家の周りを徘徊する甲冑

八月朔 凛

第1話 動く鎧

私の祖母から聞いた話です。

曾祖母の実家は山の奥の裕福な家でした。

まだ物資が今ほど豊かでは無い時代にふわふわの綿の布団があり、家もとても広かったと聞いています。


また、武田信玄の関係武将の末裔であり、鎧兜や刀(血糊がついてるらしい)がありました。


さて、その鎧兜の話です。


曾祖母の母のいちは、とある城から嫁に入ったお姫様だと聞きました。その従者である源太郎がある時、馬車ではねられて寝込んでいたときの話です。


夜中源太郎は寝ていましたが、居間から異質な音がして目覚めてしまいました。


ガシャンガシャンガシャンガシャン


そんな普通に生活していたらとても聞かないような音だったので、驚いた源太郎はそっと足を引きずって居間の方を覗きました。

すると暗い中、鎧が家の周りを徘徊してました。


見間違いだと思ってもう一度見ましたが、黒くじっとりとした鎧が家の周りを徘徊して一周したら満足そうに定位置に戻ると動かなくなったらしいです。


また次の日も音がしたので見てみましたが、全く同じ景色が見れたそうです。


そんなことがあり、源太郎を含む家の者の物が不気味だと言ってた頃に何者かに盗まれました。武田信玄縁(伝)の鎧兜です。売ったら金になりそうと考えたのでしょう。

この時代はとても貧しい時代だったので、盗みはよくある事だったそうです。


とりあえず一応体制だけでもと、村の派出所に盗難届を出しました。


それから1週間経った頃、山と川しかない平和な村で男性の遺体が竹やぶで発見されました。目立った外傷は無く、死因は不明だったと聞いています。


所持品の大きなカバンからは、あの黒塗りの鎧兜が入っていたそうです。


家の者はそれを聞いて余計に不気味で怖かったと聞いています。


それから数年後。戦争が起きて鉄が足りなくなりました。小さな村でも鉄用品回収が呼びかけられ、家の者は丁度いいと言って鎧兜と血糊付き刀をそれに出しました。


だから今は動く鎧兜も刀もうありません。

その後、家は男系の人が居なくなったり子供が居ない関係で、ほぼ断絶したに等しいそうです。今生きてるのは、1人か2人くらいです。


祖母は言っていました。きっと家の周辺を歩いていたのは家を守る為だったんでは無いかと。忠義を果たそうとしたのではないかと。



だとしたら、彼は溶かされる瞬間何を思っていたのでしょうか……そして彼は一体何者だったんでしょうか?



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