出会いはネットサークルで? 【1】

その後、佐野くんは”できちゃった結婚”だと言う噂が流れてきた。

そうか、それで、独身最後の遊びにしようと思って私を誘ったのかもしれない。


でも、それだったら、馬鹿にしている。

佐野くんの誘いを断ったことに罪悪感を抱いていた私は何だったんだろう。

真剣に佐野くんと付き合ったら、そして結婚したらと考えていた自分が情けなかった。


――私、もう、一生このまま独身でもいいかもしれない。

そんな思いが頭をかすめた。

このまま一生働いて、自分で生計を立てて生きていく。

順調にいけば親よりも長く生きるはず。

すると死ぬまで一人暮らしだろうか。

自由でいい?気楽でいい?

それとも、やっぱり寂しいのだろうか。

学生時代の友達は半分が結婚している。言い方を変えれば、半分が結婚していない。

そして、数人が結婚後に離婚してしまっている。

せっかく結婚しても、独身の方が幸せだったと後悔してしまうこともあるだろう。

ーーああ、もう、どうしたらいのだろう。


悩んでいるうちに、いつの間にか家に着いていた。

「ただいま」

リビングを覘くと、母がお茶を片手に前のめりになってテレビを見ていた。父の姿はすでになく、奥の部屋から地響きのようなイビキが聞こえてくる。

「あら、今日は早かったわね」

母がちらっと私を見て、すぐにテレビに視線を戻す。

韓流ドラマを見ていたらしい。最近、母の中での何回目かの韓流ブームがおこっていた。

私も手を洗ってお茶を入れると母の隣に腰かけた。

「これ、誰?」

「知らないの?」

「知らないわ」

「かっこいいでしょう」

「そうね」

「それにもまして、話が感動的なのよね」

「ふうん」

画面の中では、色々な障害を乗り越えて愛を貫いていく情熱的な恋物語が繰り広げられている。

「ねえ、お母さんたちもこんな恋愛をして結婚したの?」

その私の質問に、母がくるっと首を私の方に回して、ちょっと目を見開いて見せた。

「なに?急に」

「ちょっと、気になって」

「こんなこと、現実にはないわよ」

「やっぱり、そうよね」

「そうよ。……ええっと、お父さんとは友達の紹介で知り合って、まあ、こんなもんじゃないかなって感じで結婚したの。歳も歳だったしね」

「お母さんが結婚したのって、何歳?」

「29歳」

「29?」

「そうよ。30になる前にって思って、急いで結婚したの」

「焦ってたってこと?」

「まあ、そうね」

「そんなふうに決めてしまって、後悔とかしなかった?」

「うーん。もう少し待てば、もっといい人が現れたかもしれないけど……。必ず現れるって保証はないし。歳はどんどん取っちゃうし」

「うん」

「お父さんも、まあまあよ。職業はちゃんとしてたし。見た目は普通だけど」

「何が決め手だったの?結婚したら離婚でもしない限り、その後ずっと一緒に過ごすことになるんだよ」

「そうねえ。お父さんは、嫌なことを言わなかったのよ」

「嫌なこと?」

「そう。ほら、誰と話していても、ちょっと嫌なこと言うなとか嫌な言い方するなって思うことあるじゃない?」

「うん」

「お父さんはそれが殆ど無かったのよ」

「へえ」

「だから、これならやっていけるんじゃないかと思ったの」

そう。そうか。嫌なことを言わない、ね。

黙っている私の顔を覗き込んで、母が三日月形に目を細めた。

「どう?参考になった?」

「あ、う、うん」

ちょっと動揺して、声が詰まってしまった。

「ねえ、なに?何かそんな話があるの?」

いつの間にか、母の上半身はテレビではなく私の方に前のめりになっている。

期待が抑えきれないような瞳。

少し目尻の皺が目立つようになってきた。母もだいぶ歳をとったんだな。改めてそう思った。

「あ、ううん。ないない」

私は自分の顔の前で右手を振るようにした。

「ないの?」

「ないよ」

「そう」

ちょっと文句を言いたそうに唇を尖らせると、終盤にかかった韓流ドラマに視線を戻した。


そんな母は、結婚して上手くやっているように感じる。

なんとなく、結婚している友達が独身の私たちより余裕があるように感じるのは私だけだろうか。

傍に頼れる人がいるという未来はやはり安心感があるのだろうか。


そう思ってしまう時点で私は結婚したいんだな――そう思った。


そうだ。とりあえず、後で後悔するとしても、結婚したい。

私、結婚したいんだ。


結婚、どうしたらできるのだろうか。

恋人どうやって作ろう。

そもそも、好きな人できるのか。

その為には出会いを。

どうにかして、新しい出会いを見つけなくては。


~ to be continued ~

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