序章 6
「で、涼音ちゃんは好きな人いたの。そりゃいたよね」
怜子が核心をつく。
「す、好きな人? ううーん、好きな人っていうか、気になってた人はいました」
恥ずかしそうに口籠る。
「誰なの、言ってみなよ。もう8年も前の事だよ、時効じゃん」
「えっ、で、でも恥かしい・・・」
そう言って、隣に座っている智司をチラッと見上げた。
「ま、まさか智司! 噓でしょ、そんなことあり得ない。嘘、嘘、絶対にあり得ないって」
「やだっ、恥ずかしくって顔見せられない」
涼音は掌で顔を隠し、テーブルに突っ伏してしまった。
そのうちに、ヒック、ヒックという声がし始める。
泣いているらしい。
「なにぼーっとしてんの。あんた男でしょ、なんとかしなさいよ。この色男め」
怜子が肘で智司をつついた。
「あ、ああ」
智司がわけの分からない声を返す。
そうは言われてもどう接すればいいのか分からない智司は、あたふたとするばかりで一向に埒が明かない。
「涼音ちゃん、トイレ行こう」
怜子は堪りかねて、手で顔を覆ったままの涼音を立たせ強引にトイレへと消えた。
残された三人の男は、しばし無言の時間を過ごした。
「なんか凄いことになったぞ」
やはり初めに口を開いたのは、お気軽な雄太だった。
こんな時は、こういった性格のやつが役に立つ。
「ああ、まるでラブコメ的展開だ。現実にこんなことが起きるなんて、考えてもいなかった。どうすんだよ智司、お前の気持ちはどうなんだ」
恋愛経験豊富な大輔が訊く。
浮気性の大輔は、いままで離れたりくっついたりを怜子との間で何度も繰り返していた。
すべて原因は大輔の浮気である。
「どうするったって、どうしよう?」
「馬鹿、俺が訊いてるんだよ」
「そりゃ嬉しいに決まってんだろ、ずっと憧れてたんだから。今日だって顔を見ただけで昔を思い出しちまって、胸はどきどきだよ。彼女さえいいんなら付き合いたい」
「よし、こっちの話しはまとまった。俺がなんとかしてやるから任せろ、きっとお前に人生最初の彼女を作らせてやる」
どこから来るのか分からないが、大輔が自信満々に胸を叩く。
比喩表現ではなく、大輔は実際に自分の胸をドンと力強く叩いた。
「た、頼むぞ大輔」
智司が縋りつく仔猫のような目で、親友の顔を見ている。
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