アリバイが示す誤算

天川裕司

アリバイが示す誤算

タイトル:(仮)アリバイが示す誤算


▼登場人物

●掛川(かけがわ)ミドリ:女性。35歳。普通のOL。順次の恋人。

●奥野順二(おくの じゅんじ):男性。37歳。浮気性。

●白井由里香(しらい ゆりか):女性。30歳。順次の新しい浮気相手。

●警察:男性。40代。一般的なイメージで。


▼場所設定

●順次の自宅:都営マンションのイメージでOKです。

●街中:取り調べの場所や要所に映る景色など一般的なイメージで。

●由里香の自宅:民営アパートのイメージで。


NAは通常のナレーションでよろしくお願いいたします。

(イントロ+メインシナリオ+解説:ト書き・記号含む=2874字)



イントロ〜


皆さんは痴話喧嘩をしたことがありますか?

その痴話喧嘩の果てに、殺人現場に遭遇したことはありますか?

出来るなら、絶対に経験したくないことですよね?


今回は、そんな殺人にまつわる意味怖のお話です。

アリバイがヒントになりますので、ぜひご一緒に推理してみて下さい。



メインシナリオ〜


ト書き〈痴話喧嘩〉


ミドリ「あなた最近浮気してるでしょう!?」


順二「何言ってんだよ!そんなことしてないよ!」


ミドリ「ウソ!じゃあこの電話番号は一体何なのよ!」


順二「それはただの知り合いだ!変な勘ぐりはよせ!」


女性は掛川ミドリ。男性は奥野順二。

2人はカップル。


いつものように痴話喧嘩していた。

ミドリは細かな事でも何かと疑う性格で、

殊に浮気される事にはひどく敏感だった。


順二はこう見えてなかなかのプレイボーイ。

確かにこれまでいろんな所で女を引っ掛け、

思い思いに遊んできた男。

ミドリは彼のこんなところをひどく嫌悪していた。


でも最近は少し自粛し、ミドリを大事にしようと順次は努力していた。

しかし長年身に付いた習性はなかなか拭えないもの。

昔取った杵柄・浮気癖が最近また出始めたのだ。


この時、ミドリが見つけた電話番号の相手は白井由里香。

最近、順二が引っ掛けた女である。


由里香と順二はミドリに隠れるようにして、

密会の形で会っていた。


ト書き〈2021年5月5日〉


しかしそんな折り…


ミドリ「ウ…ウソ…順二…順二ィイィ!!」


順二の死体が順二の自宅で発見された。


警察「もう1度訊きますが、あなたと順二さんは最近仲が良くなかったそうですね?痴話喧嘩をよくされていたとか?」


ミドリ「え、ええ、確かにそうですが…。…なんですか?私を疑ってるんですか?」


警察「いえいえ、そう言う訳ではありません。これもありていの捜査ですので。確かあなたと彼が最後に会ったのは、5月1日…と言うことで間違いないですか?」


ミドリ「…ええそうです。彼がディナーに誘ってくれて、その夜は一緒に過ごしました。それ以降は電話だけで、会っていません」


警察「そうですか」


ミドリ「あの、警部さん。彼にはもう1人、私に隠れて会っていた別の女がいるんです」


警察「別の女?」


ミドリ「ええそうです。彼が最近浮気していたその相手、名前は白井由里香。彼の携帯電話にも彼女からの着信履歴が残っている筈です」


警察「ほう、浮気ですか」


ミドリ「彼を殺したのはきっとその女ですよ!私は彼と会ってないですし、彼と最後に会ったのがその女だとしたら…」


警察「ふむ。…一応、調べてみましょう」


ト書き〈白井由里香の取り調べ〉


由里香「私が彼を殺したですって!?冗談はやめて下さい!一体、誰がそんな事を言ってるんですか!?」


警察「すみません、これも捜査の一環なんです。ただあなたのアリバイが知りたいだけなんですよ。どうか穏便に。あなたは順二さんと最近、お会いになりましたよね?確かあなたが彼に送ったメールから、デートの予定が書かれた内容があったのを覚えています」


由里香「…ええ、確かに彼とは会いました」


警察「それはいつです?」


由里香「ええと確か、ちょっと待って下さい…」(手帳を見ながら)


由里香「… 5月3日です」


警察「3日…。(と言う事は、彼が死んだ2日前、と言う事か…)」


由里香が順二と最後に会ったのが5月3日。

順二が死亡した2日前であり、

この事のアリバイは知人・友人の証言からも立証された。


警察「恋人のミドリが彼と最後に会ったのは5月1日。そして浮気相手の由里香が彼と最後に会ったのは5月3日。彼が死んだ5月5日には、誰も彼に会っていない事になる。つまり彼が死んだその時点で、彼のそばには誰も居なかった…という事になるわけか」


ミドリと由里香は順二と親しい関係にあった為、

当然、重要参考人として挙げられる。


しかしどちらも彼が死亡したその時点で、

彼と会っていない事のアリバイは立証されている。


かと言って他の人間が彼を殺したとは、今の状況から見て考えにくい。


徹底して捜査が展開されたが、事件発生から間もない事もあり、

犯人を挙げる為の証拠は極めて乏しい。

捜査は少し難航していた。


ト書き〈喧嘩〉


そんな折り、順二の携帯電話から由里香の身許を割り出していたミドリは、

由里香の自宅を訪ね、今回の事で口論していた。


ミドリ「あなたが殺したんでしょう!?彼を返せ!私の彼を返して!!」


由里香「な、何言ってんのよ!私がそんな事をする筈ないでしょう!あなたじゃないの!?あなたは最近彼とよく喧嘩してたそうじゃないの!それが理由で殺したんじゃないの!?」


ミドリ「冗談じゃないわ!私と彼はね、結婚の約束もしてたのよ!浮気相手の分際で、よくもぬけぬけとそんな事が言えたものね!」


(取っ組み合いになる)


由里香「ちょっとやめてよ!やめて!彼はあなたと別れたがってたのよ!私は何度もそう聞かされてたわ!彼は私と一緒になりたいってそう言ってくれたの!」


ミドリ「な、なんですって!そ、そんな、デタラメこいてんじゃないわよ!そんなこと言う筈ないわ!彼はあれでも私を愛してくれてたの!」


由里香「それはあなたの思い込みよ!彼は最後まで私を愛してくれてたわ!あなたと別れて私と一緒になるって、彼がそう言ってくれたのを私はちゃんと聞いたのよ!」


ト書き〈検死解剖の結果〉


それから数日後。

順二の検死解剖の結果が出た。


順二の胃の中からは、2日間何も食べていない痕跡が見つかった。

つまり順二は2日間、飲まず食わずの状態で居たらしい。



解説〜


はい、ここまでの話でしたが、意味怖の内容に気づかれましたか?


それでは簡単に解説します。


今回はラストの場面に注目すればすぐに解ったでしょうか。


順二は5月5日に死亡していました。

そしてその日から遡り、順次は2日間、

何も食べていないことが検死解剖の結果が分かりました。


人が普通生活する上で、断食でもしない限り、

飲まず食わずの状態で2日間も居るという事は有り得ません。


つまり順二は、5月5日から2日間遡った、

5月3日に死亡していたと言うことです。

死亡していたからこそ、

飲まず食わずの状態でいた…と言うこと。


その5月3日に順二と会っていたのは由里香。

そう、順二を殺害していたのは由里香でした。


理由は、ミドリと同じく痴話喧嘩でもしたのでしょう。

浮気ながら彼の事を本気で愛してしまい、

それで口論の末、一服もって由里香は彼を殺害した…

まぁそんなところでしょうか。


そして由里香がミドリと口論していた時に言ったこのセリフ。


「彼は最後まで私を愛してくれてたわ!あなたと別れて私と一緒になるって、彼がそう言ってくれたのを私はちゃんと聞いたのよ!」


この「最後」というのは文字通り、順次が死ぬ直前の事。

その時に順次から聞いた事を由里香はそのまま言ったのです。


この事からも、順二と最後に会った人物は由里香だと分かり、

つまり由里香が順次を殺害していたその経過も分かるでしょう。


恋愛は確かに華やかですが、

その華の裏には刺さりたくない棘もあります。


付き合うべき相手を選ぶ。

そして浮気などの背徳に身を染めない事。


恋愛にも鉄則があるようですね。



動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=wJN3HziRXDY&t=65s

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