【完結】シスターですが吸血鬼と契っちゃいました!セツナ系ロマンスファンタジー

玉川 駈

プロローグ



 ——男はすでに起きてしまったことを考えた。


 袈裟懸けさがけに切り付けられた刃が肉を裂き、背中の傷口からはまるで溶岩のように熱い液体が流れ出ている。反動でうつ伏せに倒れ込みそうになるが、二、三歩よろめいては膝をついて耐える。

 滴る血が男の生命力を奪ってゆくようだった。


 ——後になって考えてみれば、ああ、そうだったかと思い当たることがいくつもある。


 髭の男が左の肩へ切先を当て、勢いをつけて一気に叩き切る。身体の左側が一気に軽くなった。

 叫び声を上げたくて口を開いても、溢れ出した血がブジュルと間抜けな音を立てて漏れ出るだけだった。


 ——今更、自分を責めても取り返しがつかない。


 見開いた目に映る暗く寂しい夜の闇は、窓の無い牢獄のような威圧感だけがあった。

 倒れた男の眼前に小さな無花果いちじくの苗木が見える。


 花のならない木。

 家に植えると死人が出る、子孫が途絶えると言われる縁起の悪い木——。

 屋敷の主人はどんなつもりでこの木をここに植えたのだろうか。


 生涯最後の呼気には冷たい空気に混ざって、男の届くことのない願いが込められていた。


 ——どうか、私の死に彼女が囚われてしまいませんように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る