踊るご令嬢
おもながゆりこ
第1話
私は自宅の二階を単身用のアパートにしている。
もちろん女性専用で、かれこれ四十年以上経つ。
和室六畳の個室が八部屋、キッチンとトイレ、シャワー室は共同。
だいたい満室で、評判も良い。
これまでたくさんの若い女の子を預かってきた。
田舎から出てきたばかりの大学生や、新社会人。
みんな若く明るく、希望に満ちてこの東京に出てくる。
私は寮母ではないけど、安心して暮らせるよう、世間から彼女たちを守っている自負がある。
門限を夜の九時と決め、男性は出入り禁止という決まりだ。
いかにも田舎の女の子という感じの子たちが都会に慣れ、洗練されていくさまは、見ていて清々しい。
どんどん綺麗になり、愛する人に出会い、結婚する為にここを出ていく、
それがいちばん良い退室のかたちだし、私自身がいちばん幸せな時だ。
彼女を見た瞬間、この人なら大丈夫と思えた。
いかにもおっとりしたお嬢さん風の子で、清楚で清潔そうで、落ち着いた声でゆっくり話す。
芦屋の出身で、このたび都内の有名なお嬢様大学に受かり、アルバイトをしながら通うという。
たまたま留守の時、届いた荷物を渡す為に部屋を開けた時、整理整頓されており、
掃除も行き届いて、ああ良い人が入ってくれたと嬉しくなった。
会えばきちんと挨拶するし、出掛ける格好はいたってお嬢様っぽい。
薄化粧で、服装、持ち物もいたってシンプル。
派手な交友関係も見受けられない。
育ちの良い子なんだろうと思っていた。
だが、半月もしないうちに彼女のおかしな行動が目立つようになった。
まず、彼女は煙草を吸う。
これまで煙草を吸う住人はいなかった。
当然廊下も臭くなる。
そして彼女は部屋を散らかす。
届け物をしようと部屋を開けた時、前が見えないほど散らかっていた。
その上、夜でも大声で誰かと電話を延々としている。
うるさくてかなわない。
極めつけは部屋の中で音楽をかけ、ひとりで踊っている事だ。
下にいてよく聞こえるし、ドスンドスン振動も響いてくる。
たまったものでは無い。
確かに住人を募集する際に煙草の事は考えなかった。
だから煙草を吸わない人にしてくれと、不動産屋に言わなかった私にも落ち度があるのかも知れない。
それにしても彼女の行動は想定外だった。
昨日も彼女の部屋からドスンドスン凄い振動が響いてきた。
もう疲れるだろう、もう疲れるだろうと思って辛抱していたが、一時間近く踊っており
たまりかねて注意しに行った所、彼女はなんと下着姿で踊っていた。
汗だくで暑いから脱いだのは分かるが、お互いびっくりした。
部屋もめちゃくちゃに散らかっており、足の踏み場もない。
ディスコだか、クラブだか知らないけど、踊りたいなら部屋の中ではなく、そういう所に行って踊ってくれればいいのに。
そんな事で出て行ってくれと言う訳にもいかず、私も夫もほとほと困っている。
今度住人を募集する時は、煙草を吸わない人である事、
と共に音楽をかけて踊らない人、と要望を付け加えなくてはならない。
あらまぁ、昨日、注意したばかりなのに、彼女は今日も踊っている。
若いから仕方ないでは済まないほど大迷惑。
ドスンドスン、凄い響きで床が抜けるのではないかと心配になる。
ああ元気だな〜。
また暑くて下着姿なのかな〜?
まだ疲れないのか〜い?
早く疲れてやめてくれーい。
注意しに行きたいけど、昨日と今日、同じ事を注意しづらい。
何故懲りないのか?
何故人の迷惑を考えないのか?
何故そんなに踊りたいのか?
偏差値の高い大学に受かっておきながら、実はバカなのか?
毎日、毎日、踊り狂ってさぞかし気分が良いだろう。
こっちは毎日、毎日、気分が悪い事、この上ない。
ああまだ踊っている〜。
その振動ときたら地震並!
家が壊れる〜ヾ(°∀。)ノノ゙
壊れたらどうしてくれるの〜?
ああもう、我慢の限界(´× ×`)
誰か、彼女を何とかして下さい。
踊るご令嬢 おもながゆりこ @omonaga
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