第20話 夕暮れに現れた刺客
レイシアナと別れて、俺はそのまま帰路についた。
意外にも途中でエリオからの接触などはなかったのだが、彼女も俺の心身の疲労を察して遠慮してくれたのかもしれない。
学園から解放され、俺はようやく街にある学生寮へ帰還することができた。
夕方と言えどもまだ早い時間なので、寮内に他の学生は少ない。
俺にあてがわれたのは最上階である6階の左端の一室だ。
窓からの眺めはいいが、いちいち階段を上るのがだるいので正直微妙な部屋だ。
やっと一息つける、そう思ってドアノブに手をかけた瞬間。
俺は違和感に気付いた。
……中に誰かいる。
扉の向こうに何者かの気配を察知した。
まさか泥棒か?鍵はしっかりかけたはずだけど。
まあ、もうなんでもいいよ……。
存在を察知してる時点で向こうに遅れをとることはないし、さっさと用件を聞いてさっさと帰ってもらおう。
そう思って俺が普通にドアを押し開けると、……中から普通にナイフが飛んできた。なので俺は普通にそのナイフを素手でキャッチして、普通に飛んできた方向に向かって投げ返した。
「わっ!」
ナイフが天井にぶっ刺さったのと同時に、何者かが驚いたような声と共に俺のベッドに墜落した。どうやら今まで天井に張り付いていたらしい。
やっぱり泥棒か……。
俺が落胆して剣を抜こうとすると、その何者かは慌てて両手を振った。
「タンマタンマ!ボクが悪かったよ!ちょっとキミを試したかっただけなんだ!」
「…………試す?」
「そうそう!」
そいつはベッドから両手を上げたままま立ち上がった。
こちらに敵意はないらしい。
よくその姿を見ると、頭から長いウサギみたいな耳の生えた獣人だった。
髪が黒くて短いので男性かと思ったが、黒っぽくてやたらぴっちりした軽装から浮き出た身体のラインを見ると、やっぱり女性みたいだ。
もちろん……多分、面識はない。
「ボクは
「…………」
新人君というのは、もしかしなくても俺のことだろう。
すでに
「……にしても、ずいぶん手荒い挨拶だったじゃないか」
俺は天井に突き刺さったナイフを見ながら言った。
「あははー、ごめんって。強い相手を見ると、つい色々試したくなっちゃうんだ」
リオンは苦笑いを浮かべた。
あははー、じゃねえよ!試すにしても外でやってくれ!
「…………それで、エリオからの伝言というのは?」
さっさと本題に移ってもらうことにした。
なぜならとっとと一人にしてほしいからだ。
「あーそうそう。今日の夜8時に
「…………今日か」
「ん?なにか用でもあるの?」
「……いや、別に」
単純にめんどくさいというだけの話だ。
まあいい。面倒ごとはまとめて片付けておいた方がいいだろう。
「……伝言はそれだけか?」
「うん、それだけ。……ちなみに、多分エリオ以外のメンバーは来ないと思うから、せいぜい頑張ってね」
「……ああ?」
頑張るってなんだ?やけに含みのある言い方じゃないか。
俺がそんな疑問を抱いているうちに、彼女は部屋の窓を開けた。
「それじゃあ、そのうち一緒に仕事をすることになると思うけど、その時はよろしくね」
「…………」
リオンは爽やかにそう言い残すと、返事を返す間もなく窓から夕闇の街に消えていった。……よく考えたらここ6階だぞ。すげえな。どうやって入って来たんだろ。
それよりナイフでできた天井の傷はどうしてくれんだ。
寮の人に見つかったら怒られるよ、普通に。
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