけの話なのだけどね」

 声を潜めて話し始めた内容は、本当に他へは漏らせないものだった。




『大分変わっておりますわねぇ』

 いつものように馬車の中。マルガレータの前の座席に座っているティニヤが感心したように呟く。

 朝一でヴァルトがした内緒話は、なかなか衝撃的なものだった。


 隣国へ長期留学という名の厄介払いをされていたアールト第二王子が、近々帰って来るというものだった。

 ティニヤの時は、隣国の第二王子が二年生の時に留学に来ただけで、アールトは帰って来なかった。

 そのまま隣国の反乱で命を落とすので、祖国の土を踏まずに人生を終えている。


「この時期での帰国という事は……」

『王太子の変更も視野に入れてるのでしょうね、国王だが王宮だかは判らないけど』

 だから王太子は、慌ててマルガレータとの関係を修復しようとしたのだろう。



「婚約者の令嬢も一緒に来るのかしら?」

『来るとしたら隣国の王子の留学時に一緒に、でしょうね。兄の公爵令息が王子と同い年ですので、兄の留学に付いてくるていで』

「その公爵令息は、ティニヤの時は?」

『いらっしゃらなかったですわね。第二王子の単身留学でした』


 今回はアールトが王太子になる可能性も有る為、隣国の第二王子の留学も意味が変わってくるだろう。

 それならば尚更、公爵令息も一緒に来そうである。

 公爵令嬢への王太子妃教育も始まるかもしれない。



 もしも第二王子が本当に王太子になったら、間違い無くリエッキネン侯爵家は彼を支持するだろう。

 ヨハンナのイカヴァルコ侯爵家も、ヴァルトのシエヴィネン公爵家も。

 特にヨハンナが隣国の第二王子と恋仲になれば、今回は隣国へ嫁ぐ可能性も有るのだ。


 王太子以下の王子は貴族へ婿入りするしかないこの国と違って、隣国は大公の地位が与えられる事もある。

 条件は有るようだが、基本的にくだんの第二王子は優秀らしいので問題無いだろう。


「親友のヨハンナには、幸せになって欲しいわ」

 27歳にもなって未だ婚約者もいない王弟などではなく、愛し愛される関係の第二王子と婚姻して。


 ヴァルトは婚約者がいなくなってしまうが、公爵家の後継者であり性格も良く、更に見目まで良いならば、簡単に次の婚約者が決まるだろう。


 そこまで考え、マルガレータはふと気付く。ヴァルトの婚約者だったはずの女生徒は、今はどうしているのだろうかと。

 どこの誰なのかはティニヤも言っていなかったので、今まで気にした事も無かったのだ。



 ヴァルトが婚約解消をしたら、その女生徒と今回も婚約するかもしれない。

 それならば今から仲良くなっておけば、ヨハンナとヴァルトが婚約解消しても、皆で一緒に学園生活を送れるかもしれない、と。


 しかしその考えは、すぐに壊れた。

『曾祖父様の婚約者? 牛娘の親友の伯爵令嬢ですわよ。牛娘はシエヴィネン公爵家とは遠い親戚だから、その関係で結ばれたのかもしれないわね』

 すっかり忘れていたが、入学式の日に、ヴァルトもサンナを親戚だと言っていた。


「それは、仲良くなれそうも無いわね」

『仲良くなるつもりでしたの?』

 ティニヤの問いに、マルガレータは首を傾げる。

「ええ。時期はズレても、その方と婚約をするのだろうと思いまして。それにヴァルト様がその方と婚姻しなければ、ティニヤは生まれないでしょう?」

 マルガレータに言われ、ティニヤは曖昧に笑った。



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