007 覚醒ノ接吻

 やがて唇と唇を重ねた。


 覚醒の接吻である。


 「キャッ、キッス!」


 01ゼロワンは喜びのあまり飛び跳ねる。


 頼むよ、起きてくれ…ん?


 「なんか顔、赤くなってないか?この子。」


 「なってるわね。」


 2人がより良く観察しようと顔を近づけたその瞬間、幼女は突如目を大きくあけてみせたと同時に、トーマの首元を強く抱きしめたのだ。


 「王子様!!」


 良き目覚めである。


 しかし、彼女が目を覚めると、すぐに城は崩れ出したのである。


 崩壊というより、収縮だ。


 「トーマ!」


 「うん、<紫氷壁アイスシールド>!」


 トーマは硬い氷の膜を3人の周りに生成した。しかし、それでは落下は防げないことを彼らは把握している。


 「私はなんとかなるわ!その子を守って!」


 「気をつけてね、01ゼロワン!」


 トーマは幼女を強く抱き締め、衝撃に備えた。


 「王子様ァ……」


 なんなんだこの子……寝起き元気過ぎだろ。大体、なんで王子さ……ん!?


 「着地……してる……?」


 トーマは<紫氷壁アイスシールド>を解除した。


 「うわッ!!」


 すると、水の上。


 解除したことにより、まんまと水に落ちたのだ。


 正確には池である。


 「失敗したな……うん?…アンコウ……?」


 変わった池だな、これ。とりあえず見た目キモイし、凍らせておくか。


 指先でアンコウらしき生物に触れ、瞬時に凍らせて見せた。

 

 「あ、お姉ちゃん……」


 「ん?」


 幼女の目線の先に目をやる。


 そこにはお尻を出して情けない体勢で顔を池に沈めていた。


 「Tバックなんだ…」


 「プハァ!死ぬかと思ったァ!」


 「能力が溶けて、元々の城に形が戻されたみたいだね。凄い能力だね、君。」


 しかし彼女は、ポカンとした表情をみせた。


 「もしかしてその子、自覚がないのかもね。」


 「寝てたしね、確かに。」


 「なんのお話をしてるのです?」


 「うーん、後で話すね。所でここ、なぜ君しか居ないの?」


 幼女はまたしても、まるでトーマと01ゼロワンが知らない言語で話しているかのような顔を浮かんでいる。


 01ゼロワンは閃いたようだ。


 「恐らくは記憶の改竄。」


 「「記憶の改竄……?」」


 トーマと幼女が口を揃える。


 そうして、音もなく山崎12年のボトルを口にする。


 「そう、長いこと眠っていることによる、記憶の書き換え。デジャブと同じ原理。んで、なぜまだ持ってる……?」


 「「デジャブ……?」」


 この2人は気が合う模様。


 「見たことの無い光景を、ある時ある条件下で、以前に見たことあると錯覚する、夢での記憶。」


 「「なるほど……!」」


 「それの起きる理由がどうあれ、夢を見ている時間があまりにも長いことから、ただのデジャブに留まらず、記憶の完全上書きが成立したと考えられる。」


 「「やっぱり分からない……」」


 「はぁ……まぁいいわ、あなた名前は?」


 「アタシはベアトリー……え…?」


 幼女の顔が突如、青白くなった。


 「やはりそうね、記憶がすり変わって行っている。それが彼女の能力のデメ。」


 能力を使えば使う程、身が削られるという。まぁ、都合のいいものなど、この世には元から存在せず……と。


 「どうしましょう……!?」


 幼女は慌て震え出す。


 「思い出せないものは仕方ないよ。」


 「この子の能力は野放しにするには危険すぎるし、うちらに誘うってのはどう?」


 「ま?」


 「ま。」


 「いいの!?」


 「いいわ。」


 「いや、でも……」


 「誘いなさい。」


 「え……?」


 「誘いなさい!」


 「あ、はい。誘います、すみません。」


 01ゼロワン怖ェ……


 「なになに?」


 お互いのやり取りに興味を持つ幼女。


 「あのね、僕らはちょっとね、世界を破壊しようっていう悪組織なんだけど…」


 「うんうん!」


 「なんだけど……」


 「うんうん!」


 「実はもっと悪い組織が居たっぽくて、それも潰してより最強の悪組織になろう!っていう行動理念の……」


 「うんうん!」


 「おけ、一緒に来る?」


 「行く!!」


 「だよね。君の名前はそうだね…02ゼロツーで。」


 「王子様!」


 「02ゼロツーね。」


 「王子様……!」


 だめだこりゃ……


 すると01ゼロワンが笑い出す。


 「可愛いね、02ゼロツーちゃん。」


 「当たり前ですの!でも、もっとかっこいい口上はないのです?」


 「えーと、あるにはある。」


 「して。」


 こいつもこのタイプかよ……


 トーマは構えた。


 「やつがれ終焉ジ・エンド。光を喰らい、闇を灯す者。汚れたこの世界を破壊し、真っ黒になった新しい世界を染め直す。」


 「王子様!」


 「あ、うん、もういいよ、うん……」


 「なんて可愛い生き物なの!」


 かわいいかなぁ……生意気なだけじゃないかな……


 まぁ、01ゼロワンが気に入ったなら、それでよし。この子の面倒は……うん。


 僕はしない。


 絶対にしない。


 何がなんでも……


 絶対に……


 数時間後……


 「王子様ァ!!」


 トーマの肩に乗っかってラブラブな時間を過ごす02ゼロツー


 なんでこんなことに……


 彼女の能力がどれだけの影響を与えていて、解けた今、どれだけ変化したのかを調査しに|01(ゼロワン)は去って行ったのだ。


 確かに僕より使を持ってる彼女の方が、アリとライオン程の差があるから分かるけどさぁ……


 「01ゼロワンーーーー!!」

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