第14話 円塔の秘密の入口

 私も最初にこの塔を見たときは、一生懸命円塔の周りを探しまくったものだ。結局、見つけられずに、じいちゃんに円塔の入り口をおしえてもらったのだ。


「ねぇ、翔ちゃん。いい加減、諦めたら?」

「くそー!」


 そう叫びながら、ひょこひょこと円筒の周りを探しまくっている。諦めが悪い。

 塔の入り口は見つけられないけど、上のほうに小さな窓が見えたので、余計に諦められないのかもしれない。

 ついには、蔦を使ってよじ登ろうとしている。運動神経抜群の翔ちゃんなだけに、そこそこ登っている様子に、私も呆れてしまう。


「おお、ショー、凄いな……ボブも、いつもすまんな」


 背後からじいちゃんの声が聞こえた。隣に立っていたボブさんが、にこりと笑って頭を下げる。


「じいちゃん!」


 蔦に捕まったまま叫ぶ翔ちゃん。


「ほら、下りておいで」


そう言って手を伸ばして、「フライ」と呪文を飛ばす。


「え、うわぁっ!?」


 翔ちゃんの身体が浮いて、私たちのところまで戻ってきた。


「と、飛んだ……」


 呆然とした顔の翔ちゃんに、じいちゃんはニヤニヤと笑っている。


「じいちゃん、もう出かけられるの?」

「ああ、荷物の整理は済んだよ。それよりもショー、塔の入り口はあそこにはないぞ?」

「え、そうなの!?」


 翔ちゃんはそう叫ぶと、私のほうをジロリと見る。


「姉ちゃん、知ってたでしょ」

「ホホホ~」

「もう!」


 ぷくーと頬を膨らませる翔ちゃんの頭を、じいちゃんがぐりぐりと撫でる。


「じいちゃん、入り口はどこにあるの?」

「ついておいで」


 そう言って、じいちゃんは建物の中へと戻っていくので、翔ちゃんも慌てて追いかけていく。


「ボブさん、またね」


 私はそう声をかけると、同じように後を追いかけた。




 辿りついたのは、二階にあった図書室。

 さっき図書室の中に入っていただけに、翔ちゃんは不思議そうな顔をしている。


「なんで図書室?」


 首を傾げる翔ちゃんを連れて、図書室の最奥の本棚の前まで行く。背の高い本棚は、じいちゃん二人分くらいの高さがある。


『@&%&$1#2*(『建物』の一段目の2冊目)』


 じいちゃんが呪文を唱える。『転移の間』でも似たような呪文を使っていたけれど、これは古代魔術語と言われるもので、発音が凄く難しい。

 私が今使えるのは、生活魔法の『クリーン』と属性魔法の中でも初級といわれるものだけ。ちなみに、翔ちゃんを浮かばせた『フライ』は風魔法の中級にあたる。

 呪文を言い終わると同時に、脚立がないと届かない一番上の棚の2冊目の本が、カタリと前にずれた。


「うわっ!?」


 翔ちゃんの驚いた声が図書室に響く。

 なぜなら、最奥の本棚の脇にある壁が光った後、そこに大きな木の扉が現れたのだ。


「さぁ、私の研究の塔へようこそ」


 ニヤリと笑うじいちゃんが、扉を開けると、向こう側には大きな円い部屋が見えた。そこに恐る恐る入っていく翔ちゃんに、思わず笑ってしまう。

 円い部屋には、大きなテーブルに色んな実験器具が置かれているのが見える。理科室に置いてあるような、ビーカーやフラスコ、アルコールランプのような物だけではなく、色んなサイズの鍋や大きな瓶が置かれている。壁に沿って作られている棚には、ホルマリン漬けみたいなサンプルがずらり。

 翔ちゃん、ここでも呆気にとられている。


「ここは、塔の二階にあたる場所だ」


 じいちゃんが塔の中の壁に触れると、また別の扉が現れる。その扉を開けると、上に登っていく階段が見える。

 建物の壁に沿った階段をぐるりと登りきると、同じような円い部屋に繋がっている。


『アラン、モドッタカ』


 ここにも大きなテーブルが置かれているが、その脇には、私の身長(135センチ)くらいある黒光りする木製の止まり木があり、そこに1メートルくらいの大きさの梟が止まっている。


「ドク!」


 私は思わず駆け寄り、梟に手を伸ばす。モフモフの羽がたまらない。

 

『エマモヒサシブリダナ』

「うん、久しぶり!」


 この大きな梟は、じいちゃんの使い魔のドクだ。

 魔法使いの梟といったら白い梟をイメージするけど、ドクは明るい茶色にまばらに黒い羽が生えている、パッと見た感じは普通の梟に見えるけど、彼の目は濃い紫色をしている。


「すげぇ……」


 翔ちゃんの声に、ドクはくるんと顔を向ける。


『ソノコドモハ?』

「ふぉっ!?」


 ビビった翔ちゃんが、じいちゃんの背後に隠れた。


「フフ、もう一人の孫のショーだ。ショー、これは私の使い魔のビッグオウルのドクだ」

『オオ、モシヤ、エマノオトウトカ』

「う、うん。翔です。よろしく」


 ぺこりと頭を下げる翔ちゃんに、ドクは大きな目が少し大きくなる。


『オヤ、コノコモワレノコトバガワカルノカ』

「そのようだな」


 じいちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る