この世界から恋が消えても僕は君へ好きだと叫び続ける
桜野弥生
第1話 失って始めて気づくこと
空は澄み切った青色を示しており雲はここから一つも見当たらない。
夏ということもあり、暑さが滲み出ており外に出るだけでも億劫になってしまう。
教室に冷房があるだけでもこの時期はありがたい。汗で蒸れた制服を着るのは少しばかり抵抗を感じるが、そんなことは冷房の風ですぐに冷える。
だがそんな中、学校の屋上で口喧嘩をしているカップルがいた。
「だから、何度も謝ってるじゃないか!」
「謝ってすむ問題じゃないでしょ! 私何時間待ったと思ってるの!」
俺、八雲湊は交際相手である崎野千歳と喧嘩をしている。付き合い始めて約半年だが今までそれまで大きな喧嘩をしたことはあまりなかった。もし喧嘩をしてもどちらかが喧嘩していた事を忘れているか、ちゃんと謝って仲直りがお決まりの流れだったが今回はそうすんなりとはいかない様子だ。
どうしてこんな事になったのか。理由は俺にある。
昨日俺がデートの約束をすっぽかしてしまったからだ。それに何も連絡も入れずにそのまま千歳を何時間も待たせてしまっていたのだ。
こんなことをしでかしてしまったのは始めてのことだった。普段は遅れても三分か五分ほど。デートの日までにハードな一週間を過ごしていたためか睡眠が深くなりそのまま時間が過ぎてしまった。
それに気づき、スマホでメッセージを送ったが向こうは大変お怒りの様子だった。
月曜日の学校では、
『昼休み、屋上に来て。話があるから』
とだけ言い残してそのまま今日は一言も口を聞かなかった。
授業中にチラッと千歳の方を見ても頬杖をついて外をずっと眺めていた。
そして迎えた昼休み。颯爽と屋上へ向かい、すでに千歳は屋上へいた。
「だから、ごめん・・・・・・」
平行線になりつつある口喧嘩に対して俺はごめんの一言しか言えてなかった。
だがそれでも千歳はまだ怒りを表している。
「もういい! ごめんしか言えないならずっとそうやって謝っとけば!」
そう言い残し、千歳は去ってしまった。
俺には言い返す資格なんて無かった。元々は俺が悪いのだから。反論したところで何も解決しない。これ以上悪化させるわけにはいかなかった。
何も解決していないのになんだか肩の力が抜けてしまった。
日陰に移り、重力のままにその場で膝から崩れ落ちる。
そしてボソリとつぶやく。
「はあ・・・・・・最低だな。俺」
帰宅してリビングへ向かうといつものように母が夕飯の支度を始めていた。父はまだ帰ってきていないようだ。
「おかえり。もうすぐでできるから」
「うん・・・・・・」
家族と会話を交わしている最中でも、千歳の事が頭に浮かんでくる。
何をしても気が紛れることはなかった。
「あんた、千歳ちゃんと何かあったでしょ」
「は、はい!? どうしたの急に!?」
「だって元気ないじゃん。そういう時は大体千歳ちゃん絡みだなって」
何もかもピンポイントで怖いと感じている。
どうして母親という生き物は子供の考えていることはエスパーかのように見抜いてくるのか。不思議で仕方がない。
だが母親に勘付かれるくらいに顔に出てしまったのか。
それくらい引きずる重い事なのだろう。
「何かあったか知らないけど。仲直りは早めにね。」
「うん・・・・・・」
後ろめたい気持ちはしばらく静まりそうにはなく、部屋に戻ってベッドに身を投げるとやはり頭に浮かぶのは千歳の事だった。
どうすればいいのか分からなかった。
何をすれば、彼女の笑顔を取り戻せるのか。今までの当たり前の日常を取り戻せる事ができるのか。朝、一緒に登校して、休み時間に他愛の無い会話で笑って、一緒にお昼を食べて、放課後になったらまた一緒に下校をして。
今思い返せば、常に隣には千歳がいた。この半年でそれがガラリと変わった。
怒った顔も、笑った顔も、全部、全部。
だめだ。考えれば考えるほどもっと分からなくなってくる。
俺は一体千歳になんて言えばいいのだろう。
考える事を一旦辞め、無気力になっていた時だった。
階段をドンドンと上がる音が聞こえてくる。それはこちらに近づいてくる。
そして勢いよく、部屋のドアが開く。
「湊、今日千歳ちゃん学校来てた?」
「え、ああ、うん。来てたよ。どうしたの 何かあった?」
「さっき千歳ちゃんのお母さんから電話がかかってきてね」
「うん」
「千歳ちゃんがまだ家に帰ってきてないって」
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