フロンティア戦争

リン

第1話 カナン大陸最後の砦

統一暦498年5月12日。異邦人を乗せた灰色の船団がブレトン王国沿岸に現る。


その知らせは瞬く間に大陸中のありとあらゆる地域に伝達された。ある貴族は新天地への領土欲を抱き、ある商人は新たな交易相手との実りのある交易を夢見て。少なくともこの時点では異邦人の船団を問題と認識する人はほとんど存在せず、大陸中の人々も長く続いていた平和の日々に突如として現れた異邦人の話題で持ち切りであり、大陸中が活気づいていたのは疑いようのない事実だった。


カナン大陸。異邦人が現るまでは世界で唯一の大陸であると考えられており、大陸周辺には島々も存在するものの多くの人々が住むには適していない小さな島しか存在しなかった。カナン大陸には多くの人々や様々な種族。そして多くの生物が存在する豊かな大陸であり、まさしく世界そのものであった。


しかし多くの人々を養うことができる豊かな大陸であったカナン大陸は多くの国や種族が入り乱れて暮らしており、大陸の人々にカナン大陸の民であるという国民意識のようなものは存在しなかった。


統一暦0年。カナン大陸の中央に位置する歴史ある都市ミクラガルズがオスト王国によって陥落。


オスト王国によるこの征服はカナン大陸のターニングポイントとなることになる。

この征服以降、オスト王国はミクラガルズを首都とし、四方への侵攻を開始。従属するものには安寧を、反抗するものには武力で制圧し、大陸統一に向かって猛進。


そして統一暦266年10月24日。ミクラガルズ会議の合意によりオスト王国による大陸統一。国号をカナン帝国に改める。


大陸統一以降種族問わず、人種とされる者たちに急速にカナン大陸の民であるという国民意識が普及。

帝国もすべてを直接統治していたわけではなく、自治領や属国という形で連邦国家に近い形を取り統治したことによって、大きな動乱もなく平和な日々を冒頭の時期まで送ることなる。


そして異邦人とのファーストコンタクトは多くの大陸民を裏切って最悪の展開を迎えることになる。


統一暦498年5月15日。異邦人の灰色船団を一目見ようと集まった多くの群衆と、帝都から派遣された貴族など多くの人が見守るなか、午前9時30分頃、異邦人の船団より未知の言語による呼びかけあり。呼びかけられた言葉の内容は不明。港町全域に届くほどの大声だったため、拡声魔術などを用いたと思われる。

それより一時間の間に船団に動きなし。

午前10時30分頃。異邦人の灰色船団(以降灰色船団と呼称)より大砲のようなもので沿岸地域に砲撃開始。この砲撃の内の何発かが集まった群衆に直撃。死者多数。それ以降午前11時30分頃まで砲撃やその他未知の攻撃を沿岸地域に集中的に受ける。

午前11時30分頃。灰色船団より小型船多数揚陸。未知の兵器を装備した多数の兵士が無差別攻撃を開始。

午前12時頃。ブレトン王国王都ラブラドル城塞陥落。ブレトン王家の避難かなわず。ブレトン王国滅亡。


この出来事を異邦人襲来と呼び、これ以降一連の異邦人による侵略行為をフロンティア戦争と呼ぶ。


異邦人襲来から二か月後、旧ブレトン王国王都ラブラドル外壁に集結したカナン帝国軍と異邦人軍の戦闘が発生。

戦力比較。

カナン帝国軍10万人。

異邦人軍不明。目視で確認できた兵数5000人程度。


戦闘結果。カナン帝国の敗北。

損害。

カナン帝国 死傷者6万人。皇帝陛下戦死。

異邦人 不明。死傷者はほとんどいないと思われる。


この大敗によりカナン帝国は機能不全に陥り、ラブラドル決戦と言われたこの戦い以降帝国主導の戦闘は帝都防衛戦を除いてほかになく。

各地域に自警団や、事実上独立した自治領や属国が主導して侵略に対抗するものの各個撃破され、大陸民は異邦人の侵攻から逃れるために大陸の東へと向かうことになった。


そして異邦人襲来から10年の月日が経ったころには、大陸の7割の領土を損失していた。生き残った大陸民は東部最大都市であり大陸民最後の砦であるヴィエナに避難し、そこで異邦人の侵攻に対抗するための設備、制度を整えた。


統一暦509年。オルタ王国成立。正式にカナン帝国の継承国であることと、大陸全土の領土奪還を宣言した。そして1か月後王都ヴィエナにて選定の儀を行い、そこで国王を決定するとした。


異邦人の侵略により、滅亡の淵に立たされているカナン大陸人。種族を超え、思考を超え、今求めるは救世主。敵を殲滅し、失地を取り戻し、大陸に安寧をもたらす強き王。大陸最後の地。この東の大地にて、選定の儀が始まろうとしていた。



「ここが王都ヴィエナか。」

道には人が溢れ、建物は高く、都市は活気に満ちている。

俺が生まれた、故郷を奪われた者たちが暮らす絶望一色に染まりきっている難民キャンプとは大違いだ。

よく見ると鍛えられた武人が多く、3日後に始まる選定の儀に参加するために集まった者たちだろう。


「大丈夫だよ。母上、父上。俺は必ず王になる。そして必ず蛮族どもを一人残らず殲滅してみせる。」


黒いフードを深くかぶり、大通りの先に聳え立つヴィエナ城を睨むこの少年。これは彼がフロンティア戦争を戦い抜くそんな物語。

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