003 悪魔ノ誕生
幸いなことに、軽いお食事用品が揃っていたため、僕の大好きな珈琲を作ることにした。
先ずはろ紙に珈琲豆を挽いたのを小さじ3杯。いや、
豆の種類は差程重要じゃない。勿論、豆によって味や香りが変動するが、それは些細なことだ。
重要なのは、挽き具合だ。荒ければ荒いほど苦味が減る。苦いのが苦手な方にはオススメだ。だが今回は牛乳で割るため、細かいのにする。と言ってもこの花屋さん、細かいのしかない模様。
そしてここで気をつけるべきは、中心が山になるように入れることだ。この方がお湯を注いだ時、ムラなくいい具合に広がってくれる。化学って素晴らしい。
でも勿論、珈琲豆を入れる前に、ラベンダーのハーブ茶葉を少量入れておく。これは欠かせないのだ。
このコンボが出来たら、お湯を注ぐ。ただ放置するだけでは無く、最低でも2回は掻き混ぜて注ぐと言い。渋味を満タンで抽出できるのだ。
後は冷やした牛乳を入れるだけで勝手に快適な温度になる訳だが、冷めてしまう前に、このまま隠し味を溶かし、付け足す。
普通ならお砂糖だが、僕は蜂蜜派だ。しかもこれよこれ、巣蜜だ。食感が素晴らしいんだよな。そして仕上げに、苺ジャムをほんの少しだ。本当にほんの少しだけ入れて、それでフィナーレの牛乳だ。
ほぃっと、完成。
って、誰に語ってるんだろうか・・・
「んん・・・」
お姫様ざお目覚めのようだ。
「起きたかぃ、
「ごめんね、寝過ぎちゃったかも。まだ夜中?」
目を両手で擦りながら彼女は問いかける。
「うーん、多分3時くらいかな?いいよ、もう少しここで隠れてよう。」
トーマは両手にマグカップを持って|01《ゼロワン《の側へ向かう。
「ん?なになに、なにこの匂い!いい匂い!」
「ハーブティの匂いだよ。嗅いだことないの?」
彼女はトーマの眼をじっと見つめ、少し首を傾けた。
「あ!ううん、たった今理解したよ。でも初めて嗅いだ!」
「智天使、使った?」
「使っちゃった!てへぺろりんちょのちょ!」
「可愛くないよ。」
「嘘つき。」
トーマは笑みを隠しきれず、そのまま彼女の手前に先程いれた珈琲を置いた。
「飲んでみな。」
「初めての出逢い!初めての友達!シルバニアファミ・・・」
「それ以上は権利的な問題で口ずさむな。」
「なにこれ!美味しいよ!」
彼女の今までの生き様を辿れば、この程度が人生で最も美味しいものだったのだろう。それを哀れんだのか、トーマは一口だけ飲み、残りを彼女に譲った。
「え、くれるの?」
「うん。僕の分はまた作るよ。でもゆっくり飲んでね。」
「ありがとね!レシピは分かったから後で私が作ってあげるよ。」
「あ・・・うん、なんというか・・・」
「うん?」
彼女はまたも首を傾げた。
「なんでもかんでも智天使使うの、辞めようか・・・」
「どうせ負け惜しみでしょ?」
「負け惜しみだよ!!」
「馬鹿馬鹿しい・・・作ってあげるね。」
「はぁ・・・ありがとう、ハハッ。」
なんでも一瞬で視認した以上に理解してしまうその元々のスペックに智天使・・・僕にしかしてあげられないものってあるのかな。
悩み事をするが、どこが嬉しそうな顔を浮かべるトーマであった。
「ちょっとさ、教えてくれた氷帝の可能性、今試してもいい?」
「うん?いいわよ。」
それは
僕の能力、氷帝は原子レベルのものを凍らせして形を形成し、分解する能力。言わば原子の激しい動きを最小限抑えた状態で操れるということ。
そしてそれは連動する。
僕の周囲の空気中の原子を極限状態まで止められれば、擬似宇宙空間の絶対零度が可能という理屈だ。これを永続的に常時発動しておけば、ありとあらゆる物体は僕に届く前に凍てつき静止する。
でもこれは彼女も居るし、今は止そう。試したいのこっちだ。
トーマは
物体には面白いことに、情報を持っている。それは物体や原子に留まらず粒子にも言える。例えば、僕らが見ている景色は、光の粒子が持っている情報を読み取っているものだ。
要は記憶する性質だ。
それに似て、原子・・・いや、今は細胞でいい。生命体の細胞は必ず記憶する。全身を巡る血や酸素を通して、身体全体の形を記憶しているはずなんだ。
怪我をしてもある程度元通りに回復するのもこれが原理と言えよう。トカゲは完璧に再生できるけどね。
今回はそれを活かす。記憶を持っているであろう細胞を原子レベルで静止させ、それを周囲の細胞に連動させる。そしてその連動した瞬間にはみ出た揺れをも、傍からまた凍らせる。
記憶の譲渡や波動、言い方は何であれ、これをひたすら繰り返す。これ、実は結構難しいんだ。
アニメーションの1コマを1億回に切り離し分けて、それを繋げて動かすみたいな感じ。集中切れればやり直しと言ってもいい。
でもこうしてるうちに、ほら。成功だ。
再生だ。氷で身体の再生が可能ということである。
「わ!凄く痛い・・・でもなんな凄い!でもなんかキモイ・・・」
「そこはありがとう、だろ・・・ほいっと、できた!」
彼女の脛は元通りだ。とてつもなく綺麗な白い肌だ。
「ありがとう!諦めかけていた・・・ありがどぅ・・・」
「あぁ泣いちゃった。」
彼女のエメラルド色の眼から雫ではなく、滝のように涙が溢れ出ていた。
トーマはこれで、鉄壁の〈
もはやなんと表現できえよう。
悪魔の誕生である。
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