タクシー運転手

天川裕司

タクシー運転手

タイトル:(仮)タクシー運転手


▼登場人物

●及川里奈(おいかわ りな):女性。22歳。女子大生。免許持ち(車も所有)。

●及川琴絵(おいかわ ことえ)::女性。27歳。OL。里奈の姉。本編では「姉」や「お姉ちゃん」と記載。

●粟田義人(あわた よしひと):男性。40歳。強姦殺人魔。タクシー運転手に成り済ます。

●栗本哲司(くりもと てつじ):男性。40歳。タクシー運転手。無口。粟田と同じく強姦の罪を犯していた。


▼場所設定

●里奈のアパート:一般的な都営アパートのイメージで。

●街中:山中など一般的なイメージでOKです。

●丸山廃工場:人目の付かない廃屋。工場前に空き地あり。工場周辺は草木が繁り、廃材などもそのまま置かれている。


NAは及川里奈でよろしくお願いいたします。

(イントロ+メインシナリオ+解説:ト書き・記号含む=3811字)



イントロ〜


皆さんこんにちは。

皆さんは普段、タクシーをよく利用しますか?


タクシーやエレベーターと言うのは密室。

その中で何が起きているか分かりません。


今回は、そんな密室を利用した意味怖エピソード。

ぜひお楽しみ下さい。



メインシナリオ〜


琴江「じゃあ行ってくるからね」


里奈「うん♪じゃあ運転手さん、よろしくお願いしまーす」


栗本「…」


里奈「…?」


私の名前は及川里奈。

今年22歳になる大学生。


この日、タクシーに乗り込むお姉ちゃんを見送った。


(タクシーが行った後)


里奈「なんかあの運転手さん、ヤな感じだったなぁ。ムスッとしちゃってさ」


変な運転手さん。

チラッと顔をこっちに向けただけで何の挨拶も無い。


ト書き〈琴江が殺される〉


それから数時間後、お姉ちゃんが殺された。


山中(さんちゅう)まで連れて行かれ、

そこで強姦されて殺された。


あのタクシー運転手は行方不明。


里奈「お姉ちゃん!お姉ちゃあぁあん!!」


私とお姉ちゃんには両親が居ない。


私にとって身寄りはお姉ちゃんだけ。

その唯一の肉親が殺され、私は悲しみのどん底。


警察が全力を挙げて捜査する中、私は1つの覚悟をした。


「お姉ちゃんをやった犯人は、私の手で殺してやる」と。


ト書き〈数日後〉


数日後。

タクシーが発見された。

お姉ちゃんの殺害現場から随分離れた場所だった。


里奈「お姉ちゃん…もう居なくなっちゃったんだ。グス…お姉ちゃん見ててね…。お姉ちゃんを殺した犯人、絶対、私が同じ目に遭わせてやるから…」


1人でアパートに居た時、

なんと犯人から私の携帯に連絡が入った。


犯人「お前の姉をやったのは俺だ。グフフ…お前の姉貴、いい味だったぜぇ」


里奈「あ…あんた…アンタなのね!私のお姉ちゃんを…!殺してやる!!」


犯人「ハッハハ、まぁそう慌てなさんなよ。そんなに力まないでもちゃんと会ってやるよ。お前の姉貴、確かお前から貰ったペンダントを身に付けてたよなぁ。なんでも誕生日にお前からプレゼントして貰ったそうじゃないか」


犯人「それ、今俺の手元にあるんだよ。もし返して欲しかったらよ、今夜10時、丸山工場の廃屋まで1人で来い。これはお前にとっては姉貴の形見のようなもんだろ。大事なモンだよなぁ。いいな、今夜10時だ」


犯人「あーそれと分かってるとは思うが、警察に言ったらもう2度と連絡はしないからな。この1回きりだ。返して欲しかったらお前1人だけで来い」


一方的に喋って、電話は切れた。


確かに私はお姉ちゃんの誕生日にペンダントを贈った。

殺す前にでも姉から聞いたんだろうか。

とにかくその事を知っているとなれば犯人に間違いない。


ペンダントの事はどうでも良い。

犯人と接触する唯一のチャンス。


私の頭にはもうそれだけだった。


警察には言わない。

犯人をこの手で殺すと決めていたから。


里奈「法律の裁きなんかに任せて堪るもんか…!」


ト書き〈工場へ〉


私はそれから犯人を殺す準備をし始めた。

ガソリンスタンドやホームセンターで灯油を買う。

その灯油を小さなタンクに入れて車に乗せる。

そして台車も用意した。


灯油は少量。

車1台を燃やせる分だけあれば良い。


夜の10時前。

言われた場所へ行く。


白いセダン車が1台だけ停まっていた。


犯人に気取られないよう、

工場から少し離した場所に車を停め、

台車に乗せた灯油タンクを押して行く。


タンクは大きな物じゃないから持ち運びは簡単。


工場周りは草木がボウボウと生えており、

廃材やガラクタがあったから身を隠す場所もそれなりにある。


ある程度まで近づくと、車の中が見えてきた。


里奈「ん…?」


よく見ると、車のハンドルに交差した足が掛かっている。

それに犯人の頭が見えない。

更に近付いてみる。


里奈「(こいつ、寝てやがる…)」


犯人はシートを倒し、

足をハンドルの方へ投げ出して眠っていた。


里奈「(こんな状況でよく眠れるわね…)」


私が女だからと、甘く見たのだろう。

私は更に怒りが沸いた。


ト書き〈犯人を殺害〉


私はそれからやるべき事に取り掛かる。

はっきり言って、返り討ちに遭っても良い。

このとき私はもう捨て身だった。


台車を押しながら灯油タンクを傾け、

まず車の周りに灯油を撒く。


そして軽くなった灯油タンクを抱え、

次は車の上から振り掛ける。


里奈「(起きて襲い掛かって来ても構わない)」


私は懐にナイフも携帯していた。


暗がりでよく判らなかったが、

それでも外の明かりで犯人の顔は見えた。


あの時の運転手の顔。

その顔に間違いない。


里奈「馬鹿な男…。さようなら」


私は笑いながら火をつけた。


ボォオオォオっと勢い良く燃え盛る。

ステンレスが曲がる音、ガラスの割れる音が激しく鳴り響く。


そのとき風が吹いたのか、草むらがガサガサ揺れた。


車から跳び出てくるかと思いきや、

そのまま犯人は焼け死んでくれた。


私はそれを見届け、工場をあとにした。


ト書き〈ニュース〉


後日。

焼死した犯人のニュースが報道された。

男の名前は栗本哲司。


タクシー会社も「自社の社員だ」と認めていた。


「怨恨による殺人か?」

とも大々的に報道された。


私の所へ警察が来るのは時間の問題かも。

でも私は別に捕まっても構わない。


ただ自首はしない。


これは正当な復讐。

犯人があんな事をしなければ、私もこんな事はしなかった。

全て犯人が悪い。

私のこの罪も、犯人が背負うべき。


だから私に罪の意識は無い。

あの男は殺されるべき奴だ。


だから私は出来る限り、これまで通りの生活をする。


里奈「お姉ちゃん、私、お姉ちゃんの仇、ちゃんと取ったからね…」


それから数日後。

焼けた車の中からロープが見つかったらしい。


また後日のニュースでは、

タクシー運転手による強姦殺人事件がまだ続いていると報道していた。


ト書き〈後日〉


私はまだ捕まっていない。

私はこれまで通りの生活を続ける上、ある日、用事で都内へ行った。

その時タクシーを利用した。


粟田「どちらまで?」


里奈「恵比寿までお願いします」


走り出すタクシー。


粟田「今日はいい天気ですね」


里奈「そうですね」


粟田「でも、お姉ちゃんは気の毒でしたね」



解説〜


はい、ここまでのお話でしたが、意味怖に気づきましたか?


それでは簡単に解説します。


里奈の姉はタクシー運転手に強姦され殺されました。

その時姉を乗せたタクシー運転手の名前は栗本哲司。


そう、里奈の手により焼死したタクシー運転手です。


ですが、本当の犯人はこの男ではありません。


里奈の姉は確かにタクシーに乗せられ山中へ連れて行かれ、強姦されます。


しかしこの時、丁度その辺りを粟田が通り掛かりました。

そして里奈の姉を襲おうとしていた栗本をその場で絞殺します。


自分が助けられた事により、姉も粟田を信頼したのでしょう。


(回想シーン)


琴江「ハァハァ、あ、有難うございます…」


粟田「大丈夫でしたか?あの、身寄りの方に連絡を…」


こんなやり取りがあり、

その時姉は自分の身内が妹の里奈1人である事を告げ、

「その妹が今アパートに1人で住んでいる」

という事まで教えてしまいます。


これを知った粟田はその状況を利用し、

あわよくば、その妹に罪の肩代わりをさせようと考えたのです。


その後、

粟田は栗本の代わりに姉を強姦し殺害します。

つまりここで犯人がすり替わっていた訳です。


里奈の携帯に電話をかけたのも粟田。

栗本の声を知らなかった里奈は、

それが犯人の声だと信じます。


そして工場の廃屋に呼び出された里奈は、

粟田の思惑通りの行動に出てしまいます。


粟田にとっては、笑いが止まらなかったでしょう。


栗本が乗った車を焼く時、

工場前の空き地の草むらが風に吹かれるように揺れたシーンがありました。


ここでピンときた方も居られたかと思います。


そう、その草むらには粟田が隠れており、

その一部始終を覗いていた訳です。


これら一連の理由は、

栗本を真犯人として仕立て上げ、

その栗本を敵討ちの形で妹の里奈が殺害する…

そんなシナリオを描いていた為。


完全に自分に容疑が掛からないよう、

粟田なりに工作していたのでしょう。


更に焼かれた車から出てきたロープ。

これも粟田が用意していました。


里奈を廃屋工場へ呼び出し、

そこに栗本の絞殺死体も用意しておけば、

「里奈が栗本を絞殺した」

という状況になります。


だから本来の目的は、

里奈を工場に呼び出すだけで良かったのです。


灯油を撒き、焼死体にしてくれた事は、

粟田にとっては嬉しい誤算だったでしょう。


また暗がりという事もあり、栗本の顔は分かっても、

そこで栗本が絞殺されていた事までは気づきません。

里奈は唯「栗本が眠っているだけ」と思い込みます。


死人に口無し状態にしておき、

殺害した姉の妹・里奈にも…

「犯人が別に居る」

と思わせる。


ここまで来れば、警察も簡単には犯人を絞れません。


そして最後の場面で里奈が乗ったタクシーの運転手。

この男こそが真犯人・粟田でした。


粟田はその後もタクシー運転手に成り済まし、

強姦・殺人を続けていました。


その後のニュースで…

「タクシー運転手による強姦殺人事件」

が絶えなかったのはその為。


粟田は姉から聞き出した情報を元に、

里奈のアパートまで割り出しました。


そしてその界隈を、定期的にタクシーで走っていたのです。


この時にはもう里奈の顔も判っていたのでしょう。


そしてチャンスが訪れ、

粟田は里奈も襲おうとタクシーに乗せました。


ラストの粟田のセリフ…

「お姉ちゃんは気の毒でしたね」

この「お姉ちゃん」とは文字通り里奈の姉の事。

これを知っているのは犯人しか居ません。


さて、この後どうなったのか?

何とか逃げ出せれば良いですが。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=G8I3uOB8pAg

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タクシー運転手 天川裕司 @tenkawayuji

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