第15話 じいちゃんの使い魔たち

 ビッグオウルのドクが、興味深そうに私と翔ちゃんを見比べている。


『サスガ、アランノマゴトイウコトカ』

「ふふふ」


 自慢げに笑うじいちゃん。

 実は、一般的に使い魔との会話は、契約者との間でしかできないらしい。それなのに、私も翔ちゃんも、じいちゃんの使い魔であるドクと会話ができていることが、珍しいのだ。

 じいちゃんの使い魔は、他に二匹いる。


「チェリーとディーノは」

『チェリーハ、ウエノヘヤニオルダロウ。ディーノハ、モリノナカデ、アソビマワッテイルハズダ』


 じいちゃんの言うチェリーはベビーパンサー、ディーノはナイトウルフのこと。

 ベビーパンサーと言っても、見かけは茶トラの猫で、変わっているのは真っ赤なルビーのような目をしていること。

 ナイトウルフも、綺麗なスカイブルーの目をした黒い犬だ。顔はばあちゃんの軽自動車にそっくり。ウルフというよりも、犬のボクサーみたい。

 そういうと、二匹ともに叱られそうではあるが、私にはそう見える。


「ふむ、では上の階に行くか」

『コンカイハ、シバラクイルノカ?』

「ショーの『神の祝福』を受けに、オーグレンに行く予定だが、1週間ほどはこちらにいるぞ」

『ソウカ。エマ、マタオイデ』

「うん」


 私はドクのふっくらしたお腹を手で撫でてから、四階へと登っていくじいちゃんたちの後を追いかけた。


「さっきの部屋は、何の部屋?」

「うん? あそこは作業部屋だな」


 ドクに気をとられて、部屋の中をよく見ていなかった翔ちゃんが、じいちゃんの背中越しに問いかけた。

 

「作業部屋?」

「ああ、二階は調薬……薬を作る部屋で、三階は魔道具を作る部屋、これから行く四階は、魔法陣や古い魔術の研究をする部屋だな」

「魔道具!」

 翔ちゃんが声をあげるのと同時に、四階の扉が開く。


『アラ、アランジャナイ』


 茶トラベビーパンサーのチェリーが、二人掛けソファに寝そべりながら声をかけてきた。

 大きさは、そのソファの半分くらい。普通に茶トラの猫と言われたら、その通り、としかいえないくらいの大きさだ。


「やぁ、チェリー。お昼寝中だったかな」

『ソウネ。イイキブンデ、ネテタトコロダケド……エマモキタノネ!』


 チェリーが嬉しそうな声で、ぴょんとソファから飛び降りて、タタタタッと軽やかに私に駆け寄ろうとして、ピタッと止まる。

 じいちゃんの背後にいた翔ちゃんに気付いたようだ。


『……ソノコハ、ダアレ?』


 警戒心丸出しで、背中の毛が逆立っている。


「私の孫のショーだよ。仲良くしておくれ」

『ショー?』


 じいちゃんの言葉に、毛が落ち着く。そして、チラリと私の方に目を向けた。


「そうなの。チェリー。私の弟の翔。ほら、翔ちゃんも挨拶」

「え、あ、翔です」


 ペコリと頭を下げた翔ちゃんに、ゆっくりと近寄るチェリー。足元をクンクンと匂いを嗅いでから、翔ちゃんの顔を見上げる。


『フン、タシカニ、アラント、エマトオナジマリョクノニオイガスルワネ』

「チェリー」


 私がしゃがんで彼女の名前を呼ぶと、翔ちゃんのことはどうでもよくなったようで、私の方に近寄って、足にすりすりと身体を擦り寄せてくる。


『エマ! ヒサシブリネ!』

「ええ。チェリーは相変わらず、美猫びじんさんね」


 抱き上げて撫でてあげると、ご機嫌にゴロゴロ喉を鳴らしまくる。うん、可愛い。

 四階の部屋は、図書室のように壁中が本棚になっている。ただし、図書室と違うのは、ここにある本は、すべて古代魔法語の本だということ。

 部屋の中は古い本の匂いが充満している。


「さて、次は五階だ」

「チェリー、またね」

『エエ、モウイッチャウノ?』

「ごめんね、翔ちゃんに塔の案内をしてるところなの」

『ソウ……シカタガナイワネ。マタキテネ』


 チラリと翔ちゃんの顔を見たチェリーだったけれど、ツンっと顔を逸らして、再びソファのほうへと戻ってしまった。

 人見知りな彼女らしい反応に、クスリと笑いながら、私たちは五階へと向かう。


「さて、ここが塔の最上階だ」


 この部屋には、小さなテーブルに椅子、壁にはこの世界の地図と、窓際には。


「え、望遠鏡?」


 このファンタジーな異世界には不似合いな、立派な望遠鏡が置かれているのだ。


「ああ。残念ながら、こちらの技術では、ここまで精巧な望遠鏡は作れなくてね」


 しっかり、あちら日本で買った望遠鏡を運び込んだらしい。所謂、天体観測ができそうな、かなりお高いヤツだ。


「似合わないねー」


 確かに、石の壁に木製の家具類の中に、プラスチック製の三脚の真っ白い天体望遠鏡なんて、ファンタジーの雰囲気をぶち壊しているかもしれない。


「星の観測には、いいんだぞ?」

「そりゃ、そうだろうけど……って、この地図、動いてる!?」


 壁に貼ってあった世界地図に驚きの声をあげる翔ちゃん。

 この世界地図は、じいちゃんがダンジョンで手に入れた物で、雲が動いているのがわかる地図なのだ。いわゆる天気予報ができるというわけだ。

 しかし、世界地図なので、ピンポイントに予報ができないので、使い勝手が悪いらしい。


「さぁ、塔の案内はここまでだ。そろそろ、村に向かおう」


 じいちゃんの言葉に頷くと、私たちは階段を下りて行った。

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