第7話 彼氏に浮気されない方法――相談⑥ 姫川 杏

 「せんせ~! 彼氏に浮気されない方法を思い付いたから聴いてくれる?」


放課後の空き教室で待機中、姫川ひめかわあんさんが入って来てからそう言った。もう思い付いたのね…。


「その方法は穏便なのかしら?」

この間の“他の女にデレデレしたらぶっ飛ばす”がずっと気になってるのよ…。


「当たり前じゃん!」

彼女は私の前にある椅子に座ってから、自信満々に答える。


本当かな? 不安しか感じないのは私だけ?


「その方法は…、『彼氏にパンツをプレゼントする事』よ!」


「パンツをプレゼントする?」


「そう。あたしがあげたパンツを穿く彼氏は、あたしにちん○をロックオンされてるのと同じ。そんな状態で他の女に手を出すはずないわ!」


既婚者もしくは結婚直前ならともかく、高校生が異性に下着をプレゼントするの?

最近の子は私の予想を簡単に超えるわね…。


「姫川さん。浮気って、に入る前にするものじゃない? まーくんの三股だって、キスの時に分かったんでしょ?」


彼氏が浮気相手の女性に下着を見せる時点で手遅れなはず…。


「甘いわね先生。そのあたりはちゃんとわかってるわ」


つまり“二重の対策”をするって事ね。何をする気かしら?


「あたしがいない時、彼氏にはあたしのキスマークが付いたマスクをずっと着けてもらうわ。ビッチじゃなきゃ誘ってこないでしょ!」


同感なものの、キツイ束縛よね。日常生活に影響を与えるんだから。


「あいつはチャラ男だったからマスクなんて付けないタイプだったけど、陰キャなら付けてくれるわよね? あたしだって、これでも一生懸命考えたのよ?」


今の言葉を聴いて違和感を覚える。


「姫川さん、大人しい男子がタイプなの?」

どっちかというと、活発というか明るいタイプが好みかと…。


「別に? あたしのタイプは“浮気しないイケメン”だから。陽キャとか陰キャはその次ね」


姫川さんはプライドとこだわりが強いわ…。彼氏になる人は大変そう。


「でさ~。彼氏にあげるパンツは何が良いと思う?」


「それは彼氏に直接訊いたほうが…」

好みは人それぞれだからね。


「ヤダ! 好みを訊く前に渡す事に意味があるんじゃん! 『杏は男心がわかってる最高の彼女だよ!』とか言われたいし~♡」


この流れはマズイ。男性と付き合った事がない私が、好みの下着なんてわかる訳がない。どうやってごまかせば良いの…?


「先生の彼氏はどんなパンツ穿いてるの? “穿?”って訊くべき?」


別れたのを想定した発言ね。でも悪いけど、その気遣いは無駄なのよ…。


「先生ほどの大人が、Hする前に別れたりしないよね?」


えっ? Hしないで別れるのはあり得ない事なの? このままとボロが出るのは時間の問題ね。仕方ないから適当に言おう!


「私の彼氏は…“ボクサーパンツ”を穿いてたわね」


「あれか。トランクスと違って股間がモッコリしやすくて大きく見えるから、あたしは好き♡」


「彼氏もそう言っていたわ。『は大きく見せたい』って」


「それが男心ってやつね。早速ボクサーパンツ買ってくるわ! 先生ありがと~!」


姫川さんは教室を飛び出して行った。



 ようやく終わった…。私は椅子に座りながら伸びをする。時間的にもう1人相談に乗れそうだけど、疲れたから止めよう…。


姫川さんの相手は予想以上に大変だわ。考え方の違いは学びには有意義なものの、肉体・精神両方の負担になる。


無理をしないように校長にも言われているし、これで良いわよね。私は空き教室を施錠した後、職員室に向かう…。

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