第13話 じいちゃん家探検
美味しいばあちゃんのお弁当を食べた後、私は翔ちゃんを屋敷の中をあちこち案内した。
この屋敷の形はコの字型になっている。
一階は大きなエントランスを中心に、左右に応接室やサロン、スモーキングルーム、食堂やキッチンなどがある。
応接室は来客があった時に使う場所で、重厚なテーブルや椅子、絨毯もお高そうな感じ。長居して傷つけたら怖いので、すぐに部屋から出る私たち。
サロンは、南側に大きなガラス張りの窓があるので、日当たり抜群。夏以外だったら、日向ぼっこして気持ちよく寝られそうな場所だ。
スモーキングルームは名前の通り、喫煙室だけど、じいちゃんはタバコは吸わない。
部屋に入ってすぐ、鼻をくんくんとさせた翔ちゃん。
「タバコの匂いがする?」
「するねぇ」
部屋の中は、タバコの匂いがしみついているのだ。かつて多くの人が使っていたのかもしれない。ゲーム板(チェスみたいな物)のようなものがテーブルに置かれている。普通は、紳士たちがタバコを吸いながら、遊ぶらしい。
「次は二階ね」
「よーしっ!」
大きな階段を駆け上がる翔ちゃん。
二階の右側の棟は私と翔ちゃんが使っている部屋も含め、客室が4つ、左側には、じいちゃんの部屋と、執務室、図書室がある。
客室は全て同じ作りになっていて、それぞれの部屋には浴室にトイレがついていて、じいちゃん渾身の魔道具らしい。マリーさん曰く、高位貴族でもないかぎり、全室に魔道具の浴室やトイレなんてないのだそうだ。
実際、オーキ村の宿屋でトイレを借りたことがあるけど、あのニオイとボットンなトイレは緊急事態以外では使いたくはないと思う(遠い目)。
執務室は、じいちゃんの部屋の隣にある。
勝手に入ってはダメだと言われていたので、自分の部屋にいたじいちゃんに声をかけようとしたのだけれど、荷物整理に集中していたので諦めた。
その代わりに、じいちゃんの部屋の向かいにある図書室へ向かう。
「ここ、なんかおかしくない?」
そう聞いてきたのは翔ちゃん。
実は、この図書室、屋敷の大きさと合っていないのだ。
「フフフ、じいちゃんの魔法で、広くなってるんだって」
「やっぱり! なんか変だと思った!」
天井の高さもそうだけど、どう考えても本棚の数が多すぎる。まるで、某ファンタジー映画に出てくる学園の中にありそうだ。
図書室の中を翔ちゃんが走り回っても余裕の広さ。
しかし、翔ちゃんは本自体には興味はなさそう。走って満足したのか、次はどこ? と聞いてくる。
私たちは一階に下りて、コの字の空いている空間は庭園のほうへと向かうことにする。翔ちゃんの部屋からも見える、五階建ての円塔が建っている場所だ。
「あの塔には、どうやって行くの?」
「あれは、階段の下にドアがあるんだよ」
階段を下りて、裏側にまわると、ガラス戸がある。その戸を開けて、私たちは庭園のほうへと抜けると、正面に蔦に覆われた円塔が見える。
久しぶりにきたけど、覚えているものだ。
『エマ様』
名前を呼ばれた私は、おっとりした男の人の声がしたほうに目を向ける。
「ボブさん!」
『美味しいお弁当をいただきました。ありがとうございます』
被っていた麦藁帽子を手に、深々と頭を下げるのは、
背丈はロイドさんやマリーさんのように、私と変わらないけれど、胴回りはロイドさんよりも一回り大きい。焦げ茶の髪にモフモフな顎鬚を生やしていて、オーバーオールに、生成りのシャツを着ているおじさんだ。
彼はこの屋敷の庭師をやっている。目の前の花壇もそうだけど、円塔の裏手にあって目立たないのだけれど、そこにある小さな温室も彼が管理している。
「姉ちゃん!」
ボブさんと話をしていると、円塔をぐるりと見てきた翔ちゃんが戻ってきた。
「あっ!」
「翔ちゃん、挨拶。こちら、庭師のボブさん」
「こんにちは! 翔です!」
『フフフ。ずいぶんと元気ですな。私は、この屋敷の庭を任されていますボブといいます』
「もしかして、塔の裏の温室?」
『あそこも、私の仕事場ですな』
裏の温室では、じいちゃんの仕事に使う薬草が育てられている。その世話をボブさんがしてくれているのだ。
「すげー! ……って、そうだ! 姉ちゃん!」
「何?」
「あの塔、何!?」
そう言って、円塔を指さす。
「何って……塔だけど」
「そ、そうだけど、そうじゃないっ! あれ、入り口がないっ!」
目を見開き、そう主張する翔ちゃん。
「ちゃんと入るところはあるよ?」
「どこに!?」
「どこでしょう~?」
意地悪く言うと、翔ちゃんは悔しそうな顔をして、もう一度円塔のほうに走っていった。
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