第51話・やってまいりました決勝戦、この戦いで俺の運命が……!

 準決勝二回戦の第二試合は予想通り原作主人公アルスの勝利。

 なので1時間の休憩を挟み、最低限は回復した俺は闘技場のフィールドに立つ。

 すると反対側から出てきたアルスは、何かに呆れたように突っ込んできた。


「おいおい、そんなフラフラで大丈夫かよ?」

「さあな。まあでも、今はこの状況でやるしかないだろ」

「それはそうだが……」

「てか、なんでお前が俺の心配をするんだよ」


 コイツは間接的にバルクを殺す存在。

 ぶっちゃけ俺がもっとも警戒しないといけない相手で、さっきの出来事があるとはいえ敵ではある。

 だから警戒しながら向こうの言葉を待っていると、何故かアルスは軽く吐き出した。


「フフッ、確かに俺はお前が嫌いだけどライバルがボロボロだと味気ないだろ!」

「いつの間にお前のライバルに格上げされたんだよ!?」

「そんなのリザード・ランドでお前を見た時にからだな」

「めっちゃ前じゃん!?」


 数ヶ月前の話なのによくこいつは覚えているな。

 というか、主人公に認められるのはありがたい気持ちになるが、それはそれとして……。

 自分の中で違和感が湯水のごとく湧き上がっていると、微妙な笑みを浮かべたアルスが続きを話してくる。


「それにように感じるんだよ」

「俺は俺だし、ソッチが感じている事は気のせいじゃないのか?」

「確かにオレの勘違いかもしれないが、でも自分の中で納得できない点が多すぎる」

「……そんな事よりも本題に入らないか?」

「本題か、ならお前の実力を見させてもらうぞ!」


 やっと向こうもやる気になった感じだな。

 俺が主人公アルスと決闘するのは戦闘学園に入ってからだが、その前に戦う羽目になった。

 ここは原作とはズレるかもしれないけど、負けると死ぬので意地でも負けられない。


「2人とも準備が整ったみたいですね。では魔法闘技祭の決勝、バルク・カーマセルVSアルス・ファンタジアの勝負を始めます!」


 審判さんの一言で俺達は互いに武器を構える。

 おそらくだけどリザード・ランド時のアルスとは、比べものにならないくらい強くなってそうだな。

 最初の動きだけでも洗練されていたので、俺は冷や汗をタラリと流しながら審判さんの言葉を待つ。


「では……試合開始!!」

「ハアァ!!」

「ツッ!」


 アルスの武器はシンプルな長剣ロングソード

 射程的には片手剣の俺の方が不利なのもあるが、向こうは長剣を下段に構えながら勢いよく突っ込んできた。


「パワースラッシュ!!」

「アクセルステップ」

「チッ! 上手く躱しやがったな!」


 まずは相手の出方を見ていく。

 アルスはおそらくガンガン攻めてくるアタッカータイプで、カウンタータイプの俺とは相性が悪いはず。

 なら向こうが取れる手の一つにがあるので……。

 

「おいおい! 避けているだけだとオレに勝てないぞ!」

「確かにそうだが少し脇が甘いんじゃないか?」

「ツッ!? ぐっ!」


 長剣の利点はバランスの良さ。

 ほどほどのリーチに取り回しも悪くないシンプルさがあり使い手も多いが、上手く攻撃を弾かせてもらったぞ。

 向こうの兜割に対し、コチラは左から振り払うように斬撃を放ち体勢を崩していく。


「隙だらけだな!」

「ぐうっ!! ハハッ、油断していたのはオレの方かよ!」

「さあな? まあでも先手はもらったぞ」


 これで多少は有利になったか?

 アルスの体勢が崩れたタイミングで左拳の一撃を顔面に叩き込む。

 そのおかげでバキッと鈍い音がし、相手は少しだけ後ろに吹き飛んだ。


「目が覚める攻撃をどうも!」

「嫌味か?」

「それはどうかな?」


 やっぱり、一撃を喰らわせただけじゃどうしようもないか。

 ピンピンとしながら笑っているアルスを見て苦笑いを浮かべつつ、バックステップを踏みながら距離をとる。

 すると向こうは不思議そうにしていたが、すぐに真顔に戻り長剣をバッと構えた。

 

主人公ヒーローの言い回しをしやがって」

「お前がオレの事を英雄ヒーローって思うなんて嬉しいぜ」

「そりゃ情報を集めていればわかることだろ」

「ならお前は好敵手ライバル確定だな!」

「は? 俺は好敵手ライバルじゃなくてカマセ犬落ちこぼれだが?」


 原作では戦闘学園編の序盤でボロカスに負けるのがバルク・カーマセル。

 そんなカマセ犬を好敵手ライバル扱いをしてくる主人公ヒーローとかおかしすぎるだろ。

 色んな意味で突っ込みところが多いが……それでも悪い気持ちにならないのは何故だ?


「そうかよ! まあでもオレはお前と大会の決勝この舞台で戦えて嬉しいけどな!!」

「ツッ!? そう言いながら不意打ちで斬りかかるなよ!」

「正攻法が無理なら搦手を使うのは当たり前だろ!」

「確かに否定は出来ないが!」


 主人公ヒーローならもう少し正々堂々して欲しいんだけど?

 会話フェイズ中に強化魔法を使ってコチラに斬りかかってくるアルス。

 その動きに対応するために、俺も片手剣&強化魔法魔法で相手の攻撃を防いでいく。


「ここまでやってもほぼ無傷かよ!」

「悪いがお前の攻撃を受けたくないんだ!」

「ちょっ!? ならちょくちょく受けているオレはなんなんだ?」

「さあな? まあでも、悪いがんでな!」


 今のままなら俺の方が有利だが……。

 相手は物語の主人公で、まだ隠し球もあるはず。

 相手の出方を伺いながら、俺は自分の手札を使ってアルスの行動を制限していくのだった。



 

 

 


 

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