第50話 襲撃のあと(2)
「そうか。良かった。これで換金所の主人も安心するだろう。だがこちらの都合でこの街に足止めするからには、何か別に礼をせねばな」
ふむ、と考える素振りを見せたグレイは、じっと見つめる賞金稼ぎとアシュリーに続けて言った。
「昨日と今日の礼にもならんが……、どうだろう、
ジェインの顔で、緑の目が大きく主張した。
「いいの?!」
グレイは人の
「どうかな? これで多少は礼になるだろうか?」
やはり街を守る守護隊の団長ともなれば、懐も文字通りデカいのだろう。
正確な数も分からないうちに、全部くれるとは。
『やったじゃない! あの青いのかなりいたわよ。スタンピードって勘違いしたくらいだもん』
カティアが興奮した口調で
『水増し請求なんてケチなこと、しなくて良くなったわね!』
ジェインが嬉しさに笑いを堪えきれなくなってきた頃に、水を差すのがカティアである。およそ剣を握るとは思えない
「迷惑をかけ続けるのはこちらとしても心苦しくてな。ん? どうした? やはり不服だったか?」
「いやいや、ちょっとこっちのことで……」
それで大丈夫と言いながら、ジェインは引き
「そうか、では金の話はこのくらいにして、昨日と今日の魔獣の件を聞きたい。何か知っていることはないかね」
長い期間魔獣を目にしなかった彼らは、短い間で、なぜこれほど街が襲撃を受け始めたのか、何か特別な理由があるのでは、と考えているようだった。
「うん? 私に魔獣が襲撃してきた理由を聞かれても……いたから斬った、ただそれだけだよ。それより、ここの大層なゲートはどうしたのさ? 青狼は四方からいっぺんに集まってきていたようだし、本来の責務は全うしきれてないんじゃないか?」
あの青い犬っころどもはコルテナに設置された四か所のゲートを、同時に一斉に抜けたと思われた。各ゲートはいわゆる東西南北に設置されており、通常の狼とそう変わりのない知能と言われる魔獣の青狼がどうやって同時に突入できたのか不明だった。
「それはこれから各隊ごとに詳しい報告をあげてくるはずだが、ゲート自体を突破したのではないとどの隊も口を揃えているのだ」
「突破してない?」
ならどうやって入り込んだのだ。ゲートを抜けなければ街に入る手段はないはずだ。昨日のあのデカい魔獣のように、ゲートを飛び越えたとでも?
「いや、……ならば壁でも超えたっていうのか?」
「ああ、その通りだ。あいつらゲートとゲートの間、そこで仲間を踏み台にして、飛び越えて中に入り込んだようなんだ」
カーラントがそう説明した。
『ねぇ、本当はあんたなにか知ってるんじゃないの』
隊長と副隊長の話を聞く途中で、カティアの声が頭に響く。事情を知らない人間の前で返事などできるわけがない。ジェインは聞こえないふりをする。
「あ、いたいた!」
急に聞こえたのは、アシュリーが良く知る人の声だった。
「おかみさん?」
「あれ、アシュリーじゃないか。なんでこんなとこにいるんだい?」
雑貨屋のリュシェルが、アシュリーの姿を見つけるなり、小走りに駆け寄ってきた。
「どうしたんだい? 外になんて出ていたら危ないじゃないか。怪我はないかい?」
余程心配らしく、彼女はアシュリーをグルグル回して、怪我がないか確かめた。昨日の今日で、しかも襲撃してきたのが昨日のやつと似た青狼なのだ。リュシェルのアシュリーに対するその行動は当然だといえよう。
「大丈夫! 今日はジェインさんがいるから」
ちらり、とアシュリーの視線の先にいたのは、絶世の美貌の剣士。
「あ! おまえさん! 昨日の!」
かなり興奮したせいで、リュシェルの声は大きくなった。とりあえずちょっとだけしたジェインの会釈する姿に、うっかり抱えた荷物を落としそうになり、アシュリーとリュシェルは二人で慌てた。
「おかみさんはどうしてここへ?」
ああそうだったと、リュシェルはアシュリーに頷きながら、守護隊隊長へ。
「青狼の襲撃もとんでもない事態だけど、グレイ隊長、こっちも緊急で話があるんだ」
言いながら持ってきた荷物に視線を向けた。
「何を持ってきたんだ?」
「リュシェルさん、これは……?」
グレイもカーラントも雑貨屋のリュシェルとは友人のような関係らしい。守護隊のナンバーワンとツーを、ちょいちょいと指先で呼んで、それに二人も普通に応えた。
「そこの美貌の賞金稼ぎさん、あんたにも見て欲しい」
なんだかわからないが、呼ばれたジェインもそれに答える。
「いいかい、あ、アシュリーは見ない方がいい」
「え、どうしてですか」
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