第6話 じいちゃんは『大魔導師』

 ばあちゃんは嬉しそうにスマホ越しに言葉を続ける。


「絵麻たちが着いたの。だから、電話だけでも、と思って連絡したのよ」

「じいちゃん! 翔だよ!」

「絵麻です。無事に着きました!」

『オオ! エマ、ショー、ヒサシブリダナ! ゲンキダッタカ?』

「元気! 明日、ばあちゃんとそっちに行くね!」


 翔ちゃんはやたらとテンションが高い。

 じいちゃんの話し声は、若干カタコトの日本語だ。言葉からもわかるように、じいちゃんは日本人ではない。

 私は壁際のテレビ台の上に並べられているいくつもの写真立てに目を向ける。

 飾られているのは家族写真。

 一番大きいのは、翔ちゃんの七五三の時に撮った家族写真で、他にも私や翔ちゃんの小学校の入学式の時の写真も並んでいる。最新のは私の中学校の入学式の写真まで飾ってある。これはその日のうちにお母さんがおばあちゃんにメールした画像だと思う。どこでプリントアウトしたんだろう?

 そして、じいちゃんとばあちゃんの若い頃に撮った結婚式の小さい写真もある。

 お姫様みたいなウェディングドレスを着たばあちゃんに、隣に並ぶじいちゃんは同じく白のジャケットの中に白い糸で刺繍の施されたベストを着ている。

 若い頃のばあちゃんは、今よりも少しほっそりしている。その隣に立っているじいちゃんは、ばあちゃんよりも50cmくらい大きく見える。スラリとした体型に、肩ぐらいの長さのストレートの金髪にダークブルーの目に鷲鼻。ちょっと皮肉っぽい笑みを浮かべていて、なかなかのイケメンだ。

 実際、結婚前にばあちゃんとデートで都会にいった時に、スカウトされたこともあったらしい。

 そして、それに並ぶように、じいちゃんたちと私たち一家が、山の家を背景に撮った写真もある。ちびっ子家族の中で、ぴょこんと一人だけ背が高いじいちゃん。

 この写真のじいちゃんは、若い頃と髪型は変わらないけれど、すっかり白髪になって、皺もあるし、少し猫背だ。


「じいちゃん、約束覚えてる?」

『ハハハ、トウゼンオボエテルヨ』


 じいちゃんの言葉に、翔ちゃんの目がキラキラしだした。


『コトシハ、ショーモイッショニ、ジイチャンチニイクンダロ?』

「うん! 異世界のじいちゃん、ずっと楽しみにしてたんだ!」


 そう。うちのじいちゃんは異世界人なのだ。


 私たちの住んでいる日本とはまったく違う、魔法だとか魔物だとか、所謂、私たちが知っているファンタジーな世界なのだ。当然のように貴族や平民、奴隷なんていう制度もある。

 ちなみにじいちゃんは、一応は『貴族の端くれ』というヤツらしい。

 そんなじいちゃんは、私たちの住む日本と異世界を行き来できる。それはじいちゃんが、異世界で唯一無二だった『大魔導師』という称号を持っているから。


『ショーモ、ヨウヤク「カミノシュクフク神の祝福」ヲウケラレルヨウニナッタトオモウト、カンガイブカイネェ』


 なぜか10歳を超えないと、異世界に渡ることができなかった。

 これは、お母さんが子供の頃に、じいちゃんが連れて行こうと何度か試して出来なかったことで、わかったことだった。

 異世界では、10歳になると神殿で『神の祝福』という儀式を受けることになっている。もしかしたら、『10歳』が異世界に渡るためには必要な年齢なのかもしれない。

 私も10歳の時に、じいちゃんに連れて行ってもらって、『神の祝福』を受けて以来、夏にお母さんの実家に来るたびに、異世界のじいちゃん家にも遊びに行かせてもらっているのだ。


『エマハ、「ダイマドウシ大魔導師」ノショウゴウヲモラエタノダ。ショーモナニカシラノショクエラレルダロウ』


 私の受けた『神の祝福』で得られた称号は、じいちゃんと同じ『大魔導師』だった。 そのため、じいちゃんの『大魔導師』は、唯一無二ではなくなった。

 他にも『剣士』や『商人』、『司祭』などの一般的なモノから、『聖女』や『勇者』なんていうのもあったらしい。じいちゃんが生きてきた中では、そんな称号を得た人はいなかったらしいけど、かつてはそういう人もいたそうだ。

 将来の職業にも直結する称号だけに、平民でも貴族と同様な扱いを受けることもあるというから、あちらでの『神の祝福』という儀式は大事なことなのだそうだ。

 日本で生活する私たちにとっては意味はないけれど、どんな称号を得られるのか、というのは楽しみではある。

 私の称号を知っている翔ちゃんは、自分も『大魔導師』になりたい、と言っていた。


「じいちゃん、あっちに行ったら、魔法の使い方、また教えて! こっちじゃ全然練習できないんだもの!」


 そして、いつか、私一人でも異世界に渡れるようになりたいのだ。


『アア、エマ。ジイチャンモ、エマニオシエルノガタノシミダヨ』


 じいちゃんの期待のこもった優しい声に、私も翔ちゃんも、そしてばあちゃんも、にっこりと笑みを浮かべたのだった。

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