死亡フラグの悪役転生、凡人にこのシナリオは鬼畜です

影崎統夜

第1話・カマセ犬よりも強キャラに転生したかった!

 大人気ファンタジーゲーム、カーディナルナイト。

 このゲームは異世界ファンタジーを主軸にした世界で、聖女と呼ばれるヒロインの護衛騎士として共に成長していく王道ストーリー。

 このゲームの売りは味わい深い重ためのストーリーに、名だたるイラストレーターさんが書き下ろした多くのキャラクター。

 当時、ブラック企業を退職して無職ニートになった俺は時間の限りやり込んだゲームなのだが。

 薄暗い洞窟の中、涙目で震える15歳くらいの少女がま……え?


「なんで初見殺しダンジョンを聖女の1人が彷徨っているんだよ!」

「へええぇ!? な、なんでウチの正体を知っているんスか」

「お前の姿は嫌というほど見覚えがあるからな!」


 王都の近くに点在している、ジメジメとしたダンジョン・ゴブリンの巣窟。

 俺があるキャラに転生してから約2ヶ月、強くなるための修行で人が少なさそうなダンジョンに来たのだが。

 青髪ボブカットで身長が低めの丸顔少女、不遇系聖女のアクア・ハルカナに出会うとはな。


「う、ウチはアナタを見た覚えがないッスよ」

「そうか? まあいい、今は聖女様がなんでゴブリンダンジョンにいるかだな」

「ッ!」


 気持ち悪い雑魚モンスターであるゴブリン、コイツに襲われていた彼女を助け出したが。

 その目には涙が溜まっており、腰が抜けて立ち上がれないみたいだ。


「う、ウチが1人でいるのがおかしいッスか?」

「そりゃソロでダンジョンに潜る聖女はおかしいだろ」

「うっ! それは……」


 流れ的に彼女は主人公に選ばれなかったっぽいが……。 世界観的に貴重な聖女に護衛もつけずに放置するのはかなりおかしい。

 ウルウルとした目をしている彼女を放置して考えていると、相手が不安そうにコチラを見てきた。

 

「まあでも、君の理由を聞く前に俺の自己紹介をした方がいいか?」

「そうッスね。あ、腰が抜けたから背負って欲しいッス」

「お、おい……」


 先に背負う前に倒したゴブリンのドロップアイテムを拾いたいんだけど?

 ただ彼女がぱあぁと嬉しそうにしているので、俺はため息を吐きながら手を差し出す。


「とんだわがまま聖女だな」

「フフッ、ならアナタはウチの騎士様ッスか?」

「騎士じゃなくて貴族だけど」

「どっちでもいいッス」


 コイツ初対面の俺への好感度が高くない?

 さっきまでの雰囲気とは打って変わって、明るい雰囲気のアクア。

 彼女の変わり身の速さに驚きつつ、俺は頭が痛くなりながら呟く。


「これ原作はどうなっているんだ?」

「なんか言ったッスか?」

「いやなんでもない。それよりも俺の名前を言っておく」

「はいッス!」


 このまま名乗らないのは不平等。

 なので俺は一つ息を整えた後、言葉に詰まりながら自己紹介をする。


「俺はカマセ系雑魚貴族のバルク・カーマセルだ」

「雑魚貴族?」

「そうそう」


 無職童貞だった俺が、転生したキャラは序盤のカマセキャラであるバルク・カーマセル。

 実家が伯爵家の次男坊で能力が低いくせに態度がデカく、立場の弱いやつをいたぶるのが大好きなクズ。

 原作では主人公にボコボコにされた後、学園から追い出されて魔物に食い殺されるキャラ。


「よくわからないッスけどバルクさんはゴブリンを軽く倒したじゃないッスか」

「それは……。まあ、色々あるんだよ」

「複雑な環境なんスね」

「ああ」


 ゲームでは死亡確定のカマセキャラ。

 流石にその事は伝えられないので、俺は苦笑いで目が輝いている彼女を背負った。


「ありがとうッス」

「これくらいは大丈夫だ」

「フフッ、なら甘えさせてもらうッスよ」

「お、おい!?」


 まだモンスターが現れるダンジョン内だぞ!

 俺は力強く抱きついてくるアクアに対し、思わず突っ込むが。

 ニッコリと笑う彼女は背負われながら強く抱きしめてくる。


「どうしてこうなった?」


 アクアを背負いながらダンジョン内を進む中、俺は過去を思い出すように記憶を洗い始めた。

 


 〜二ヶ月前、転生初日〜


 

『バルク・カーマセルへの憑依完了。ユニークスキル・反射が使用可能になりました』


 頭の中に響く女性っぽい機械音。

 昨日は夜遅くまでカーディナルナイトをやっていたから、電源をつけっぱなしだったか?

 そう思いながら目を開けると、シミが目立つボロアパートの天井ではなく茶色いレンガの天井が目に入った。


「……は?」


 もしかして夢か?

 レンガ状の天井に白い壁、俺が寝ているのはいつものせんべい布団ではなくフカフカのベット。

 どう考えても夢としか思えないので二度寝をしようとした時、ふと扉の方からノック音が聞こえた。


「お、お目覚めでしょうかバルク様」

「え? あ、う、うん」

「も、もしよろしければ入室の許可をお願いします」

「うん、どうぞ」

「は、はい!」


 部屋の外から聞こえる震えた女性の声。

 状況がわからない俺はアタフタしながら返事をすると扉が開き。

 身長が高めでロングスカートタイプのメイド服を着た金髪の女性が部屋の中に入ってきた。


「お、おはようございます」

「おはようございます」

「えっ!? ば、バルク様が癇癪かんしゃくを起こさずに挨拶を返してくれた」

「な、何かおかしかったですか?」


 やべぇ、よくわからない。

 状況がわからずに固まっていると、目の前にいるメイドさんが涙目になりながらうずくまった。


「えっと? 気分が悪いなら誰か呼ぼうか?」

「いえ、大丈夫です!」

「あ、はい」


 めっちゃ食い気味に手を握られたよ。

 しかも美人メイドさんだからドキドキ……無職童貞の俺には刺激が強いんだけど!?

 内心でヒヤヒヤとしていると、ブルブルと震えてた彼女が嬉しそうに頷いた。


「このルイズ、バルク様の専属メイドになって今日ほど嬉しい日はありません」

「ん? ちっと待ってください。そのバルクってもしかして」

「? バルク様はバルク様ですよ」

「……悪いけど鏡を用意してくれるとありがたいです」

「わ、わかりました」


 金髪メイドさんことルイズさん。

 彼女が不思議そうに鏡を用意してくれたので自分の姿を写すと、銀髪七三分けで目つきが悪い痩せ型の少年……。

 カーディナルナイトに出てくる序盤のカマセキャラである、バルク・カーマセルが写っていた。


「ま、マジかよ」


 五千時間以上やり込んだ大好きなゲーム世界っぽいところなのはすごいありがたい。

 ただ転生したキャラがストーリー上で死亡確定のバルク・カマセールなのは予想外だわ!


「も、もしかして体調が!」

「いや、なんでもない。それよりも今年は何年だ?」

「こ、今年は天月歴256年の4月です」


 天月歴256年の4月なら原作開始の一年前か。

 ならまだ時間があるし、死亡フラグである主人公と関わらなければ生き残れる。

 それならやる事は一つ。


「……死亡フラグをへし折るしかない」

「え、えっと、バルク様?」

「あ、いや、なんでもない」


 あくまで今の俺をバルクと確定とした場合だが。

 とりあえず状況の確認をする為、俺は戸惑っているルイズさんに次々と質問を投げかけていくのだった。

 

 

 

 

 

 

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