仲間を守って死んだら二十年後の同じ世界に生まれ変わった件……でも俺、転生二回目なんだけど?

みょん

プロローグ

 死んだと思ったら転生していた。

 何があって死んだのか、それを思い出すことは出来ないけれどとにかく俺は異世界へ転生した。

 そして、その生まれ変わった世界で俺は死にかけて……否、また俺は死ぬんだと分かっていた。


「がふっ!?」

「あ、あぁ……いや……いやああああああっ!!」

「どうにか治療しなくては……っ!!」

「馬鹿野郎! 頼むから死ぬんじゃねえぞ!?」

「お願いです……どうかお気を確かに!」


 既に体の感覚がなくなり、口から吐いた血の味さえも感じないほどに弱り切った俺を仲間たちが見下ろしている。


(ははっ……これは……嬉しいもんだなぁ)


 仲間たちが泣いていることに申し訳なさはあっても、こんなに悲しんでもらえることが何より俺は嬉しかった。

 痛み? 苦しさ?

 そんなものはもうない……もうすぐ死ぬからこそ感じないんだろうけれど、それ以上に俺はみんなに会えて良かったという幸福に包まれていた。


「俺は……幸せだったなぁ」

「何を諦めてるのよ!?」

「血が……血が止まらない……っ!」


 この世界は……正しく異世界だった。

 現代日本では考えられない剣と魔法の世界……けれどよくある中世ヨーロッパ的な文明かと思えばそうではなく、割と技術の発展があったのが日本に生きていた俺にはありがたかった。


(……まさか、転生したとはいえこんな立場になるとは思わねえよ)


 この世界には勇者と魔王なんて物がちゃんと存在していた。

 人間だけでなく、多種に渡る人外の存在たち……こうして今、俺を見下ろして泣いてくれている仲間たちの中にも人ならざるものが居る。


(遠い場所まで来ちまったもんだぜ……)


 生まれは男爵家の三男坊で、全く期待をされていなかった。

 それでも転生した俺には強いスキルが備わっていた……それこそ、どんな悲劇さえも跳ね除けるほどの力が。


【奇跡を起こす力】


 そんなあまりにも簡単な名前のスキルで、一切の捻りがないスキル。

 けれど生まれた時から俺を救ってくれただけでなく、こうして大切な仲間を作るのに役立ってくれた最高のスキルだった。

 そう……たくさんの奇跡を起こしてくれたんだ。


「……っ……」


 でも……そんな奇跡を起こす力だからこそ、こうして最後の最後にツケが回ってきたのかもしれん――俺の死という形で。

 ゆっくりと空へ手を伸ばす……既に感覚はないと思っていたが、しっかりと握りしめられた感触を俺は感じた。


「……ははっ、温かいなぁ」

「何よ……何よ今にも死にそうな顔をして……っ」

「諦めないでください! お願いだから……お願いだから!!」


 俺の手を握ってくれた二人は、それぞれ違う種族の人外だ。

 出会いは決して良いものではなかったが、それでも最後までこうして戦ってくれた。

 決して人間に協力するなどあり得ない魔族のサキュバスと、種族の性質上人間とは相容れないエルフ……彼女たちとの仲は良好で、それこそ軽い冗談なら言い合えるくらいには絆を深めた。


「……っ」

「……………」


 そして、そんな彼女たちの背に立つ男女もまた……最初は当然のように仲は良くなかったものの、こうして互いに背を預け合って戦うほどに仲間として良い関係を築けた。

 まあ、伝説の勇者パーティと呼ばれるほどになったんだから……それで実は仲は最悪でしたってのは夢も希望もないってもんだ。


「みんな……俺は……本当に幸せだった。みんなの様子を見れば、俺が死ぬことを凄く悲しんでくれているのが分かる……けど、敢えて俺はこう言わせてもらうよ――俺はみんなを守れて良かったって」


 親しくなったからこそ、残された者がどんな気持ちになるのか分からないわけがない……それでも最後だからこそ言わせてほしかった。

 俺の言葉に、みんなの表情がこれ以上ないほど悲しみに染まっていく。

 何も残せないと思っていた……何も出来ないと思っていた……強い力を持っていても俺なんかがって……そう思っていたけど、こうして俺は守ることが出来たんだ。

 現代日本を生きていたどこまでも一般人な俺が、こんな風に誰かを守って死ねることを喜ぶだなんて大きすぎる変化だろ……でも正直なことを言えば、死にたくはない。


(……なんというか……もっとこの世界を楽しみたかったなぁ)


 せっかくの異世界なんだ……これからもっと技術は発展し、もっともっと過ごしやすい世界になるだろう……まあ、そうなれば更にいざこざや争いも増えるだろうけど、それでもこの世界を俺は好きになった。

 だってこの世界は、俺の第二の故郷みたいなものだから。


(それに……)


 手を握ってくれているサキュバスとエルフの彼女たち……そりゃもうビックリするくらいに美人で、おまけにエッチだった。

 流石異世界だと言わんばかりの美女で……どうせならもっとお近付きになってエッチなことしたいとかさぁ……やっぱり考えたわけで……まあでも結局、それも何も出来なかった……ははっ、最後に考えるのがそんなことかよ俺ってば。


「そろそろか……それじゃあなみんな」


 もう瞼を持ち上げる力すら残っていない……それでも満足感に包まれている俺は、ゆっくりと目を閉じ……そして眠るように意識を手放した。



 ▼▽



 長きに渡った魔王との戦いは、魔王の死を持って決着が付いた。

 この戦いは勇者を筆頭とした五人のパーティによって齎されたものであり、世界に平和を取り戻した彼らは伝説として語り継がれていく。

 だが同時に、たった一つの犠牲も強く伝えられることになった。

 曰く、勇者パーティの纏め役。

 曰く、勇者パーティのムードメーカー。

 曰く、魔族とエルフの想い人。

 曰く、奇跡を齎した影の英雄。

 曰く、勇者の最初で最後の親友。


 等々、その失われた存在には多く言われていることがあった。

 たかが男爵家の者が後世に伝説として語り継がれるなどあり得ないという声もあったが、そこは勇者を始め旅に同行した王女が逆にそう言いだした者たちに制裁などという言葉では生温い地獄を見せたらしい。


 かくして、一つの時代は終わった。

 そして二十年という長い月日が経ったその頃、彼は蘇った。


「おぎゃ~! おぎゃ~!」


 ……生まれたばかりの赤ん坊として。


(え……? え……? えええええええええっ!?!?)


 かつて一度死んで転生し、また死んだ彼である。


「おいとっとと捨てちまえ」

「分かってるよ。ったく、恨むんならアタシらの所に産まれたことは恨むんだね」


 どう見ても人相の悪さが際立つ男女……赤ん坊ながら言葉を理解している彼はこの時点で最高に嫌な予感がしていた。

 それはもうビンビンに。


「おぎゃ~!」

(ちょっとこの流れ……まさか!?)


 男女は彼を薄暗い森の中へ放置し、そのまま走って行った。


「……………」


 精神が体に引っ張られるとはいえ、それでも涙が引っ込むほどの暴挙である。


(なんで生きてんのか……あぁいや、この場合はまた転生かよ! でもこんなのはあんまりじゃないか!?)


 赤ん坊なので満足に動けない……これでは死ぬのを待つだけだ。


「むっ? これは……赤ん坊か?」

「っ!!」


 しかし、神は彼を見捨てていなかった。

 現れたのは美しい女性で、かなり中性的な顔立ちをしている。


「おぎゃ……おぎゃ~!」


 安心したのか、赤ん坊の体は大きなを声を上げて泣いてしまう。


「お~よしよし、もしかして捨てられてしまったのか? ……私には子育ての経験はないが、捨て子を見て放ってなどおけん」


 こうして、彼は美しい女性へと引き取られるのだった。


 これは同じ世界に二度転生するという、摩訶不思議な経験をした男の物語であり……前世が災いし、凄まじく悪い……いや、良い女運を持った彼の生き様である。

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