第12話 異世界の親戚と、神殿の話
大きな階段を下りて行く。正面には、うち(賃貸マンションの4LDK)ぐらいありそうな広さのエントランス。ここを通るたびに、広いなぁ、とつくづく思う。
「すげー」
「本当に、それしか出てこないね」
「だって、すげーんだもん」
エントランスから、食堂のほうに向かう間、キョロキョロ見て歩いている翔ちゃん。そんな彼を連れて、食堂のドアを開ける。
そこでは、すでにじいちゃんが長いテーブルのお誕生日席に座って、私たちを待っててくれた。
「待ってたぞ。さぁ、『ブランチ』といこうじゃないか」
満面の笑みを浮かべるじいちゃんの前には、私たちの弁当よりも大きなお弁当が置かれている。
じいちゃんの席の右側に翔ちゃん、左側に私が座る。
10人くらいが座れそうな長いテーブルに3人で座っているのは、少しばかり寂しい感じ。
華やかな壁紙に、重厚なカーテン、昼間なのに天井のシャンデリアもキラキラ光っていて、豪華この上ない。
そんな豪華な食堂に、ばあちゃんのお弁当は違和感しかないが、じいちゃんはまったくと言っていい程、気にしていない。
翔ちゃんは、ばあちゃんのお弁当のおにぎりを食べながら、若返っているじいちゃんの姿から目が離せない模様。気持ちはわかる。
「やっぱり、ユミーの飯は美味いなぁ」
翔ちゃんの視線などお構いなしに、うっとりした顔で、ばあちゃんのおにぎりを堪能するじいちゃん。
「今日の夕飯はどうするの?」
最後の唐揚げを食べながら、じいちゃんに聞く。
こんな立派な食堂と大きなキッチンもあるにはあるんだけど、この屋敷には料理人がいない。この屋敷の管理は
なので、じいちゃんがこちらに来るときは、いつもばあちゃんの弁当持参なのだ。
「そうだなぁ。せっかくだから、午後からは村のほうに行ってみるか」
「え! 本当!」
「うむ。ついでにユーリに食事を頼んでおかないとな」
「やった!」
「村って?」
村というのは、屋敷から普通の馬車なら二時間ほどの距離にある、小さな村だ。
じいちゃんの持っている馬車だと、もっと時間はかからない。
ユーリさんとは、その村の宿屋の奥さんで、今回みたいな長期の時は村から来てくれるのだ。 そのユーリさんが作ってくれる料理が、なかなか美味しい。
「オーキ村といってな、甥っ子が治めている領地の村の一つなんだよ」
「領地……」
ぽけーっとする翔ちゃん。
そういえば翔ちゃんには、
「じいちゃん、翔ちゃんは、こっちのこと全然知らないの。ちゃんと教えてあげてよ」
「おっと、そうだったか。エマに話してるから、てっきり知っているかと思ったよ」
私は
だったらお母さんは、となるんだけど、お母さんも会ったこともない親戚だから、覚えてもいなかった。私が話して、「そういえば、そんな親戚がいるって言ってたっけ?」なくらいなのだ。
いつの間にか、弁当を食べ終えていたじいちゃんが、まだ食べている翔ちゃんに説明をしだした。
私たちがいるこの国は、イェレミース王国という国で、王国という名前の通り、王様が国を治めている。
じいちゃんは、そんな国の子爵家の末っ子に生まれたそうだ。
上には兄と姉がいて、兄はすでに亡くなっていて、その息子さんが跡を継いでいる。姉のほうは隣の領地を治めている伯爵家に嫁いでいる。
オーキ村は、その兄の息子、じいちゃんの甥っ子が治めている領地の端っこにある村で、その村の端っこに、この屋敷があるのだ。
「ん~、じゃあ、ハトコがいるってこと?」
最後の唐揚げをのみこんだ翔ちゃんが、じいちゃんに聞く。
お母さんは一人っ子だったので、母方の従兄弟はいないけど、お父さんには兄がいるので、そちらには従兄弟がいるのだ。
「……そうだな。ショーよりもだいぶ年上だが、何人かいるな」
「おお。異世界の親戚かー。姉ちゃんは会ったことあるの?」
翔ちゃんが最後に残っていたたくあんをポリポリ食べながら、私の方を見る。
「ん~、ないね。去年も一昨年も、オーキ村と辺境伯のところの領都にしか行かなかったし」
「辺境伯?」
「そうだ。『神の祝福』を受けるには、神殿に行かなくていけないことは覚えてるな?」
「うん」
「どんな小さな村にも教会はあるが、『神の祝福』を受けられるのは『神の遺物』が置かれている神殿でないとダメなのだ。この辺りだと、オーグレン辺境伯の領都だな」
「辺境伯のところには、私と同い年のハイダちゃんがいるよ」
「へー!」
前辺境伯とじいちゃんは、学生時代からの友人で、その関係もあって、今も仲良くしている。むしろ、子爵家よりも仲がいい……。
「さて、じいちゃんは部屋の片付けをしてくる」
翔ちゃんが食べ終えたのを見ると、私たちの弁当の箱に手を伸ばし、「クリーン」と呪文を唱える。
「すげー!」
綺麗になった弁当箱に、椅子から飛び上がって、驚きの声をあげる翔ちゃんなのであった。
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