好きでもないクラスの地味子に告白されて即日エッチしたらエッチな甘々ラブコメが始まった件
斜偲泳(ななしの えい)
第1話
高校二年の一学期が始まって数週間が経ったある日の事。
佳子とは一年生の頃も同じクラスだったが、話した事は無いに等しい。
だから、放課後に「松永君に相談したい事があるの」と話しかけられた時は驚いた。
人の事は言えないが、佳子は大人しく、地味なタイプの女の子だった。
裕太と同じで友達もあまりいないらしく、休み時間は一人で読書をしているか携帯を眺めている事が多い。
そんな所になんとなく同族意識のような物を感じてはいたが、相談を持ち掛けられるような間柄では全くない。
それでも彼女の頼みを断らなかったのは……。
ハッキリ言えば下心だ。
裕太は冴えない男子だった。
今まで生きて来て、彼女が出来たことはない。
これから先も出来る見込みはないし、それどころか気軽に話しかけられる間柄の女子すらいない。
せっかく共学の学校に通っているのに、男子校に通っているのと同じくらい女っ気がない。
もちろん、いくら相手が自分と同じ冴えない地味子の内田佳子だとしても、そう都合よく甘酸っぱい関係になれるとは思っていない。
相手にだって選ぶ権利はあるはずで、これは本当になにか相談したい事があるだけで、裕太が期待するような事では全く全然ないはずだ。
そんな事は裕太だって重々承知していたが。
悲しい非モテのサガなのだろう。
もしかしたら、万が一、なにかの間違いで、と期待だけはしてしまう。
別に佳子は学校一の美少女とか、クラスで人気のアイドルみたいなイケてるタイプの女子ではない。
可愛くないとは言わないが、他の男子の前で面と向かって持ち上げるのはなんとなく憚られる、そんな事を言ってしまったら、「え~! お前、あんなのがタイプなのかよ! 趣味悪!」とからかい交じりに笑われてしまうような、そういう類の子なのである。
それでも、彼女と同じかそれ以上に冴えない地味男の裕太にすれば、青春とは名ばかりの無味乾燥な毎日を送る非モテ少年の身からすれば、佳子は十分可愛くて、全然アリな女の子だった。
むしろ、みんなが持て囃す美少女だとかギャルなんか、非モテの裕太には恐れ多くて、もしかしたらと夢見る気すら起きてこない。
そんなすごい子はなんか怖いし気後れする。
そういう意味では、内田佳子という女子は冴えない地味男の裕太が夢を見るには丁度いい立ち位置の少女だった。
(まぁ、期待するだけ無駄なんだけどね)
だってそんな事は絶対あり得ないから。
バカな期待を持ってガッカリするなよと自分自身に釘を刺す。
それでもまぁ、これを機に挨拶出来るくらいの仲になれたら上々だ、くらいに思っていた。
同好会の部室は狭い。
縦長の部屋に長机と椅子が数脚あるだけでかなり手狭に感じた。
閉め切った部屋に、佳子の物と思われる甘いシャンプーの香りがしみ出すように広がっていく。
そんな事にすらドキドキしつつ、裕太は窓辺を向いた佳子のアニメキャラみたいに長く伸ばした黒髪を眺めていた。
「それで、相談したい事ってなんですか?」
ゆっくりと、眠たげな顔をした地味子がこちらを振り返る。
(……別に、言う程可愛くないわけじゃないよな)
クラスメイトが彼女に押し付けた『貞子みたいな地味子キャラ』というレッテルを無視してしまえば、そういう他人の評価を無視して、一対一で向き合ってみれば、内田佳子という女子はそう捨てた物ではなかった。
寝起きみたいな仏頂面をしているだけで、目鼻立ちは意外にハッキリしていたし、胸だって結構、いや、かなり大きいように思える。校則通りに制服を着こなしているせいで着ぶくれして見えるだけだ。
「突然で悪いのだけど。私と付き合ってくれないかしら」
「………………ぇ?」
聞き間違いかと裕太は思った。
それくらい、佳子の告白はさり気なかった。
まるで落とした消しゴムを拾って欲しいと頼むような気軽さだ。
それでも裕太の心臓はニトロをぶち込まれたみたいに鼓動を荒げた。
(いやいや、まさか!? 勘違いに決まってる!)
そうとも。
これは多分、行き違いコントみたいなアレだろう。
付き合うと言っても、そういう意味ではないはずだ。
「ダメかしら」
「ダメじゃないけど……。ちょっと待ってね。その、付き合うって、どういう意味かな。もちろん、そういう意味じゃないのは分かってるけど……」
「私の彼氏になって欲しいという意味よ」
「………………マジですか」
「嘘をつく理由があるかしら」
「わかんないけど……。僕の事をからかってるとか?」
「その手の笑えない冗談は大嫌いよ。そんな女に見える?」
「いや、その……見えないけども……。突然だったから……。それに、その、心当たりもないって言うか、僕でいいの? あんまり話した事もなかったと思うんだけど……」
あんなに望んで憧れていた彼女なのに、いざ告白されると嬉しさよりも不安が勝った。
不思議で不審で不気味ですらある。
だってこんな奴、自分だったら絶対好きにならない。
佳子に惚れられるような事をした覚えもない。
まさに寝耳に水といった心境だ。
「そうね。でも、なんとなくは知っているわ。私と同じで友達のいない、休み時間は携帯をいじるか寝たふりをしてやり過ごしている冴えない地味男君。あなたなら、もし断られても言い触らされる心配はない。そういう意味でも丁度いいわ」
「丁度いい……」
なんだか妙な物言いだった。
少なくとも、好きな異性に勇気を出して告白する態度とは思えない。
例えるなら、小遣いの範囲で買える手頃な文房具を見つけたような……。
「えっと、一応確認したいんだけど、内田さんは僕の事好きなんだよね?」
「いいえ、全然」
「全然!?」
ますます話が分からない。
「じゃあ、なんで告白なんか……」
やっぱりこれはイタズラなのだろうか?
困惑する裕太に佳子は言う。
「彼氏が欲しかったからよ」
「はぁ……」
その力強さに気圧されつつ。
「それってつまり、相手は誰でもよかったって事?」
「そうだけど、そうは言っても現実問題として、誰でも彼氏に出来るわけではないでしょう? 私はこの通り、モテるタイプではないわけだし。むしろ非モテの部類だわ。ヒロイン気取りで待っていても告白なんかされっこない。そうしている間にも貴重な青春は過ぎ去って、気が付いたらもう高校二年生よ。松永君なら私の気持ち、わかると思うのだけど」
「いやまぁ、わからなくはないけどさ……」
分かってしまう自分が悲しい。
実際、先程まで似たような心境ではあったのだ。
話した事なんか殆どない、別に好きでもなんでもない女子とのもしかしたらに期待して、のこのこ部室までやってきたのは自分である。
「やっぱりね。松永君なら分かってくれると思ったわ。あなたからは私と同じ臭いがする。青春に飢えた日陰者の陰気な臭いが」
「嫌な臭いだね……」
「私としては褒めたつもりよ。ついでに言えば、私なりに精一杯相手を選んだつもりなの。ルックスだってそれほど悪くはないし。カッコいいとは言えないけど、ブザイクではない。素朴と言うか、愛嬌のある顏かしら。女子が持て囃してるようなモテるタイプはなんか怖いし。その点松永君はお人好しが顔に出ているというか、いかにも人畜無害って感じで安心だわ。そういう所も丁度いい」
「全然褒められてる気がしないんだけど……」
「でも、松永君だって似たような事を思っていたんじゃない? 私くらいなら、恋人に丁度良さそうだって」
「そんな事は……ないですけど……」
もごもごと言う裕太を見て、佳子は皮肉っぽく笑った。
「嘘が下手ね。でもいいの。上手なよりはずっといい。それに、その程度の下心もないような相手だったら罪悪感が芽生えそうだし。私は松永君の事を好きじゃない。好きだと言える程あなたの事を知らないわ。なんにも知らないと言った方が正しいくらい」
「……でも、僕達付き合うんだよね?」
「えぇ。彼氏が欲しいから。彼氏がいないと出来ないあんな事やそんな事がしたいから。松永君もしたいでしょう?」
ねっとりと、舐めるように佳子が視線を絡めて来る。
したくないと言ったら嘘になる。
それこそ、大嘘つきになってしまう。
だから言った。
「……したいです」
「正直でよろしい。これで松永君は私の彼氏。私は松永君の彼女よ。好きとか愛とか、私にはよくわからないのだけど。それは今後に期待しましょう。それよりも、私達には時間がないわ。高校生活ももうすぐ折り返し。これまでの分をたっぷり取り返してやらなくちゃ」
やる気満々の佳子を見て、なんだか裕太は嬉しくなった。
別に佳子は裕太の事を好きではない。
裕太も佳子の事は好きではない。
それでも、お互いに付き合う事には前向きだ。
それは間違いのない事実だろう。
上っ面の打算でも、エロ目的の下心だとしても、そこには確かに好意がある。
僅かでも得難い、異性からの好意が。
それだけで裕太の胸はドキドキした。
なんなら今この瞬間にも、佳子の事をある程度好きに成ってきている気さえする。
(だとしたら、随分現金な話だけどさ)
人間なんてそんなものかもしれない。
「それじゃあ、どうする? 折角だし、一緒に帰ったりしてみる?」
出来れば手なんか繋いじゃったりして。
早速欲が出て来るが、初日にそれは欲張り過ぎか。
なんて思っていたら。
「そうね。折角だから一緒に帰りましょう。そして私の家で処女と童貞を卒業するっていうのはどうかしら」
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