そこらのおっさんの日記を読む寛容さが世界を救うと思うのです
坂上向
私は大ベストセラー作家である
はずだった。
まだ見ぬ未来に不安を覚える少年少女に温かな希望を。社会の理不尽にぶつかった青年には明日への指針を。戦うことに疲れた中年にしばし休息を。見えてしまった未来を嘆くお年寄りに温かな安息を。
私は老若男女に愛される、押しも押されぬ大ベストセラーであるはずだった。
だが現実はどうだろう。
とっくに不惑も超えたというのに会社の将来に不安を覚え、自らの無能が招いたトラブルに膝を折り、もがくことにほとほと疲弊し、とにかく最後は誰も彼も死ぬだけなのだからと自らを慰める毎日。唯一の趣味であったはずの執筆すら億劫になる始末だ。
大ベストセラー作家どころではない。これでは年甲斐もなく小説家を夢見るただの痛い妄想中年だ。
いや定義の上では四十を超えたら初老だともいう。
つまり私は妄想にふける初老男性である。
どうしてこんなことになったのか。誰か責任を取ってほしい。
*
ワナビの私へ。
僕が知る限り、君は深い人間関係というものから徹底的に逃げてきた人間だ。そんな触れると顔の脂でベタベタしていそうなねちっこい責任を引き受けてくれる親族・知人・友人はいない。僕が保証しよう。
だから責任は君自身で引き受けるしかない。
とは言っても、逃げるばかりの人生を送ってきた君にいきなり責任を負わすのはいささか心配だ。あまり無理をさせるといつかのように部屋から出てこない、なんて事になりかねない。
そこで提案だ。君がここに至るまでの道筋を改めて振り返り、こうなった原因を探るというのはいかがか。原因が分かれば解決の道筋を見つけられるかもしれない。解決策が見つけられずとも、これが君の責任であることをゆっくり理解して受け止める助けにはなるだろう。
君が僕の助言を汲んでくれることを心から望む。
世界で唯一の君の理解者、僕より。
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