この物語のタイトルはまた今度考えるよ。
まちのすけ
000 プロローグ
ヒーロー。それは世界の秩序を保つために立ち上がり、己の命を燃やして悪と戦う存在。
しかし、時にそれは疑問を抱かせることもある。
人に害を加えればヴィラン。ヴィランを捉えるのがヒーロー。制裁するのは法。
一見当たり前にも思えるこれには1つ、可笑しな点が存在する。
ではヒーローがヴィランに害を加えた場合はどうなる?戦闘になる以上、どちらも害を加え、加えられる。ならヒーローもヴィランと化すか?
否。
もっと現実的な例えにしよう。逃げる殺人鬼を警官が発砲。逃がしてしまえばより被害が拡大する恐れがあるから、発砲して正解。と思えるだろうか?これでは警官もまた、殺人鬼ではないのか?
警官にもっと力があれば、穏便に取り押さえられていたのかもしれない。
もっと原点の話をするならば、国家自体の治安が良くて、警備体制が圧倒的であれば、そもそも犯罪は起きていなかったのかもしれない。
平和な時代に生まれ、平和な時代で生きる生物にとって、不幸とは?
運悪く電車を逃したり、たまたま体操着を忘れた日に体育があったり、家庭環境問題や虐め?
否。
確かにこれらも不幸といえば不幸だろう。だが、それは不幸を知らない者が錯覚する、平和の中の分岐の1つや2つに過ぎない。
もっと根本的で圧倒的な不幸が存在する。それは戦争だ。死だ。
何処へ逃げても逃れられない恐怖。
人が人で在れないことこそが不幸である。
これから語るは、13光年前のストーリー。高度な技術を持った文明が幾度と滅ぶ遥か以前のおとぎ話。
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「私のことはいいの!貴方には使命があるでしょ?」
「……でもそんなことをすれば君が…」
定番だ。
「私は貴方に救われた。……命も心も……何度も。」
「これからだって救ってやる!ソフィ…君が笑顔で居られる世界にする!」
「ううん、私はもう幸せを知りすぎた。今度は…世界を救って。」
恐怖に怯え涙を流す最愛の女性。いや、ヒーローの半分破れた、マスクから見える頬に手をあてている。
もう一緒には居られないという悲しみからだろう。
涙目を浮かばせながらも頷き、ヒロインを背にするヒーロー。
「ソフィ……愛してる。」
「馬鹿馬鹿しい……」
彼女から見える、逆光により浮かびあがるそのボロボロのシルエットは、世界で1番カッコイイ英雄なことでしょう。
「あんたは強いよ、だが悪事もここまでだ!」
頂上から見えるは変わり果てた故郷。聴こえるは黒く赤く染まる火の海の中で絶え間ない悲鳴。
「悪事だと?たった1人の家族を救う……これのどこが悪事だと言うのだ、ヒーローよ!」
上空には事態を生中継しているであろうマスコミのヘリコプター。
「周りを見ろ!炎、血の海じゃないか!親友は気が狂い、実の母を食った……食ったんだぞォ!」
ヒーローは拳で大振りを試みるが、容易く回避され空振り転ける。
「そいつもまたこの世界にのまれた不幸人だ。ヒーロー……いや、青年よ、君はどんな世界を作りたい?」
「はぁ?そんなの、皆が笑って過ごせる世界に決まってるだろ!」
ヴィランは鼻で笑った。
「ほらな青年、それを言う時点で君もまた、今の世界に不満を抱いている。あの女の子、彼女か?彼女が居て、十二分に幸せな生活を送っていたはずだ。なのに更に望む……エゴだ。」
「うるせぇ、俺にも分からねぇ……」
強すぎるそのヴィランを倒すべく、自爆する施設のガラスでできた頂上にヴィランを誘い込む。
「おいおい、どこへ行く。」
「でもな、希望を持った方が明日が輝くんだよ……これで終わりだ、ヴィラン!ソフィアァァア!」
ヒーローは力強くガラスを踏み割った。
合図だ。
その合図と同時に手動自爆システムのレバーを落とすヒロイン。
「な、何、自爆!? フフハハハ、君は飛べる……希望は人を破綻させるぞ、ヒーロー……」
そして施設は自爆した。巨大なキノコ雲と共に発生した爆風で退けられるヘリコプター。
ヒーローは? そのヒーローは空中を移動できる能力者だ。
カメラが捉えたのは泣き叫ぶヒーローだけだ。
「ゥァァァァァァァアアッ!!」
国民からすればそれは、勝利の雄叫びなことだろう。
その後、国民は彼を支持し、神のように称えた。しかし、そのヒーローは表舞台から姿を消した。
「最後に勝つのはいつだって正義だ!」
ボロ布を羽織った、若いホームレスが落ちている新聞を手に取る。
新聞に大きく記された脅迫とも見れるキャッチコピー。
「君の口癖を借りるなら……馬鹿馬鹿しい。な、ソフィ。」
英雄は世界を救った。
めでたしめでたし。誰もが号泣する名シーンになることだろう。
馬鹿馬鹿しい。何がヒーローだ!何が英雄だ、神だ? この街を救ったのは彼ではない。彼女だ。
なのに彼女は犠牲扱いをされ、ヒーローがあれだけ叫んだその名前を誰1人知らない。
この事実を僕は許せないのだ。
それに対して、救世主と名乗る
彼こそヒーローだろう。違うか?なのに誰も彼の為に泣くことはない。息子に手を差し伸べることもない。それが悪役の運命なのだ。
映画でもそうだ。役に過ぎないのにその役者は国民に批判され嫌われることが多い。
そのせいか、好んで悪役を演じる人は居ない。居たとしても極小数なことだろう。
だからこそなのだ。悪役はかっこいいのだ。みんなに罵られ、叩かれ、嫌われる。それでもなお悪党であり続けられるその姿が僕には美しく見えたのだ。
悪もまた正義を振るっている。逆だったのかもしれないのだ。命は平等なはずだろ?なぜヒーローは殺して良くて、ヴィランはダメなのか。
理屈なんかではないのだ。
僕が辿り着いた答えはこうだ。
「この世界は平和ボケをしている。」と。
だからこの僕が、世界最恐の大悪党になろう。この世の全てを喰らい、無に還そう。
全てを失い、飢餓のあまり我が子を手にする母は、初めて命の尊さを知るに違いない。
そして本物の英雄に美しく狩られたい。
そう思ってしまった。思った瞬間だった。
少しズレているのかもしれない。普通から程遠いのかもしれない。それでも僕は生きている。同じ地に脚をついて足掻いてるのだ。何が違う?いや、何も違わない。
誰もがヒーローに憧れるように、僕はヴィランに憧れてしまったのだ。
今思えば僕はこの時、既に狂ってしまっていたんだと思う。リスタートボタンが効かない程に。
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