ボイスドラマ台本「魔女リフリーゼの家」
噫 透涙
ボイスドラマ「魔女リフリーゼの家」
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モブ1:ねえ、知ってる? 魔女リフリーゼの噂!
モブ2:なにそれ! 知らなーい!
モブ1:森の奥に千年も前からある城があって、魔女が住んでるんだって! それで、その魔女はなんでも願いを叶えてくれるんだって!
モブ2:ええ、でも、森の奥には入らないようにって、大人が言ってるでしょ。入ったら二度と出られないからって。
モブ1:うん。だから、魔女って伝説の存在なんだよ。っておばあちゃんが言ってた。
レミ:ねえ、その話詳しく教えてよ。
モブ1:あ、レミ。あ、その、最近は、ついてないっていうか、残念だったね。お姉さんのこと。
モブ2:両親がいなくてお姉さんと暮らしていたけど…。そのお姉さんが病気で。
レミ:しかたないよ。お姉ちゃんは昔から体が弱かった。いつ寿命が来るか分からなかった。だから。私は大丈夫だよ。お姉ちゃんがいなくても、仕事をして食べていけるから。で、魔女のお話って何?
モブ1:森の奥に城があってね、魔女が住んでるの。その魔女はなんでも願い事を叶えてくれるんだって。
レミ:なんでも? 例えば死んだ人を生き返らせることも?
モブ1:わかんないけど。おばあちゃんが言ってたから本当じゃないかな。
モブ母:みんな! もう夕方だから帰ってきなさい!
モブ1:はーい! モブ2:はーい! じゃあね、レミ。またね。
レミ:またね。
夜の音
レミ:なんでも叶えてくれる魔女。お姉ちゃんを生き返らせてくれる。なら、行かなくちゃ。また、会いたいよ。お姉ちゃん。
猫:にゃあ。
レミ:あれ? 君はどこの猫? 首輪がついてるけど、この辺りでは見かけないね。
猫:にゃあ。にゃ!
レミ:待って! そっちは森だよ! 夜の森は危ないから帰っておいで!
猫:にゃ? にゃああ。
レミ:待って!
森の音
レミ:捕まえた!
猫:にゃああ…。
レミ:村に戻って飼い主さんを探そう。ね。
猫:にゃーん。
レミ:あれ、ここって。どこ、だろう。帰り道が分からなくなっちゃった。
猫:にゃ?
レミ:どうしよう。 もし狼に襲われたら…。
猫:にゃっ!
レミ:あっ! そっちに行っちゃだめ! 森の奥には何があるか分からないんだから!
猫:にゃあ?
レミ:森の、奥。もしかして、魔女の城も。あるかもしれない。もしかしたら、願いも叶えて…。
猫:にゃ…。
レミ:待って! 私も行くよ!
虫の声
レミ:はあ、はあ。走らないで。疲れちゃう。…あ。これって。魔女の城? 猫を追いかけてたから気付かなかったけど、もしかして。
猫:にゃああ。
レミ:入ってみようかな。おいで、猫ちゃん。
猫:にゃあ。
ドアの音
レミ:とても長い廊下だけど、ランプがついてて明るいな。人が住んでる。もしかしたら、魔女かも。
物音
レミ:ひっ。 猫:にゃ!
リフリーゼ:無断で人の家に入るなんて。
レミ:あ…。
リフリーゼ:あなたは誰。どうしてここにたどり着けたの。
レミ:私はレミ。あなたは魔女?
リフリーゼ:リフリーゼよ。その通り、魔女。
レミ:もしかして、なんでも願いを叶えてくれたりするの?
リフリーゼ:願い?
レミ:魔女なら、願いを叶えてくれるんでしょ。なんでも。
リフリーゼ:なぜ?
レミ:え?
リフリーゼ:誰が不法侵入者の願いを聞くの?
レミ:あ…。ごめんなさい。でも、魔女なら、力があるんでしょ。願いを叶える力が。
リフリーゼ:あなたの言う願いというのが何か分からないわ。まあ、久しぶりの人間だし、夜は危ないから一晩泊めてあげる。こっちの部屋へ来なさい。
レミ:はい。
リフリーゼ:これ、あたたかいから飲みなさい。
レミ:これは?
リフリーゼ:見れば分かるでしょ。お茶よ。
レミ:変わった匂い。
リフリーゼ:森のハーブをブレンドしたお茶。心が落ち着く作用があるの。
レミ:いただきます。…おいしい。
リフリーゼ:今夜は早く寝て、明日帰りなさい。私は起きているけど、邪魔はしないから。
レミ:あの、魔女って願いを叶えてくれるの?
リフリーゼ:そればかりね。何。叶えてほしい願いでもあるわけ?
レミ:うん。
リフリーゼ:ふうん。そうなの。
レミ:だから、えっと。…。
リフリーゼ:ベッドの支度はできているから、お休みなさい。隣の部屋。
レミ:あの、魔女…。リフリーゼさんに願いを叶えてもらいたくて。
リフリーゼ:しつこいね。
レミ:ごめんなさい。村で森の奥に住む魔女の噂を聞いたから。なんでも願いを叶えてくれるって。
リフリーゼ:魔女なんて、何百年も前の話よ。今はもういないでしょう。
レミ:そうだけど。じゃあ、リフリーゼさんは魔女じゃないの?
リフリーゼ:私…。魔女よ。千年を生きる、魔女。
レミ:千年!?
リフリーゼ:魔女の世界から追い出されたの。この世界は魔女の世界で地獄と呼ばれているのよ。
レミ:じゃあ、私のお姉ちゃんは!
リフリーゼ:お姉ちゃん?
レミ:私のお姉ちゃんはどこにいるの!
リフリーゼ:何の話?
レミ:私、小さい頃に親が死んだの。お姉ちゃんと二人で生きてきた。でも、一か月前病気で死んだの。お姉ちゃんはきっと天国にいる。でも、ここが地獄なら、お姉ちゃんは、手の届くところにいる!
リフリーゼ:混乱を極めて来たわね。魔女の世界でここが地獄だと言われている。それだけよ。
レミ:魔女は何でも願いを叶えてくれる。だから、私はお姉ちゃんを生き返らせたいの。うう、ひぐ…。
リフリーゼ:分かったわ。あなたの違和感。あなたに感じていた、嫌な感じ。孤独なのね、あなた。
レミ:孤独?
リフリーゼ:あなたは唯一の家族である姉を亡くした。そして天涯孤独。あなたには何も聞こえないし、見えてもいない。だから話が通じなかった。
レミ:う、うう。ごめんなさい。
リフリーゼ:おいで。孤独なのは私も同じ。千年も生きているわ。でも、孤独も悪くないわよ。孤独ということは、一人でいること。一人でいることは、自分という味方がいることなの。あなたもそうなればいい。
レミ:でも、お姉ちゃんがいなきゃ、私は…。
リフリーゼ:それは依存よ。依存は双方に良くないわ。あなたのお姉さんも、あなたが悲しんでいるのはきっと辛いはずよ。
レミ:あ…。
リフリーゼ:だから、あなたも前を向きなさい。自分を味方にして、進んでいくがいいわ。
レミ:リフリーゼさん。ありがとう。ところで、さっきから何の本を読んでいるの?
リフリーゼ:これ? 心理学よ。人間って、法則通りに動くって書いてあるから、今試したの。
レミ:試した?
リフリーゼ:これはカウンセリングのページ。あなたの状況を言葉で整理して、その現象の見方を客観視するの。そして、考え方を変えてみる。リフレーミングって言うらしいわよ。あとは、家族を亡くした遺族のケア。人間は死んだ人間のことを覚えていて、何度も思い出すことで忘れていく。これはトラウマの治療法と同じ。効くでしょう?
レミ:ひどいよ。私を実験台にしたの?
リフリーゼ:その反応も込みでね。
レミ:私の味方なんて、いないんだ。
リフリーゼ:それは傲慢ね。勝手に人の家に入って、差し出された茶を疑い、願いを叶えろという。本当に地獄に来たみたいだわ。
レミ:それは、そうだけど。私も失礼なことをした。でも、あなたも私を実験台に…。
リフリーゼ:他責。他責をする人間は幸せになれないわ。
レミ:…っ!
リフリーゼ:それにしても、あなたはどうやってここに来たの? ここは人間が一人で入れる所じゃない。
レミ:私は、猫を追いかけていて。気づいたらここにたどり着いたの。来たくなかったけどね。
リフリーゼ:うん。そういえば、臭いわね。さっきから。あなたが来た時からずっと。
レミ:リフリーゼ、あなたも失礼な人だよ。
リフリーゼ:いえ、あなたの臭いじゃない。これは獣のような。
レミ:猫のことかもしれない。そういえば、あの猫ちゃんはどこに…。
リフリーゼ:猫? ああ、思い出した。この臭い。いるんでしょう。お義姉さん。
猫:にゃあ…。
レミ:あ、猫ちゃん、いた。
リフリーゼ:ふうん。猫に化けてどうしたの。お義姉さん。
効果音
ゼニア:ふふ。久しぶりね、リフリーゼ。
レミ:猫が、人になった!
ゼニア:あ、この人間あなたにあげるわ。リフリーゼ。私が来たということはどういうことか分かるわね。
リフリーゼ:ええ。地獄に落とされたのでしょう?
レミ:え!? どういうこと?
ゼニア:盗み聞きするな、人間。黙っていなさい。ああ、そうだ、眠らせてあげる。ほら。
効果音
レミ:ふあ、なんだか急に眠く…。すう。
ゼニア:これで姉妹水入らずね、リフリーゼ。
リフリーゼ:やめて。姉妹なんかじゃないわ。あなたは義理の母が連れて来た厄介者でしょう。そして、父とあなたの母を毒殺し、私を罠に嵌めてこの地獄に落とした罪人。
ゼニア:よく分かってるじゃない。今日はあなたにお願いがあってきたの。
リフリーゼ:そんな趣味はないわ。
ゼニア:まあ、聞いてちょうだい。魔法の世界はあなたを失ってから大混乱。なぜならあなたは第一王子の婚約者だものね。私が想いを寄せていた、彼の。
リフリーゼ:親が決めた婚約者に気持ちなんてなかったけど。
ゼニア:私が彼の婚約者になるために何でもしたわ。そしてあなたを地獄へ落とすことまで完遂した。けれど、彼はあなたを愛していたから、私には見向きもしなかった。そして、私があなたを貶めたことが判明して、私は地獄へ、ここへ落とされた。
リフリーゼ:だから? 自業自得でしょ。
ゼニア:私は彼を自分のものにできるならなんだってするわ。そこであなたにお願いよ。彼に私しか見えないようにしてちょうだい。生贄として、あの人間を連れて来たのよ。
リフリーゼ:なるほどね。だから猫に化けてここまで人間を誘導したのね。でも、あなたも私にお願いだなんて。
ゼニア:リフリーゼ、あなたがどんな願いも叶えられることを知ってるわ。だからお願い。
リフリーゼ:まあ、いいわよ。あんな男くれてやってもちっとも痛くない。ただし、私が地獄から元の世界へ戻らなくちゃいけないわ。大きな代償が必要になる。
ゼニア:だから、あの人間をあげるの。いいでしょ。
リフリーゼ:ねえ、どうして私がどんな願いも叶えられるなんて、言われているか知ってる?
ゼニア:さあね。昔からよく奇跡を起こしてたじゃない。普通では考えられないこと。
リフリーゼ:ええ。確かに普通じゃない。だからよ。
ゼニア:さあ、どういうことかさっぱり。
リフリーゼ:私は普通じゃない。お義姉さん、普通って何か分かるかしら。
ゼニア:普通は普通よ。それ以上も以下でもないわ。
リフリーゼ:そう。お義姉さんみたいな魔女たちが普通を作っている。凝り固まった頭で決まったパターンの思考しかしない。だから、想定外のことを普通と認識できない。私の起こした奇跡というのは、あなたたちの普通ではないもの。でも見方を変えればいくらでも起こりうることなのよ。
ゼニア:じゃあっ! 視力を失った少年の目を治したのは何だったのよ! 湖が干上がって道を作っていたことも!
リフリーゼ:簡単だわ。少年、彼は目の見えないふりをしていた。私が説得して、見えるように振舞いなさいと言ったの。それに湖は潮の満ち引きで水が引いて盛り上がった地形が道になっただけのこと。すべて説明できることよ。
ゼニア:こしゃくな。それを奇跡と言って騙した女があんたよ! 王子をたぶらかしたのも!
リフリーゼ:周りが騒いでことを大きくしただけよ。それに、王子が私に惚れたのは別に奇跡でも何でもない。私に惚れていたのは王子だけではなかったわ。
ゼニア:いいから! 王子に奇跡を起こして私を彼の妻にしてよ!
リフリーゼ:肝心なことに気が付いていないわね。
ゼニア:何、なんなのよ。
リフリーゼ:仮に私があの子どもを犠牲にして元の世界に帰れたとしても、あなたはどうやって帰るの?
ゼニア:あ…。
リフリーゼ:いいえ、犠牲も代償も必要ない。帰ろうと思えばいつでも帰れる。でも私はあの世界に嫌気がさしていた。だからこの地獄に来て、千年も暮らしている。元の世界で言えば半年くらいかしらね。
ゼニア:なら! 早く願い事を叶えてちょうだい。
リフリーゼ:…。それが人に事を頼む態度かしら。
ゼニア:くっ…。お願い。私の願いを叶えて、リフリーゼ。
リフリーゼ:お義姉さん。いいえ、ゼニアと呼びましょうか。ゼニア。あなたは元の世界への帰り方は分かっている?
ゼニア:分からないわ。私も来たくて来たのではないの。
リフリーゼ:では教えてあげましょう。元の世界に帰る方法。それは、死ぬことよ。
ゼニア:え…?
リフリーゼ:元の世界は死人の世界よ。だから私たちは魔女と呼ばれるの。元々人間だった私たちは死んであの世界に行くのよ。そして変貌した体で生きて、魔女と呼ばれる生き物になる。この地獄はもともと私たちが生きていた場所。
ゼニア:そんな、ことない。
リフリーゼ:あら、事実よ。みんな記憶がないだけ。考えてごらんなさい。私が千年も生きている理由を。死んでいるから、千年も生きているの。この世界では幽霊と呼ばれているわ。
ゼニア:幽霊…。
リフリーゼ:この世界で死ねば帰れるわ。簡単よ。
ゼニア:嫌、死にたくない。だって、こんなに、寒いのに。感覚があるってことは生きているってことでしょ!
リフリーゼ:ふふ。その通りよ。でもね、私は死ねるわよ。いつでも。
ゼニア:どうして。死ぬのが怖くないの?
リフリーゼ:私はアレキシサイミアなの。失感情症とも言うわ。強いストレスが加わると感情を失う。つまり、私は死というストレスを無感情で受け入れることができる。そういうわけなのよ。
ゼニア:そんな。じゃあ、生贄もいらなくて、私は帰れない…。
リフリーゼ:そうよ。あの子どもは明日の朝、村に帰すわ。ゼニア、あなたは出て行ってもらうわ。
ゼニア:待って。私、行くところなんてない。助けて、奇跡を起こして。リフリーゼ。
リフリーゼ:奇跡。分かったわ。明日子どもを帰してから。
ゼニア:ええ。頼むわね。リフリーゼ。
リフリーゼ:では隣の部屋でお休みなさい。ゼニア。
ゼニア:お休み。リフリーゼ。
レミ:う。ふわあ。あ、おはよう、リフリーゼ。
リフリーゼ:おはよう。お嬢さん。あなたのお願いってなんだっけ。
レミ:お姉ちゃんを生き返らせること。
リフリーゼ:よく聞きなさい。お姉さんはあなたの心で生きている。そして、今はきっと元気にしているわよ。魔女になって活躍しているかもしれない。
レミ:お姉ちゃんが、魔女…。
リフリーゼ:ええ、だからきっと未来で会えるわ。それまでしっかり生きなさい。
レミ:うん。分かった。
リフリーゼ:なら、帰ることね。朝の森の空気は心地いいわ。まっすぐ歩いていけば村につくから。
レミ:ありがとう、リフリーゼ。
ドア開く
リフリーゼ:では、ごきげんよう。お嬢さん。
レミ:うん。さようなら。
ドア閉まる
リフリーゼ:おはよう、ゼニア。
ゼニア:リフリーゼ、おはよう。奇跡を起こして私を帰らせてくれるのでしょう?
リフリーゼ:奇跡。まあ、あなたたちにとってはそうかしら。
ゼニア:どんな奇跡を起こしてくれるの?
リフリーゼ:とっても簡単よ。ゼニア、目を閉じなさい。
ゼニア:え、ええ。
リフリーゼ:いい子。では、さようなら。
ゼニア:え、え?
倒れる音
ゼニア:ああ! ぐっ、げほ! あ、はあ、はあ。
リフリーゼ:言ったでしょう。死ねば元の世界に帰れるって。私はあなたを殺す。
ゼニア:ぐ…、はあはあ、リフリー…ゼ…。
リフリーゼ:おやすみ。ゼニアお義姉さま。
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