序章 8




 打ち解け合った五人はそのまま飲み会を続ける。

 自然と話題は明日以降の大型連休の過ごし方になった。


「みんなでレンタカーでも借りて、泊りがけでどっか行こうよ」

 怜子が提案する。

「でもよ、いまから宿なんか取れねえだろ。それにレンタカーだって借りれるかどうか」

 大輔がもっともなことを言う。


「レンタカー屋なら知ってるとこがあるから当たってみるよ、昔のバイトの時の後輩が務めてるんだ」

 さっそく雄太がスマホを取り出し、電話を掛ける。



「車種を選ばなきゃ、どうにかしてやるってさ」

 電話を切りながら、雄太が笑顔を見せる。

「あんたにしちゃ上出来だね、見直したよ」

「俺を甘く見過ぎだぞ怜子、俺だって決める時には決めるんだ。だからいい女を紹介頼むぜ」

「調子に乗んな」

 怜子が雄太のおでこを弾く。


「じゃあ行き先だな、手っ取り早い所で箱根なんかどうだ」

「いいね、温泉もあって見る所も山盛りにある」

 大輔の言葉に智司が賛成する。


「箱根、箱根と」

 みなスマホの画面とにらめっこしながら、宿泊状況のサイトをチェックする。

「やっぱ駄目だな、どこもここも一杯で空きなしだ」

 大輔が溜息を吐きながら立ち上がって、トイレへ行く。


「こっちも駄目だわ、どこもかしこもソールドアウト」

怜子も首を振る。

「じゃ、もう少しマイナーな所を検索しようぜ」

 雄太がさらに検索するが、顔はしかめられたままだ。

「関東近辺はどこも全滅だな。そりゃそうだろうな、なにせ世紀の大型連休だもんな」

 諦めたように智司が言う。


「ねえ雄太、旅行業界に知り合いはいないの」

 怜子が無茶振りをする。

「そんな都合よく知り合いがいるわけねえだろ、俺の交友関係はレンタカーで打ち止めだよ」

「ちっ、使えねえな」

「舌打ちはやめろよ、心が折れる」

 怒りもせずに、雄太がおどけてみせる。

「やっぱ、あんた性格いいね」

 怜子が微笑む。


「こうなりゃ行くだけ行って、現地で宿を探すってえのはどうかな。結構当日キャンセルがあるらしいよ。現地に着いたら真っ先に宿泊施設を回って、キャンセルが出たらその時点で知らせてもらえるように頼んどくんだそうだ。かなりの割合でどうにかなるみたいだぞ」

 智司が何年か前に見たテレビの情報バラエティ番組を思い出し、そう提案する。


「でもよ、万が一本当に宿が取れなかったらどうすんだよ。俺たちゃ男だからいいけど、怜子と涼音ちゃんが困るだろ」

「ううむ、それを言われるとな──」

 智司が黙り込む。


「おい、良いもん見つけたぞ」

 嬉々としながら大輔がトイレから戻って来た。

 手には一枚のパンフレットらしき紙が握られていた。

 この一枚の紙切れこそが、彼らを異界へと誘う運命のアイテムであった。

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